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22.兵隊アリ

 アリの巣ダンジョンをゆっくりと進みながら、時折現れるアリを倒していく。

 かなり入り組んでいるため、ディルのマッピングかホープがいなければ俺は迷子になっているだろう。


「フィリー、もうすぐ地図のできていない場所になるよ。ゆっくり移動してくれるかな?」

「わかった。マッピングお願いね」

「それにしても綺麗な地図を書くんだな」

「ディルはこういうのが得意なんですよ」


 なかなか細かく描かれたマップだ。

 ホープが作って俺の脳内に表示してくれているマップとほとんど変わらない。

 距離までしっかり把握できているとはすごいものだ。


「これはなにかしら魔法を使っているわけじゃないんだよな?」

「はい。獣人はなにかしらの感覚が優れていることが多いんです。僕は運動が苦手な代わりに、距離感や方向感覚がいいんです」

「そうか……」


 わりと動けていたように見えるのだが、獣人の中では鈍い方なのだろうか。

 獣人って優秀だな。

 進化した感じなのだろうか?


――そうかもしれませんね。科学技術に頼らず生きていくために進化した。私はそう思いたいです――


 そうだな……。

 あの核戦争を体験した後ではそう思いたくなる。

 あの核ミサイルを早く消したいものだ。


「あ、そうだ。まだ見たことないんだけど、ある程度進むと強めのアリが出てくるらしいから気をつけてねフィリー」

「わかった。さらに大きかったりするのかな?」

「なんかね、今まで戦ってたのは働きアリらしいの。戦闘向けの兵隊アリがいるらしいよ」

「そっか……ちょっと怖いね」

「いざとなったら魔法で防げよ。魔力を回復させる道具なら作るからな」

「うん、ありがとねトーヤ」


 フィリーの素早さなら大丈夫とは思うが、ナイフが効かない敵だったら危ないからな。

 兵隊アリって名前からして強そうだし。


「あ……今までと違う気配が来たかも。ここで待ち伏せしようか」

「わかった」


 狭い通路ではあるが仕方がない。

 ナイフを構えて待つフィリー。

 俺が前に出ると言えないのが情けないところだ……。

 ホープ、いざとなったら俺の体を無理矢理動かしてでもフィリーを助けてくれよ。

 考えてみれば俺もバリアを持ってるんだから。


――了解しました。ただ性能としてはフィリーさんのバリアの方が数段上ですからまず大丈夫と思います――


 そうか、フィリーはいい魔法石を手に入れたものだ。


「きた……。私が戦ってみるね」

「ああ、慎重にな」


 今までのアリより一回り大きいアリがいた。

 フィリーはこれまでと同じように素早く斬りかかる。

 だがアリはそれを素早く避ける。

 簡単にはいきそうにないか。

 アリも攻撃を仕掛けるが、フィリーは余裕でそれをかわす。


「フィリー、大丈夫そうか?」

「ふふっ、わたしの隠し技をトーヤに見せてあげるね」


 余裕そうに答えるフィリー。

 なにを見せてもらえるか楽しみかも。

 先ほどまでは右手だけに持っていたナイフが、今は左手にも握られている。

 二刀流か。


「てーいっ!」


 フィリーが2本のナイフで斬りかかるが、2本とも避けられる。


「うにゃーっ!」


 何が起きたかわからないが、アリの脚が1本とんでいった。

 バランスを崩したアリにフィリーは再度斬りかかり、あっさりと倒してしまう。

 ホープ、何が起きた?


――フィリーさんのしっぽを見てください。あれで攻撃したようです――


 見るとしっぽの先にもナイフがついている。

 器用だな、三刀流になるのか


「トーヤ、勝ったよー」

「ああ、すごいもんだな。しっぽでナイフを扱えるとは」

「あ、ちゃんと見えたんだ。さすがトーヤだよ。これって初めて見た人はたいてい気付かないんだ」

「ああ……」


 実は見えていないんだがな……。

 まあホープも俺の一部ということでよしとしよう。


「とりあえず、1匹であればフィリーは大丈夫そうだな」

「そうだね、でも複数だとやばいよ。あ……次が来たかも」


 すると4匹の兵隊アリが現れた。

 まるで陣形を組んでいるようにも見える。

 これはフィリーが1匹に攻撃したら、他3匹にやられてしまうのではないだろうか。


「トーヤ、挟み撃ちにしよう!」


 そう言って素早く前に跳び、アリの後ろに着地するフィリー。

 アリも素早く反応したが、フィリーの速さには追いつけなかったようだ。

 4匹のアリは2匹ずつ俺とフィリーを見ている。


「あ、後ろからも何匹か来ました。こちらは弱いのでなんとかします」

「わかった。任せる」


 後ろはリズとディルに任せて、俺は兵隊アリに集中しようか。

 よし、俺は1匹に殴りかかる。

 ホープはもう1匹が攻撃を仕掛けてきた方向に盾を出してくれるか。


――了解しました。1対2と思わせつつ、実際は2対2です。私達の連携を見せてやりましょう――


 ああ、頼りにしてるぞ相棒。


「フィリー、俺から仕掛ける。そのままにらみあっててくれ」

「わかった。がんばってね」

「おう!」


 叫ぶと同時にアリに跳びかかり、パイルバンカーを撃ち込む。

 何もないところから突然に出現する杭に対応できないらしく、アリははじけ飛ぶ。

 そしてもう1匹が攻撃を仕掛けてきたところに防弾盾を出現させる。

 これで俺の勝利のはず、だったのだが……。

 なんとフィリーの方を見ていたアリの1匹が俺に跳びかかってきた。

 避けられない!


