表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

05.ファーストコンタクト

 ネズミをすべて退治する作業が終わった。

 女性はナイフや弓を巧みに操って華麗にネズミを倒していた。

 ただ不思議なのは、死んだネズミから回収できる時空粒子エネルギーがすべて俺のところに来ていることだ。


――普通の人間ではこのエネルギーを活用できないのでしょうね。マスターの体だからこそ回収できるのでしょう――


 そう言われると、俺がほぼ人間でなくなったようだな。


――申し訳ありません、気分を害されましたか?――


 いいや、この体だからこそお前と会話で来ているし生き延びることもできている。

 どちらかと言えばありがたいさ。


――それなら良かったです。私もマスターと同化したこの状態をとても楽しんでいますから――


 ああ、今まで通りよろしくな。

 さて、それではこの世界の人間と初コンタクトだ。

 さっきは慌てて何も思わなかったけど、日本語話してたよな。

 一応ホープに確認しておきたいんだが、ここが異世界で俺がいつの間にか言語を理解しているっていうご都合主義展開じゃないよな?


――ご安心ください。間違いなく日本語です――


 それなら安心だ。

 話しかけてみようとしたら、彼女の方から話しかけてきた。


「ネズミがやけに強くなっててびっくりしたけど、あなたすごい武器たくさん持ってるんだね。木の上でなにか作っていたようにも見えたけど、錬金術師なのかな?」


 そういった彼女はフードを脱ぐ。

 中から現れたのは可愛い顔立ちの女の子だが、頭に猫耳がついている。

 いろいろ言われつつ、予想外の光景を見せられたせいで俺は立ち尽くしてしまった。


「えっと、どうしたのかな? 言葉通じるよね?」

「あ、ああ。うん……。ちょっと頭が混乱しててな」

「え? 頭でも打ったの? 大丈夫かな」


 なあホープ、この世界の人間は独自の進化でもしてるのかな?

 日本語を話してるけどここは地球じゃなかったりするのか?


――あの猫耳は飾りでなく本物のようですね。先ほどのネズミのような存在を考えれば、人間にも多少の変化はあるのかもしれません。しかしマスターの姿を見て普通に接しているということは、人間にも様々な種族がいると予想できます――


 そうか、俺のように普通の容姿の人間もいるってことだよな。

 しかし改めてみると可愛いな、猫耳少女。

 栗色のふわっとした髪が肩まで伸びている。

 顔立ちは一応日本人っぽいかな?


――萌えというやつでしょうか? それよりマスター、コミュニケーションを取りましょう。このままではあなたは不審人物です――


 それもそうだな。

 しかし何から話したものか。

 なんとかこの世界の情報を引き出したいが、いきなり聞いても怪訝な顔をされるだろう。


――こういった場合には定番の方法があります。記憶喪失の振りをするんですよ。私がたくさん読んだ物語でも、異世界に行った主人公はそうやって切りぬけていました――


 ううむ……それでいってみるか。


「実は俺、なんでここにいるのか……何をしているのかよくわからないんだ」

「えっ? てことは記憶喪失?」

「そうかも……」

「なるほどなるほど」


 何故かあっさりと納得してくれている猫耳少女。

 話の展開が早くて助かる。


「だから躊躇なくネズミを倒してたんだね。倒せば倒すほど危険な要注意モンスターなんだから、知らないはずないもんね」

「あのネズミを倒すとそんな危険なのか?」

「そうだよ、説明しておいてあげるね。あ、お話しながら戦利品回収しようか」


 俺と猫耳少女はネズミの皮やしっぽを集めつつ、ネズミの特性を教えてもらった。

 どうもあのネズミは子分倒すとボスがどんどん強くなるらしい。

 しかも、子分の死因によって耐性がついていくとのことだ。

 だから俺がレーザーガンで子分を倒しまくったことでボスが超巨大化していた上、レーザーガンが効かない体になっていたわけだ。


――ある程度予想通りでした。弓矢が効いていたのを見て、ボウガンを作っていただいたのです――


 なるほど、さすがホープの分析力だ。


――いいえ、こないだ読んだ物語にそんなモンスターが出てきたのですよ。ファンタジーの知識も役に立つものです――


 ファンタジー知識か……。

 相変わらず非科学的なことを言うAIだな。


――では真面目に言いますと、ボスと子分の間には時空粒子によるつながりが見られました。子分が集めたデータをボスにフィードバックしているようでしたね。そのうちあのネズミを研究したいです――


 ふむ、あいつらを研究すれば時空粒子についてもいろいろわかりそうだ。

 それにボスが強くなるのを防ぐ手段も見つかるかもしれないな。


 さて、ホープとばかり会話しているのもよくないな。

 とりあえず名前を聞こう。


「えっと……名前を聞いてもいいかな?」

「わたしはフィリーだよ。あなたは? あ、名前も覚えてなかったりする?


