第6話 勇者歓迎会、葡萄酒を添えて
※今回、勇者たちの自己紹介会です。
*
「それでは勇者の四人の出逢いと魔王の討伐を祈願して、乾杯!!」
「かんぱーい!!」
ベルーガさんの音頭によって、皆が持っているグラス同士が重なり、心地よい音色が鳴る。
グラスに注がれた葡萄ジュースをひとくち飲む。が、僕は「ぶーーっ」と中身を吹き出す。紫色の霧が綺麗に舞っていた。
「これ、お酒じゃないですか!! ダメですよ、飲酒は二十歳になってからです」
「あー、すまんすまん。こっちでは十五を過ぎれば成人だからな。まぁ、気にすんなって」
豪快に笑い飛ばされた。このベルーガさんというお目付け役は大丈夫だろうか、僕が元の世界に戻ったら真っ先に通報しようと決意する。
他の勇者達はあまり気にせず葡萄酒を嗜んでいた。コミュニケーションをとりやすいようにだろうか、立食式のパーティーであった。僕たち勇者のみならず、ベルーガさんの部下だろうか、兵士数十名が食事や酒を楽しんでいる。
「さぁ、皆さん、どんどん食べてください」
シェフとメイドが芳醇な香りを漂わせながら、大皿を次から次へと運び込んでくる。口に運べばどれも美味だが、さすがに明日香のカレーライスには敵わない。
「よう、ジョウタロウ! 楽しんでいるか?」
最初にステータスオープンと騒いでいたタイキが僕に声を掛けてきた。
「タイキ、僕の名前はセイシロウだ」
「そうだっけか、これから覚えておくな!」
「期待しないで待っておくよ。……タイキという名前、もしかしてだけど、日本出身だったりする?」
「日本? うーん、まぁ、そうだな。昔はそう呼ばれていたが、正しくは日東国だな。たぶん、俺ら同郷だよな」
日東国?全然噛み合っていない気がする。もうちょっと深掘りをしてみようと思った矢先、タイキに話題をずらされる。
「それより見ろよ!! あの顔面レベルが高いメイドさんを!! 魔王を倒せばあのうちの一人、いや、十人がオレの嫁になるかもしれない!!」
うーん、ちょっとタイキは好色家がすぎるなぁ。さっきから視線は女性のお尻ばかりを追っている。一応、犯罪に走らないように注意はしておこう。
「盗撮や痴漢は犯罪だから、気をつけるんだぞ」
「ふっ、大丈夫さ! オレは紳士。ちゃんと同意の上、ことに運ぶさ!!」
本当に大丈夫だろうか。
ただ、会話をする中で、単純な奴だけど、タイキとはなんとなく上手くやれそう気がした。その後もタイキと話を弾ませ、同学年の高校一年生ということもわかった。おそらく同郷(?)の誼で助け合えそうだ。
タイキとも仲良くなったし、せっかくの機会なので、他の勇者とも話してみたいと思った。まずはリタの元へ向かうことにする。
リタはすでにお酒で出来上がっていた。かなりアルコールに弱いらしい。
「あー!! 同じ勇者のセイシロウじゃん!! これから頑張ろうねー!!」
向日葵のように僕に微笑みかける。笑った感じが僅かばかり妹に似ている気がする。僕はついつい見とれてしまう。
「そっ……! そんなに見つめないでけろーっ!!」
「け、けろ?」
「はっ!!」と声が漏れた後、何かに気づき、口を慌てて手で隠す。
ほ、方言だろうか?本人は物凄く取り乱して、料理を次々と僕に勧めて誤魔化している。リタの顔を覗くと、アルコールからか、はたまた照れ隠しからか、真っ赤になっていた。僕は妹からデリカシーについて口酸っぱく言われている!!こういうときは、話題を変えるに限るのだ。
「僕は日本という島国出身なんだけど、リタはどこ出身なの?」
「あー、ジャパン出身なんだね!! あーしはねー、なんと聞いて驚けっ、あの……」
……。
「あの……」
めちゃくちゃ溜めてるなあ……。
「USAだぞっ!! ……しかも、ニューヨークの都会出身だぞー、すごいだろー、がおー」
最後のがおーは只々可愛いだけで、何も凄さは分からなかった。可愛さは正義という言葉があるくらいだし、可愛いイコール正義という等式が成り立つのであれば、正義を志している僕としては、可愛いは正義を成している事と変わらないはずだ(?)、たぶん。ということは、つまり!!
「つ、つまり、僕はこれから可愛くならなければならないということか!!」
「えっ、なにー、セイシロウは可愛くなりたいのー? お姉さんに任せなさいっ」
このあと、化粧のコツやあざと可愛く見せる、モテ仕草について三十分講義されました。ちなみに、お姉さんというのは間違っておらず、僕より一つ年上でした。
……はあ、なんか知らないけど、ものすごく女子力が上がった気がする。そのぶん、男子としての何かを失ったけれど。
さて、最後の勇者に話しかけてみよう。
「ションフォン、ご飯は食べてる?」
「セイシロウか、ああ」
……会話が終わってしまった。さすがにこれでは親睦は深めることが出来ない。話題を脳からひねり出す。
「さ、さっき、国王陛下との会合のときはありがとう。僕も疑問に思っていたことを聞いてくれて助かったよ」
「別にお前のためじゃない、俺のためだ」
「でも、それでも助かったのは事実だから、礼を言わせてほしい。ありがとう!」
「ああ」と言いながらも口元は少し吊り上がっていて嬉しそうだ。表情に出にくいタイプなだけなのかもしれない。国王陛下にも嚙みついていたけれど、ああいった場面で反対の立場で自己を通せる人間は貴重だと思う。それだけでも僕はションフォンを信頼に足る人物だと評価していた。
「早く元の世界に帰りたいね。そのためにも一緒に魔王討伐を頑張ろう! この世界の人も救えて、僕たちは世界にも帰れる、まさに一挙両得だね」
「……ああ、そうだといいがな」
意味深な反応だ。僕には見えていない景色が見えているのかもしれない。この後も僕からの一方的な質問が続いた。あまり盛り上がりはしなかったものの、会話が途切れた静寂も何故か心地よい。
ちなみに、ションフォンは中華連邦という国の出身ということだ。タイキとションフォンは僕がいた世界と何処が噛み合っていそうで、嚙み合っていない。ボタンの掛け違いが起きているような感覚。
違和感をグラスに注がれた水で流し飲みながら、勇者歓迎会は夜通し行われたのだった。
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】の評価で応援いただけると嬉しいです。
ブックマークをしていただけると更新タイミングが通知され、しおりが挟めますので便利です!
読者の皆様と一緒に作り上げたいので応援して下さい!!