第9話 エーテル
「鍛えるために連れてきたんだ、悪魔を滅ぼす、この、穢れなき軍事学校に!!」
そう言いながら、ベルーガさんが勢いよく扉を開けると、そこは教室だった。黒板に対して奥に行くほど段差が高くなっている段々状の講義室。
ベルーガさんは手をはたはたと振って、僕たち四人が着座するのを促してくる。一番前の席に並んで僕たちは腰をかけた。そして、座ったことを確認して、先生はバンと教卓に手をつき、僕たちへ語りかける。
「これから一カ月間、みっちりとお前らを教育してやる。座学だけじゃなく、実践訓練も、だ。生き残りたかったら、真剣に授業を受けるように!」
「はいっ!」と僕だけがピシッと返事をした。
「おっ、いい返事だなー。他の奴らは元気が足りないぞー」
渋々、他の皆も適当に相槌を打つ。その姿に満足したのか、先生は授業を始める。
「まず、お前らに魔術と魔法について説明する。といっても、魔術は知っているよな?」
「いいえ!!」と僕は自信満々に手を挙げる。
「そうか、魔術が存在しない世界から来たってことか。……じゃあ、一から説明する。まずは前提となる、エーテルからだ。身体にはエーテル、魔素とも呼ばれる魔術や魔法を行使するうえで源となる燃料が流れている。どうやって、エーテルが生み出されているのか、過去に様々な研究者が研究したが、明確なことは分からなかった。だが、現在でもほとんど明らかになっていない人間の器官、脳が分泌しているという見解が一般的だ」
ベルーガさんはトントンと人差し指で自分の頭を指す。
「召喚されたってことは、エーテルの総量が多い選ばれた者のはずだ、よって、魔術を知らないセイシロウであったとしても例外ではないだろう。お前らは全員一様に総量が多いはずだ。そして、このエーテルというエネルギー源を魔術や魔法に変換することで魔物を攻撃することが可能となる。その際、総量が多いほうが、それだけ魔術や魔法に込めるエーテル量も必然的に多く費やすことが出来る。そうなれば、当然威力が上がるってわけだ」
先生は黒板にチョークで棒人間を書いた。エーテル総量が仮に10だとすると余裕がないため、魔術に10しか込められない、一方で100だとすると、100まで込めることが出来る。100の方が、威力が強いので、10の魔術は破れて、棒人間が倒れてしまう。
「そして、このエーテルには一つ特性がある。それは、自分の身体を覆うように常に放出をしているということだ。この周りを覆っているエーテルは言わば、バリアーの機能を果たす」
「バリアー??」
リタが首をかしげる。僕とリタだけがエーテルという存在を知らない。対して、ションフォンとタイキはとても退屈そうだ。タイキなんか欠伸を嚙み殺している。よほど基本的なことなのだろう。
「そうだ。このエーテルのバリアーはいかなる物理的な攻撃も食らわず、病気の素も受け付けない。……お前ら怪我や病気になったことあるか?」
「「!?」」
僕とリタは思わず立ち上がる。そうか、僕の身体が丈夫だったのはエーテルのおかげだったのか。思い返せば、あのときも、あのときも、僕は無傷だった。あれ、もしかして、明日香を助けたときも……。たしか、僕ではなく電車の方が……、ここで意識を呼び戻される。
「心当たりがあるようだな、エーテルはお前らの身体を守ってくれる役割を果たす。ちなみに、ちょっと押したり、つっこんで叩いたりするぐらいならエーテルは機能しない。例えるなら、脊髄反射みたいなもんだ、温かい物を触っても特に手は引っ込まないが、高熱の物を触ったら無条件に手を引っ込めるだろう? それと同じようにある程度の閾値を勝手に身体が判断して、通すか守るかを決めているようだ」
「先生、一つ質問良いですか?」
「ん? セイシロウ、その先生ってなんだ?」
「え、ベルーガさんのことです。教鞭を奮っていただくので、先生というのがピッタリかと!」
「たしかにー、あーしもいいと思う!!」
ベルーガ先生は少し照れ臭そうにしながら、頬を掻いた。
「いやー、うれしいけどよ、先生って柄じゃねーよ、ベルーガ部隊長とか、ベルーガさんで充分だ」
「いや、僕は先生という呼び方がしっくり来たので、先生と呼ばせていただきます!!」
「はぁ、そうか、まあそのうち慣れるかも、な。……で、質問はなんだっけか?」
「そうでした! エーテルについて理屈は何となく理解したのですが、それであれば、僕は無敵じゃないですか。魔物にも絶対に負けないと思うのですが……」
「いい質問だな、結論から言うならば、無敵じゃない、このエーテルで守られている身体を破壊する方法があるってことだ。一つは単純に人が作り出すエーテル量は総量が決まっている。エーテルが枯渇してきたら、物理攻撃もエーテルが守ってくれずに貫通することになる。……例えば、魔術で相手のエーテルのバリアーを消費させて、エーテル量が少なくなった場合には刃は通ることになる。また、身体を守っているエーテル出力量も人によって個人差があるため、少ない人に対して、物理攻撃は通るし、風邪もひきやすい」
なるほど、魔術による消耗戦を仕掛けられるとやばいのか。
「もう一つは、魔剣や魔物といった存在だ。通常の剣はエーテルをまとっていないので、もちろん刃は通らない。だが、生成魔法によって創られた魔剣はエーテルを纏っている武器になるため、人体を守るエーテルをも、貫通することになる。また、魔物もエーテルを纏っている生物となるため、魔物の牙は俺たち人類を殺すことが出来る」
つまり、エーテルで纏った武器や生物からは攻撃を食らうということだ。
「最後に単純明快。圧倒的なエーテル量を含んだ魔術や魔法で攻撃されたら防御は貫通することになる」
物理攻撃は無理でも、魔術や魔法をからめた圧倒的な威力による攻撃は有効となる、と。
「あーしからもいいですかー? あーしのかわいい顔を守るために持っているエーテルをこう、ドバーッて出して、守ることってできるんですかー?」
「あー、おそらくできないな。もしかしたらそういう魔法もあるのかもしれないが、基本的には、自分が放出しているエーテルのバリアー量は操作できない。自然に垂れ流れているっていう感じといえばよいか。……それに、エーテルは必ず魔術や魔法という形に変換をして初めて攻撃に使える。エーテルをエーテルのまま出力することはできないんだ、ここ試験に出るぞー」
なんてこった、こ、この世界でもペーパーテストがあるなんて!僕は絶望に打ちひしがれる。
「なんてな、冗談だ」
僕は即座に絶望からカムバックした!
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