28.誤算
次の日、ホープから体を返してもらった俺はベッドで目覚めた。
朝食を食べて、部屋で打ち合わせを開始する。
しかし、何故かフィリーの様子がおかしい。
「フィリー、どうかしたのか?」
「え? だって昨日さ……えっと……覚えてないの?」
「俺なにかしたか?」
昨日はホープに体を貸していたので覚えているはずがない。
おい、何をやった?
ホープは寝ているのか、何も答えてくれない。
「トーヤさんって酒癖悪いみたいですね。酔ったからって女の子の部屋に来ちゃだめですよ。わたしがいたからいいものの、いなかったら間違いが起きてたかもしれませんよ」
「わたしは別に良かったけどなあ……」
「俺酔ってたのか?」
「はあ……トーヤさんはお酒を飲まない方がいいみたいですね」
おいホープ、寝た振りは終わりだ。
説明してもらおう。
――すみませんマスター……。お酒がどのようなものか飲んでみたくて飲んだのですが、その後思考回路に変調をきたしてしまったようです――
まったくなにをやっているんだか……。
まあいい、次からは気をつけてくれ。
――こんな私に次のチャンスをいただけるのですか。ありがとうございます――
間違いは誰にでもあるさ。
むしろお前の間違いを初めて見ることができて嬉しいくらいだ。
とりあえず女性陣に謝っておこう。
「フィリーにリズ。すまない……。酒はもう飲まないようにするよ」
「いえ、飲みすぎなければ大丈夫ですよ。それにわたしもそんな怒ってないですから。トーヤさんの本音を聞けて楽しかったですし。ね、フィリー」
「うん。えへへー」
ホープは何をしゃべったんだか……。
聞くのは怖いから聞かずにいよう。
「では作戦の打ち合わせをしようと思う」
「うん、何でも言ってね」
「3人に頼みたいのは……」
俺は昨日ホープと立てた計画を3人に話した。
計画の実行は早朝、日が開ける直前だ。
その時間が一番人が少ないみたいだったからな。
そして下見をして、作戦開始の時を待つ……。
午前3時……いよいよ計画がスタートだ。
沙耶がいる神殿の門番が交代したことは確認した。
そいつらの元へ姿を隠して近づき、時を止める。
リズに外の見張りを任せ、中へと侵入だ。
「トーヤ、あの人たちに何したの? わたしの魔法で眠らせるんだと思ってたよ」
「フィリーの魔法で眠らせると体に傷をつけちゃうからな。ちょっと動きを止めたんだよ。体に害はない」
「そっか、すごいなあ」
「さて、少し作業をするから見張っていてくれ」
「うん」
まず核ミサイル制御装置のコントロールを俺のものにしよう。
パスワードはもう判別できているし、ホープに任せるぞ。
――はい、少々お待ちください――
俺は待つ間、医療カプセル内にいる沙耶の姿を眺める。
もう少しで助けることができるはずだ。
あ、しかし何故制御装置とつながっているかについては謎のままだったな。
これもホープが調べてくれているだろうか。
――制御装置のコントロールが可能になりました。沙耶様ですが、制御装置とつながったのは偶然でしょう。しかし、その偶然を利用して沙耶様が制御プログラムを書き変えたらしき痕跡があります。そのおかげでミサイルはずっと停止したままなのでしょう――
そうか……沙耶のおかげで俺はここにたどり着き再開できたんだな。
そうすると沙耶には意識があるということか?
――いえ、沙耶様の時は今停止しているようです。ミサイルと共に自身の時も止めたのではないでしょうか。きっとマスターが目覚めさせる時を待っているのですよ――
ああ、そう思いたいよ。
それでミサイルは止められそうか?
――制御は問題なくできます。ただ……ひとつ気になることがあります。沙耶様が残したメッセージだと思うのですが、時を動かしてはならない……と――
時を動かしたら大変なことになるのは間違いないが……わざわざメッセージを残すのが気になるな。
だが、俺とホープで立てた計画に問題はないはずだ。
このままいくぞ。
――はい、私も同意見です。確実に助け出しましょう。ではまず時が動き出した瞬間に機能停止命令を出すように致します――
よし、次はミサイルを減速させなくてはな。
制御装置とミサイルに時空粒子による繋がりがあると予測していたがどうだ?
