第8話 穢れなき軍事学校
※24/3/15連続投稿最後になります。明日も投稿します。
※これから魔術や魔法、エーテル、魔物についての前提となる設定が徐々に公開されます(設定厨の皆様ならばうれしいですよね←え)
*
「魔王を討伐するアイデアはあるか?」
勇者四人で朝食を摂っている最中、ションフォンが僕たちに問いかける。
「うーん、そもそも普通の高校生の僕たちがどうやって魔王を倒せるんだろう? 正拳突きとか?」
「ばっかだなー、セイシロウ! 魔術がある世界だし、エーテルで護られているだろう? 魔術で倒すんじゃね?」
一番勉強が出来なそうなタイキに言われてしまった。
「あーし、まだわかんないんだけど、エーテルとか魔術とか」
「またまたぁ、リタまで何言ってんだよー。魔術使えなくて、どうやって火を起こすんだ?」
「うーん、マッチとかライター、とかじゃないっ?」
「なんだそれ? 自分たちで火を出せるのに道具に頼るのは馬鹿らしいって、ほら!」
そう言ってタイキは人差し指を立たせると、何も無いところからロウソクのような火がゆらゆらと現れる。え、なにこれ?タネも仕掛けもありませんってやつか?僕は思わず聞いてみた。
「すごいな、手品が得意なんだ?」
「イヤ、魔術だって! 小学校で何を習ったんだよ」
僕とリタは二人して首を傾げる。そんな光景を見ていたションフォンが口を開く。
「なるほどな、つまり俺たちは、魔術の前提知識すら差がある別の世界線から各々が召喚されたってことだろう。俺とタイキは魔術が存在する世界で、セイシロウとリタは魔術が存在しない世界ということか」
魔術の知識がある勇者と魔術の知識がない勇者がいるとなると、情報の差がありすぎないだろうか。僕とリタが魔王討伐に役に立つ未来が見えない。パンを齧りながら、不公平だなという言葉を噛み殺す。才能がある者もいれば、ない者もいて、最初のスタートラインも異なる、社会とはそういうものだった。思い直して、僕はそもそも抱いていた疑問をぶつけることにする。
「魔術で魔王を討伐できるとして、そもそも肝心の魔王はどこにいるんだろう?」
「さあな、少なくともこの都市にいるとは思わないが……。だが、セイシロウの言う通り、俺らにはまず何よりも足りないものがある」
「うーん、勇者のパーティにはあーしみたいな可愛いアイドルはいるし、他に足りないものかー」
「いや、普通に足りないものは美人の勇者じゃね?」というタイキにリタが睨み付ける。タイキは暗にリタが可愛くない、少なくともタイキの好みではないと言っているようなものだ。その言葉に対してリタは激怒している。
「はあ……、お前らと話していると全く話が進まん。足りないものは、ひとえに“情報”だ。この世界がどういう世界で、この国がどういう国で、魔王や魔物がどういう存在で、俺らの武器はいったい何なのか、情報がないと作戦も立てようがない。俺が国王の言うことを聞く気になったのも、まずは情報収集を優先すべきだと考えたからだ。……つまり、お前らに言いたかったのは、お前ら魔王を討伐するアイデアはあるか、いやあるわけないよな、判断するための情報が少なすぎるんだから、ということを問いたかった」
ションフォンの言う通りだ。僕は魔術がなにか、エーテルがなにか、さえ知らない。スタートラインが他の二人とも違うから、さらに情報を持ち合わせていない状態だ。こんな状態では正常な判断は下せないだろう。思考している最中、僕たちの会話を遮る人がいた。ベルーガさんだ。
「おー、お前ら、待たせたな。その“情報”を俺が教えてやる。これから一月かけてな。朝飯食ったら、表に出ろ。連れて行きたい場所がある」
そう短く伝えて、ベルーガさんは踵を返す。僕は食事よりも情報が気になっていたのですぐにベルーガさんの後をついていくことにする。他のみんなも同じようだ、食事を早々に切り上げた。
螺旋階段を降りて、長い廊下を抜け、鉄製の門扉を潜り、城門を出る。太陽が凄い近くに感じる、それだけこの城が高所に存在するのだろう。もしかしたら、敵からの攻城時を考慮して、自然の要塞として建造されたのかもしれない。
石畳の外階段を降りていくと、朝見た絶景が広がっていた。僕たちの目の前は家屋が所狭しと、整列されている。方向を変えながら階段を降りている中で、海上を進む小さな帆船も見えたことから、城の後方は港となっているようだ。
あまりの絶景に僕たち勇者は言葉を交わすことなく、すげーと感嘆だけを漏らしながらベルーガさんの背中を追っていく。
降りてきた階段を全て下るだけでも、訓練になりそうなほどの段数を、降りきると開けた場所についた。
噴水があり、多くの人々が行き交っている。嗅いだことのないおいしそうな匂いが嗅覚を刺激し、見たことのない露店に視覚が驚く。小さな子供達もおもちゃの杖のようなものを持ちながら、僕たちの前を横切って行った。ああ、僕たちはこの人たちを守らなければならないんだと思うと、襟を正す思いだ。
暫く黙って付いていくと、ベルーガさんが急に立ちどまった。「ここが目的地だ」と、端的に紹介された場所は、輝いている洋館だった。輝いているというのは比喩でもなんでもなく、白い塗料で壁が覆われており、太陽が反射して輝いている。
老緑色の門を押して開き、敷地に入ると、僕たちより若い少年、少女が敬礼して出迎えてくれた。
「勇者様御一行に敬礼」
「イェッサー」
敬礼した状態は維持したまま、僕たちを建物の中に案内するように、入り口までの道のりに沿ってずらっと整列している。
「いやー、オレたち、なんか偉くなった気分だな!」
「えーそう? あーしたちのために敬礼してくれてるんだよね? なんか、ちょっと申し訳ない気分……」
「僕も。戦い方さえ分からないのに、過度に期待されても……」
「ハハハ、まぁ、おめーらに期待するしかねーんだよ。そんだけ魔王陣営と俺たち人類の力の差は絶望的だからなあ。……それに……」
と、ベルーガさんは僕たちに振り返らずに背中で語る。
「鍛えるために連れてきたんだ、悪魔を滅ぼす、この、穢れなき軍事学校に!!」
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