――マスター、痛いですが我慢してくださいね。肉を切らせて骨を断つを実践します――


 俺の右手が勝手に動き、アリの口へ差し出される。

 そして噛みちぎられる手……。

 もし手を出していなければ首を噛みちぎられていたかもしれない。

 そしてやってくる激痛。


「ぐわあああああああ!」

「トーヤ!?」


――神経回路を一時的に切断。傷口を火で焼き止血します。そのままパイルバンカーを射出してください――


 痛みは消えたが、気持ち悪い感覚は残ったままだ。

 だが今は気にせずホープの言うとおりにしよう。

 噛みちぎられた手の部分からパイルバンカーを射出してアリがはじけ飛ぶ。

 フィリーは1対1でアリと戦っているようだ。

 あとは先ほど盾ではじいたアリだけか。


「リズ、こっちは僕に任せてトーヤさんの援護を」

「わかった。トーヤさん、そのまま動かないで!」


 その言葉に身を固めると、目の前に突然リズが現れてアリを殴り倒した。

 何が起きた?

 まあそれは後にして俺は手の治療だ。

 無くなった自分の手の先を見ていると気を失いそうになる……。


――ここは私にお任せください。時間を僅かに戻すだけなので治療は簡単です――


 そして俺の手の時間が巻き戻り、何事もなかったかのような状態となる。

 しかし気持ち悪いのは治らない……。

 これは気分的なものだろうな。

 フィリーは問題なく最後の1匹を倒したようだ。


「トーヤ大丈夫? とりあえず広場まで引き返そう」

「ああ、すまないな……」


 フィリーとディルに肩を借りて移動する。

 途中に弱い方のアリが出てきたが、リズが蹴散らしてくれた。


――どうやらリズさんは、小型のジェットエンジンを噴射して加速しているようですね。あれがリズさんの魔法なのでしょう。格闘戦に向いた魔法のようです――


 なるほどな……。

 ちょっと俺も欲しいかもしれない。

 でもある程度の運動神経がないと扱えないんだろうな。

 そして問題なく広場に戻って休憩する。


「トーヤ、大丈夫かな?」

「ああ、もう大丈夫だ。すまないな、心配かけて」

「うん……なんだかすごく大変なことになってた気がしたんだけど、なんともないね」

「怪我はしたがすでに治療は終わったからな」

「そっか、やっぱりトーヤはすごいね」


 俺の手を見ながら不思議そうな顔をするフィリー。

 噛みちぎられた手が元に戻っているのはさすがに驚くか。


「トーヤさん、奥へ行くのはやめておきましょうか。あの敵は危険な気がします。わたしも魔法を連発したので魔力切れです。燃費悪いんですよねあれ」

「そうだな、安全のためにやめておこう。魔力回復薬はすぐ作るよ。水を出してくれるか」

「はい、どうぞトーヤさん」

「ありがとう、ディル」


 俺は水に魔力を込める。

 さっきの兵隊アリからは多めにエネルギーが回収できたので余裕は多い。

 これをリズに渡す。


「なんだかおいしいし魔力も回復します。さすが凄腕の錬金術師さんですね」

「そうだよー、えっへん」

「なんでフィリーが自慢してるんだ」

「えへへー」


 俺が迷惑をかけて撤退したようなものなのだが、みんな気にしていなさそうだ。

 でも一応謝っておくべきか。


「みんなすまないな。俺がへましたせいで……」

「ううん、トーヤは悪くないよ。敵が強すぎたの」

「そうですよ。それに戦える錬金術師ってだけですごいんですから」

「そうなのか?」

「はい、錬金術師さんはたいていどこかにこもって研究をしているらしいです」


 俺も以前はそんな生活だったなあ……。

 落ち着けばあんな生活に戻りたいものだ。

 それにしても、みんなが優しい言葉をかけてくれることがなんだか嬉しい。

 研究所では長い間ずっと孤独だったからかな。

 ホープがいなければ孤独に押しつぶされていたレベルだったものな。


――仲間とはいいものですね――


 そうだなホープ。

 そうだ、一番の親友のお前にも礼を言っておかないとな。

 さっきは助かった。

 お前がいなきゃ俺は死んでいたぞ。


――いえいえ、死んだとしても生き返らせましたよ――


 そうか、お前ならそれもできそうだな。

 頼りにしてるよ。

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