第7話 人生最大のピンチ
※今回短めです。話数も多くなってきたのでブクマでしおりを挟むと便利です
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小鳥が囀り、朝を告げる。うぅ、眠い。まだ、このベッドの上で夢心地を味わっていたい。でも、日課にしている空手の型の練習もあるし、自分を奮い立たせて起き上がる。
遮光性の高いカーテンを開けて、日光を取り入れる。陽が降り注ぎ、体に染み渡るようだ。また、元の世界よりも透明度が粗い、ぼやけた窓ガラス越しにも絶景が広がっていた。
陽の光を反射する橙色の屋根にクリーム色の家屋が所狭しと、列をなしている。窓ガラス越しに見下ろす街並みは、大量のキャンドルが揺らめいているようで幻想的だ。
中世ヨーロッパの街並みがこんな感じなのかもしれない。両開きの窓を開けると、新鮮な空気と共に、潮の香りと朝食の匂いが鼻腔をくすぐる。
「本当に異世界だ……」
正直、まだどこかでドッキリかなと思って、実感が湧いていなかったけれど、確かにここは現実世界の日本ではなかった。
ひんやりとした、そよ風からも海が近いことを示している。この光景に見惚れていると、少し冷えたのか尿意が……。
今いる客間にはトイレは無さそうなので、仕方なく唯一の扉から続く廊下へと繰り出すことにした。
さて、一つ僕の欠点を話すとすると、途轍もなく方向音痴ということだ。昨夜の宴会会場からも何度か軍の関係者に聞きながら、トイレへと向かったためなんとか遭難することなく無事に辿り着いた。
だが、今日は……誰とも出くわさない。仕方がないので、迷ったときには“山で遭難したら登れ”の精神に従い、石造りの階段を上へ上へと登って行った。そして……。
うん。迷った。
さっきから同じところをぐるぐると回っている気がする。そうこうしている間にも僕の膀胱が洪水してしまう。誰かいないかと、きょろきょろ見渡しても誰もいない。まずい、これは本格的にまずい。
絶望に打ちひしがれていたまさにそのとき、どこかから話し声が聞こえてくる。僕を救ってくれる救世主の美声だ。僕の長所の一つ、地獄耳が遺憾なく力を発揮した。この世界に来てからは、益々自分の感覚が研ぎ澄まされている気がする。
僕は全速力で話し声がする扉の前へ。声質からして女性同士のやり取りだ。妹からは部屋に入るときはノックくらいしろと、口うるさく言われているので、女性の部屋に入る際のマナーに関しては、もちろん履修済みだ。
コンコン(ノックの音)、バン(僕が両扉を開ける音)!!
「失礼します!!」
「やだやだー!! 起きたくな……い?」
部屋の中にいたのは、淡い桜色のきらきらした髪で、肌が透き通る白い女性だった。まるで二次元のキャラクターかと疑ってしまうほどのくっきりした顔立ちの美人さんだ。
彼女が僕を見て、口をあんぐりと開けて、硬直している。
相撲取りが三人は横になれそうなほどの巨大なベッドの上で転がっていた。そう、転がっていたのだ。ふわふわの掛布団にくるまりながら。さながら、その姿はロールケーキ、クリームが美人さんでスポンジが布団です。
と、とりあえず、漏れる、漏れてしまう。
「急にすみません!! スッキリしたいんです!!」
「ス、スッキリ!? わ、私を何に使うつもりです!?」
「え、ちょっと一緒にトイレに来てほしくて!!」
「こ、この変態ッ!!!!」
「なんで!?」
僕が困惑しているなか、彼女は布団を脱ぎ捨て、ラベンダー色のパジャマ着のまま枕を僕の顔面に投げつける。僕の長所の二つ目、人生で一回も風邪をひいたことがなく、全く痛みを感じない、無敵な身体がなかったら鼻からの痛みで涙を流していただろう。
「レーベお嬢様、おそらく昨夜召喚された勇者様でしょう」
彼女の傍にいたメイドさんがレーベと呼ばれるお嬢様に話しかけている。
「え、こんなクズが、ですか!?」
「ひどい!!」
「でも、ノックしてから何か返事をする前に入ってくるなんて、流石に失礼じゃないかしら?」
「す、すみません、僕も普段は気をつけているのですが、今は早急に解決しなければならない問題がありまして……」
「……っ、もう、兄様にもこんなぐーたらな姿見られたことないのに!」
レーベさんは小さい声でぶつくさと呟いている。怒っているのは間違いないが、変態のくだりよりも、先ほどのロールケーキの姿が他人に見られたことが許せないようだ。
とりあえず事情を説明して、レーベさんの傍にいたメイドさんにトイレに案内してもらうことになった。侮蔑の目を向けられながら。
……え、トイレは間に合ったのかって?
うん、ちょっと漏らしたよ。
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