 俺の名前は結城統也。

 記憶喪失は嘘なんだからもちろん覚えている。

 いや、記憶喪失でも名前だけは覚えてることってあるはずだよな。

 とりあえず名乗ろう。


「俺の名前はトーヤ……のはずだ」

「トーヤか。名前は覚えてるんだね。あ、戦い方もわかってたんだしそういうことは覚えてるのかな?」

「どうもそうらしい」

「さて、これで戦利品は全部だね。山分けでいいかな? あなたのほうが活躍はしてたけど、お互い助け合ったってことでささ」


 うーん、所詮雑魚の戦利品だからなあ。

 ここは譲っておいて情報をもらおう。


「いや、全部持って行っていい。その代わりいろいろ教えてほしいんだ。迷子にもなっているんでな」

「え? でもこのネズミってすぐに狩られちゃうから結構いい金額で売れるんだよ。まあここから出られないと意味ないか。じゃあ仕事が終わった後で街まで案内するね」

「助かる。街は近いのか?」

「このダンジョンを出て6時間くらい歩いたら着くよ」

「ダンジョン?」


 なんだかわからない言葉がどんどん出てくるな。

 記憶喪失の振りはしばらく続ける必要がありそうだ……。


「あ、ダンジョンのことも忘れてるのかな? でもそうだよね、このダンジョンって外と変わらない景色だもんね。洞窟だったり遺跡のダンジョンが一般的なんだけど……」

「ふむふむ……」

「口で説明しても難しいよね。脱出の時にわかるよ」


 さっぱり意味がわからないが、百聞は一見にしかず。

 今は気にせず、お供させてもらおう。

 フィリーは説明をしながら戦利品をかばんに詰め込んでいた。


「あ、魔法石がある……。でもこれ見たことあるやつだしはずれだなあ」

「魔法石?」

「これだよ。みんな持ってるようなやつだからお金にならないし、ほしいんならあげるよ」

「ああ、ありがたくもらうよ」

「火の魔法が身につくよ。記憶にないだけで、もう習得してるんじゃないかな?」


 魔法のある世界なのか……?

 とりあえず左手に握ってホープに解析を頼む。


――了解しました。マスター、世界崩壊前にお話したことが叶いそうですね――


 ああ、魔法を科学的に分析するってやつか。

 気になるからぜひ解明してくれ。

 なんとなくこれも時空粒子が関係してるんだろうがな。

 あ、魔法の覚え方を聞いておくか。


「魔法の取得ってどうやるんだ?」

「それを持って念じれば体の中に吸い込まれていくはずだよ。あとは使い方が頭に思い浮かぶの」

「なるほど……」


 体内に埋め込むか……。

 もしかして俺の体内に研究所やホープが入っているのも同じような原理か?


――その可能性もありますね。解析が終われば魔法を習得してみましょう――


 そうしよう。

 さて、フィリーは仕事があると言っていたな。

 それを俺も手伝えば早く街に行けるな。


「その仕事ってのは何をするんだ?」

「えっとね、ここってつい最近発生したダンジョンなんだ。だからその調査だね。あとさっきのネズミを退治しておくのも仕事の1つ。放っておくとすごい凶悪なモンスターになっちゃうんだ」

「なるほど、俺にも協力させてくれないか。早く街へ行ってみたいんだ」

「うん、じゃあここについて知ってることがあれば教えてほしいな」


 俺は今まで見た景色を簡単に説明しつつ、海に囲まれていることを伝えた。

 高台を作って見渡したと言うと、ぜひその高台を使いたいと言われたのでこれから案内することになった。


「わあ、ここからでも見えるくらい高いんだね。あなたが作ったの?」

「ああ、工作はちょっと自信があってな」

「工作ってレベルじゃないよ。記憶をなくす前のあなたって凄腕の錬金術師だったんじゃないかな? さっき使ってた武器も見せてほしいなあ」

「ああ、いいぞ。ところで錬金術師ってのはなんだ?」


 フィリーは俺が渡したボウガンを興味深そうに眺めている。

 錬金術と言えば石ころを金に変えようとしたり、不老不死の薬を作ろうとしていたイメージがあるな。

 それは叶わなかったが、科学の元になるものもあったとか。


「錬金術師は魔法でいろんな道具を作りだす人のことだよ。あなたもさっき木の上でこれ作ったんでしょ? そんなことできるのは錬金術師だよ」

「ああ、そうだけど結構遠くにいたのによく見えたな」

「わたし目と耳、あと鼻もすごくいいんだよ」


 猫耳を可愛くぴくぴくさせながら答えるフィリー。

 なんだか触ってみたい誘惑に駆られる。

 じゃなくて……魔法で道具を作りだすか。

 俺の場合は魔法ではなく、体内のハイテク作業場をフル活用しているだけだが。

 あれもはたから見れば魔法にしか見えないか……。


 そうしている間に、俺の作った高台に到着した。


「じゃあ登ってみるね」

「ああ、気をつけてな」

「高いところ好きだから大丈夫だよ」


 そう言って登っていくフィリー。

 木登りもそうだったが、まるで猫のように軽やかな動きだ。

 さて、しばらく待つかな。

 

 最初この高台に登った時は無人島と思って絶望したが、なんとか脱出できそうだ。

 偶然フィリーと出会えてほんとによかったな。

 街に連れて行ってもらえば、この世界についてもっといろいろわかるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