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常闇の地底列車  作者: たけどらの民
第1章 『天空のツリーハウス』
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1-9 複雑ポーカーフェイス

「地下に行ってもらう為に、君には地下の情報……そうだね、主に擬人たちについて教えてあげようじゃないか」


「なっ……まだ、行くとも何とも言ってない!」


「言ったろう? 君には役目がある。『人』である君ならば、擬人たちを……きっと救うことができる」


 勢い任せにどの様な質問をぶつけてみても、徹浪は軌道が『人』であることしか告げず、地底へ送り込むとしか発言しない。

 命を助けたいから、人。

 探求心が強いから、人。

 君ならできる、何せ人だから。

 僕は人ではないから。

 人としての新鮮を知らない君だから任せられる。

 ――地底へ行くまでの協力は惜しまないと約束する。

 先程から徹浪はそんなことしか言っていない気がする。押し付けがましいにも程があるというものだ。

 そんな勧誘文句に、恐怖と不安を覚えずに何を覚えろというのだろうか。


「……俺の意見は曲げない。聞いた話の上での意見は……あんたも指摘した通り、身勝手で、わがままな意見だ。『擬人の命を助けたい』……だが、俺はその場所がどんな場所で、どうすれば救えるのかわからない。どうやって生きていけば良い? 何に頼れば良い? 社長さんの狙いは何だ? 俺なんかを送り込んだところで……そう、そうだ、何も変わらないはずだ!」


「こうすれば救える。ああすれば生きていける。この人に頼ればいい。狙いは、世界平和。君が行けば、地下は間違いなく良い方向へと舵を向ける。――もっと具体的に知りたければ、地底の旅へ出掛けると宣言した方がいいね。バックアップなら、任されてあげるよ」


 畳返されるように跳ね返ってきた思惑の数々に、軌道は絶句する他ない。

 この社長は、狙って言っている。軌道だから、言っている。

 軌道の人間性を見抜いた――とは少し違う。

 ――軌道に、圧倒的な期待を抱いている。

 その期待に応えられるかはわからない。まだその決意も固まっていないし、その期待の意味も知るわけがない。


 しかし、それでいて徹浪も態度は曲げない。軌道を地底に送る、今はただその目的を達成するために動いている。

 つまり、さっき言っていた『擬人のことを教える』というのは軌道に向ける特典のようなものなのだろうか。

 地下へ行かせるための、予備知識として伝える――そう考えれば納得はいく。


「君の思惑は大体把握してるよ。『自然が少ない、いつ帰ってこれるかもわからない地下になんて行きたくない。けれど興味と、擬人を助けたいという想いはある』……って感じかな。それで良いさ、良いとも。さて、これは困ったね、どっちを取ればいいのか……『自分可愛さと自己満』、そして『探求心と思いやり』。だが安心してくれ、君に選択肢は用意されていない。後者ルートを、強制的に歩まさせるよ」


 それがさっき言っていた『退社特典』の意味だとでも言いたげな表情で、徹浪はニヤリと笑う。

 軌道はマルチソルジャーの社員だ。一応今もそうだが、辞表は突きつけた。もうすぐ晴れて退職できる……と思った矢先に『地底へ行ってくれ』。それは地上での仕事━━奉仕作業が出来なくなる代わりに、地下での仕事、役割を遂行しろと――とんだ『入社特典』である。受け取りたくない。


 『本当の社員』というのも、ある程度の想像はつく。おそらく主要な擬人のことだろう。

 だが、今の軌道はたった一単語、『思惑』という言葉に取っ掛かりを覚えた。

 おそらく、それは――、


「俺の、思惑……ああ、そうかもしれない。多分、おおよそはそれだよ。自分でもわからない。言われてもなーんか実感ないが……興味があるのは、そうだと思う。けど、地上に残ることを選んでも、それは俺の『自分可愛さと自己満』になりはしねぇ」


「その真意は?」


「――約束、だ」


「……これ以上追及するのは止めておこうか」


 その言葉の意味の探求を避け、首を軽く傾げながら、徹浪は口笛を吹いた。指パッチンに続き、何かと耳障り。

 耳障りなのだが、徹浪が猫を被っておちゃらけてくれるサインでもあると、軌道はわかっていた。だからこその、少しの安堵とため息。

 そんな仕草も、態度も、全て組みたがりな徹浪の掌の上のことだったとすれば。

 それは、とても恐ろしいことだった。


 しかしそれが軌道が諦める懸念材料、決定打になることは、ない、はずだ――。

 徹浪はあと一歩かと話を縮めにかかってくる。

 だけど、少し、好奇心が、少しの好奇心が働かないように、注意して耳をすまして、


「では、少し出遅れた感は否めないけども、擬人のことを話すとしようか。……擬人は大樹が現れる少し前からも、少数だけだがボロボロの地下に存在はしていた。もちろん明かりもない、空気も悪い、環境も何もなかったんだと思う。ただ、遠く昔に廃れた街と、錆びた列車があっただけでね。……そんな時代から、擬人は生まれていたのさ」


「聞くだけは聞くが……一応言っておく、俺は地下へは行かない。……あんたは強制的に連れてくって言うから、言うだけ言って、言ったっていう大義名分だけは貰っておく」


「おや……心変わりが早いようで助かるね。流石は同類かな?」


 心変わりとはちょっと違う、気がする。

 今の軌道の中の感情は、複雑と難解を極めていた。

 徹浪に折れた?

 いや、違う。仕方なくだ。

 助けるため、地底に行くための、何か切っ掛けが必要だった。

 心の中で縛り付けられている『約束』を破りたくはない。

 けどその『約束』を守るためには『地下に行く』しかない。

 乗せられた? 違う。

 徹浪に言いくるめられた訳じゃない。

 これは『約束』を守るため。

 どちらかを守ろうとすれば、どちらかを切らなければならない、それだけのことだ。



 ――つまり、徹浪に折れてしまったことについて心の中で精一杯言い訳をしていた。


「話を続けるよ。複雑な顔も、ちょっとは治まったみたいだしね」


 難しい顔で葛藤していたことを、当然目の前にいる徹浪も知っていた。

 さっきは口であんなことを言ってしまったが、絶対に、こいつにだけは折れたことを悟られたくなかった。

 軌道はきっと、何度でも言い訳する。『約束』が、彼を縛り続けているのだから。

 幸いなことに、まだそれについては勘づかれてはいないらしい。これは推測だが、徹浪のことなのでわかっていそうな気もする。

 理解したことを表情に出してこないだけマシだと思っておこう。


 ――さあ、話せ。興味という後押しに押された、俺の表情は読ませない。

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