第1話 勇者、現れず
私、アネス・ローデンハイムは王の間へと駆けていた。王からの緊急召集。
話によると転生勇者が誕生したとのこと。勇者に付き従い、魔王退治に馳せ参じよとのことらしい。
私は、ここ西の大国『ゴードン王国』王家直属の賢者である。齢二十。この年齢での王家直属の賢者へ抜擢されることは史上初だとのこと。そして名誉ある魔王討伐の任務に私の胸は躍っていた。王の間への扉を眼前に捉える。
「ゴードン王。賢者アネスが参りました」扉前の臣下が呼びかける。
「うむ。通せ」王の言が聞こえた。その声で私は王の間へと入っていく。
「ゴードン王。賢者アネスでございます。本日は王の勅令があるとのことで参りました」
「その通りだアネスよ。単刀直入に言う。転生勇者と共に魔王討伐へと参れ」
「はい! このアネス。この命尽きるまで、誠心誠意勤め上げることをここに誓います」
「うむ。吉報を期待しておる。して、その勇者なのだが……」
「今はどちらに?」
「それが……今日ここに来るように命じたのだが、まだ来とらんのだ」
「なんですって? 王からの緊急召集を無断で欠席するなど……前代未聞では?」
「ほんとそれ。ちょっと、とっちめてきてくれん?」
「はい。必ずや勇者をここへ連れてまいります」
王から勇者の居場所を聞き、現地へと向かった。そこは王が住む城からかなり離れた場所にあった。
しかし、指定された場所にあったには異様な建造物であった。私たちの時代の建築とはかけ離れた建物で、どデカいドアが入口で中の様子は一切、確認できない構造になっていた。壁は分厚く、叩いてもびくともしない。硬いなにかで築き上げられていて、反対側は海が一望できる大豪邸であった。
「なぜここに勇者様は居住地を建てたのでしょう……これから冒険へと向かうというのに」
私は、恐る恐るドアをノックしたが、全く反応がなかった。
ドアの横になにやら出っ張っているモノがあった。それがなんなのかは分からない。しつこくドアをノックする。すると。
『てめぇドンドンうるせぇんだよ! 横のボタン押せよ!』と、ドア横の出っ張っているモノから聞こえてきた。
なんだこれは? 訳もわからず、その突起物を押してみることにした。すると。
【ピンポーン】という音がその家に鳴り響いた。なるほど。そういう魔法だったのか感心した。
だが、数分待ち続けても一向に扉は開かない。おかしい。とっくに私の存在には気づいているはずだ。
仕方なしに、魔法で扉を解錠しようとしたが、その扉にはまず鍵穴がなかった。戸惑った。家屋には普通、鍵穴が存在し、鍵を差し込み解錠するはずなのだが……これでは魔法で扉を壊すしかなくなる。
これまたしょうがない。扉を壊すことにした。風の魔法ウィンデアを使用した。突風が扉を壊そうとする。だが、その扉はびくともしなかった。いや、魔法が当たる寸前に魔法障壁が発動し、風を防いだ。
なにが起きているのか理解できなかった。私はこれでも最年少の天才魔法使いで賢者だ。魔法には絶対の自信を誇っていたが、今までの経験が水泡に帰す思いだった。
――勇者は、とんでもない力を持っている。
どうしても勇者の姿を拝みたくなった。そこで、浮遊魔法があることを思い出し、上から家の中にいるかもしれない勇者を拝めないか、試みることにした。




