第55話 勇者、魚人たちをいなす
「いや……本当にいいのか⁉ このグールは深海でとんでもない拷問を受けるぞ!」
「うん。その深海に向かう途中で水圧死しちゃいそうだけど(笑)」
「(笑)じゃないでげすよ! おぉい! 配下のグールども! わてを助けろぉ!」
トモミチは大声で叫んだが、その助けは誰にも届かなかった。いや、届いてはいたが全員が無視していた。
「なんで誰も来てくれへんのや⁉」
「配下のグールからお前にクレームきてて、店でパワハラされてるって言ってたぞ」
「そんなアホな! 愛のムチでっせあれは!」
「みんなそう言うんだよ。配下のグールたちもせいせいしてるのかもなぁ」
あまりにも、この情けないグールを見て、半魚人たちも気を遣い始めた。
「な、なんかごめん。お前そんな悲しいやつだったんだな」
「そんな憐みの目でわてを見るな! こんなはずやなかったんやぁ!」
「そこの勇者! こいつには人質の価値は本当にないのか!」
半魚人が再度、訊ねる。
「断言する! ないよ!」
「エデンはぁああああああああん!」
その叫び声は、海岸に悲しく響き渡った。まるで、親を亡くした子クジラのように。
様子を窺っていたギョロ美ちゃんが、きまりが悪いのか、言いづらそうに言葉を発する。
「……エデン様。少しお時間をいただけませんでしょうか。これは私が片をつけなければいけない問題なのです」
「ギョロ美ちゃん。無理しなくてもいいんだぞ?(最悪、トモミチはどうでもいいし)」
「いえ……これは私の家庭の問題なのです。少しあいつらと話をしてきます」
「わかった。なら任せた」
大群がひしめく海岸へギョロ美ちゃんは単身、向かっていった。そこで半魚人と話を進めていた。私たちは離れたところから様子を窺っていた。
しかし、次の瞬間、一人の半魚人が背後の死角から私たちに襲い掛かってきた。
「そんなに甘くないよ~! 君たちィ!」
少々顔がブサイク気味の半魚人がそう言うと、私たちの足元がおぼつかなくなっていた。どうやら魔法を行使したようだ。こちらの異変に気付いたギョロ美ちゃんが姿を見て叫んだ。
「『ギョロ隈』兄さん! 一体、なにをしているんですか!」
「見たらわからないかなあ。誘拐だよ! キキキ!」
急な出来事に混乱する中、一人の人間が攫われていった。卵王だ。
「この人間をもらっていきますかっと~! キキキ! あとは全員沼に沈めぇ!」
どうやら、この魔法は足元を沼に変える魔法らしい。見たことがない魔法。
半魚人が独自に使える魔法がこの世界にはあるという。ギョロ美ちゃんのトライデントもその一つ。卵王がさらわれていく。
「くそっ! 俺のことは置いといてとりあえず沼から抜け出すんだ!」
「おうわかってる! そんな心配はしていない!」
「実際言われたらめっちゃ悲しいこれ!」
厄介な沼だと思われたが、そんな魔法はエデンには関係なかった。
「潮干狩りとか思い出すよねぇ。『身体能力向上』よいしょっと」
自身に魔法を使い、驚異的な力で腰まで浸かっていた沼をあっけなく抜け出した。
「えっ⁉ どうなってんのあいつ⁉」
「ただ身体能力を魔法であげただけ。じゃあ、あーちゃんもひっこ抜くからなぁ」
私の身体を引き抜こうとするも、その沼は硬い。
「痛いってエデン! 引きちぎれるわよ!」
「あっマジでか。じゃあ、この辺壊すわ! よいしょ~!」
その掛け声だけで放たれた拳は周囲の沼を浄化した。聖拳を使って周囲のを消し去った。
「いやあの勇者強すぎるだろ! お前らどうなって……ってあれぇ⁉」
ギョロ隈がさらっていたと思っていた人間が丸太と入れ替わっていた。
卵王はすでに私たちと合流していた。