――マスターの予測通りです。制御装置を介してミサイルの運動エネルギーを消しましょう――
そうだな、ではディルに手伝ってもらおう。
「ディル、打ち合わせの通りに頼む。ここに手を触れた状態であのミサイルの動きを止めるよう魔力を使ってみてくれ」
「はい。でも僕にそんなことができるのでしょうか?」
「大丈夫だ。いつものようにやってくれればいい。あとはホープがなんとかしてくれる」
「わかりました」
――ディルさんのおかげで予定通りにいけそうです。もう5分程お待ちいただけますか――
よし、これも問題無しか。
あとは減速したミサイルを俺の体内に取り込むだけだな。
リズと一緒にミサイルまで飛ぶことで、空中にある状態でできるはずだ。
「ディル、ありがとう。ではリズと見張りを交代してきてくれるか」
「わかりました」
「そしてフィリー、予定通り一番重要な仕事を任せたい。合図と共にここのスイッチを押してほしいんだ」
「うん! 任せといて」
俺がリズと空を飛んでミサイルの前まで行った瞬間に、フィリーにミサイルの停止した時間を進めてもらう。
それでミサイルの脅威は消えるはずだ。
あとはそのまま沙耶を医療室ごと俺の体内研究所に取り込んでしまえばいい。
「トーヤさん、来ました。魔力も満タンなのでいつでもいけますよ」
「ああ、ではお願いするよ。フィリー、ここは任せたぞ」
「うん! ねえトーヤ、成功したらわたしもそうやって抱きしめてくれる?」
「え? あ、ああ……」
「わーい」
俺はリズの魔法を制御するためにリズに抱きついているわけだが……ついでにおかしな約束をさせられてしまった。
まあいいよな……ホープ。
――許可しましょう。では始めましょうか――
リズの魔法を制御して、ジェットエンジンでミサイルに向かって飛びあがる。
タイミングの指示はホープに任せたぞ。
――フィリーさん、カウントを開始します。0で押してください。3、2、1……―
――押すよっ!――
その瞬間ミサイルがじわじわと動きだし、俺の体内へと取り込まれていった。
これで成功か?
体内倉庫の様子はどうだ。
――かなり荒れてしまいましたが、問題はありません。このまま解体作業を始めます。では地面に戻りましょう――
よし、俺は沙耶はいる医療カプセル回収作業をするよ。
地面に戻りリズを離すと、フィリーが嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「トーヤ、無事成功したね。おめでとう」
「ありがとうフィリー。みんなのおかげだよ」
「これで女神様を助けられるの?」
「ああ、これから助ける」
俺は沙耶のいる医療室部分に手を当てて念じる。
もともと研究所にあったものだし、俺の体内で元の位置に戻せるだろう。
――そうですね。では取り込みを開始します――
医療室は沙耶と一緒に俺の体内へと消えていく。
よし、これで全て解決だ。
ビビーッ! ビビーッ! ビビーッ!
安堵したところで、いきなり警報のようなものが鳴り始めた。
これは制御装置からだろうか?
「ど、どうしたんだろう? トーヤ?」
「わからん、すぐ調べてみる」
ホープ、何が起きているか調べてみてくれ。
――とりあえずうるさいので警報を停止させますね。……おや? 制御ができません。マスター! 上空を見てください――
上空を見ると、なにかが空中に現われようとしていた。
あれはまさか……核ミサイルの先端?
しかも4つだ……。
――どうやらそのようです。迂闊でした……。制御装置が敵に奪われた時を想定したトラップのようです。しかし……あのように空間にミサイルを隠す技術などいつの間に開発されたのでしょう――
それも気になるが、今はあれを何とかしないと……。
あのミサイルはこの制御装置のある地点を狙っているようだな。
だがいったいどうしたら……。
――マスター、ひとつだけいい方法があります。私にお任せください――
どうするつもりだホープ?
そう考えていると、俺の体から何かが飛び出してきた。
この見慣れたロボットは……ホープなのか?
そしてホープが体に抱えているものは……。
『マスター、実は外に出る方法は少し前に見つけていたのです。どこかで驚かせようと思っていましたが、それができなくて残念です』
「それよりホープ、お前が持っているものはもしかして?」
『はい、以前見つけた小型の核爆弾です。これを爆発させ、ミサイルの威力を中和させます』
「そんなことが可能なのか?」
『はい、時空粒子の研究も進みましたので可能なはずです。説明する時間はありません。さっそくいこうと思います。リズさん、少し飛ぶのを手伝ってください』
「え? は、はい……」
状況が飲み込めずに唖然としているリズだったが、ホープに抱きしめられて魔法の発動を開始したようだ。
『少し痛いかもしれませんが、我慢してくださいね』
「え? きゃあああ!」
リズと一緒に飛びあがるかと思いきや、リズが地面に叩きつけられるようにしてホープだけが飛びあがった。
器用なことができるんだな……。
俺も展開の早さに戸惑っていたが、少し冷静になってきた。
ホープはまさか死ぬつもりか?
『マスター、お別れです』
「ホープ、待て! お前がいないと俺は……」
『沙耶様のことをよろしく頼みましたよ』
そのままホープは……ミサイルと共に消えていった。
爆発音も何もなく……ただ消えてしまったのだった。




