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乞食豚回顧録  作者: 早漏軒 法渓珍法老師
10/13

その10 ~クリスマスと大晦日

12月に入ると拘置所の単独房は冷えてくる。

暖房設備も無いので収容者は外に出るような防寒着を着用したりして寒さと霜焼けに耐えている。


娑婆ではクリスマスムード一色で栄や錦の店舗ではクリスマスのデコレーションを施し、大勢のカップル連れが街を練り歩く光景があちこちで見られた。


クリスマスイブになると拘置所でも夕食が少し豪華になる。

骨付きのフライドチキンやナポリタンスパゲティ、そしてクリスマスケーキが出されたのだ。

普段が典座顔負けの質素な献立なので心待ちにしている収容者が大半である。


だが死刑確定者は年末の「仕事納め」まで毎日死の恐怖に震えなければならない。

仕事納めの日や前日に刑の執行が有った事例もあるからだ。

仕事納めの日が過ぎれば正月三が日まで執行は無い。確実に生きられるからだ。


及川はクリスマスの特別献立を貪るようにして食べ散らかしていた。

完全に人間としての最低限の尊厳すら自ら投げ捨てている及川は萎える事の無い性欲と餓鬼のような食欲のみで生かされている。


特別にクリスマスカードも10枚まで出せるのだが及川は出す相手も出すつもりも無い。

自慰行為に耽るか「鬱だポン、寂しいポン、ヤりたいポン」と抜かすのみである。


及川にとってクリスマスイブはカップルがラブホテルで性行為に耽るモノだ、と言う認識でしかないが拘置所ではクリスマスにはカトリックかプロテスタントの聖職者がやってきてクリスマスに関する説教をしてくれる。

実際にクリスマスはキリストがこの世に生まれた日であるから、キリスト教では宗派関係なくこの日を大切にする。


クリスマスが過ぎればあと3日刑務官から「お迎え」が来なければ除夜の鐘を聴くことが出来る。


12月28日、仕事納めの日。

朝9時前の「お迎えタイム」を何事もなく過ぎていき、及川以下死刑確定者は除夜の鐘を聴くことが出来る事なった。


31日の大晦日。夕食に別枠で年越し蕎麦と言わんばかりにカップ蕎麦が出された。

もちろん熱湯も配られて年越し気分を味わいながら蕎麦をすすっていく収容者達。


時間になると房内のスピーカーからは問答無用で紅白歌合戦が流される。これは昭和の時代から変わらない。

紅白歌合戦が終わると「ゆく年くる年」が流れて午前0時半に消灯となった。


4日から新たな1年を及川以下死刑確定者は死の恐怖に震えながら過ごす事となるだろう。

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