第5話 定められていた運命
「俺からもいくつか質問をしたい。まず、この右手の甲に描かれている紋様はなんだ? これが自分の意志に関わらず、強制的に魔物を倒すように仕向ける仕掛けの可能性もある。俺たちに危害を与えるものでないことを証明してくれ」
ションフォンの紋様は僕とは違う形をしていた。円の中に地を向くような矢印があり、中心部に小さな丸。確かに僕のとは違うが四人とも図形が刻まれている点では共通していた。
「……それは魔法陣、刻まれた紋様を通して、魔素とも呼ばれるエーテルを各々の魔法式に変換する魔法じゃ。魔物に抗うための奇跡の理である。そなたらの利になることはあっても害になることはない。刻まれた魔法がどのような特性なのかはベルーガ=ペンドラム、別の機会に説明を頼むぞ」
「はっ!!」
片膝の皿を絨毯に付けながら、ベルーガと呼ばれた男性は頭を下げる。この位置からだと顔は見えないが、いかにも武人という体つきだ。
「……理解した、次の質問だ」とションフォンは続ける。
「どうして、俺らなんだ?」
「ふむ、エーテルの総量が優れているからじゃ。人が持つエーテルの総量は人によって個人差がある。例えるならば、胃袋の大きさに近い。ある者は、パン一個で腹を満たし、ある者はフルコースを食してもなお満足できない。同様に、生成されるエーテルの収容容量に差があるのじゃ。膨大なエーテル量を保持しており、その中で各魔法との適正を満たした才覚ある者がそなたらだったのじゃ」
「……なるほどな、理解した」
「それでは、魔王を討伐してくれるか?」
「イヤ、俺は降りる。勝手に呼びつけておいて、お前らの世界の都合を押し付けるな。俺は受験も控えていて忙しかったんだ、お前らとは他の手段で元の世界に帰る術がないかを見つけ出してやる」
ションフォンは吐き捨てるように伝え、国王陛下に背を向ける。コツコツと足音を立てながら、両開きの大扉へとゆっくりと歩みを進めた。このまま扉に手を触れられそうな距離でションフォンは歩みを止める。扉の傍にいた衛兵が彼に杖を向けていたのだ。
一人の衛兵が手にしている杖には紅蓮の炎が、もう一人の杖には極小の嵐が杖の先で渦巻いている。いつでも攻撃が可能だという威嚇だろうか。
「……何の真似だ?」
「陛下の御命令です。陛下からご容赦をいただけるまでは何人たりともここを通すなと申し遣っております」
「……ふっ、最初から逃げることなんてできなかった訳か」
諦めたようにションフォンは肩をすくめる。
「もう一度問おう。汝ら、余に協力するか?」
国王陛下は足を組んで、僕らを見下ろす。玉座の肘掛けに片肘をつきながら。「……ああ」と語るションフォンの眼光は鋭く、国王陛下を睨みつけていた。
あとはベルーガ頼むぞ、と国王陛下は投げやり気味に伝えて、僕たちはベルーガさんを先頭に謁見の間を後にした。
ベルーガさんは頭をぽりぽりと掻きながら、僕らに一人ずつ目を向ける。
「あー、なんだ。お前らのお目付け役をやることになったベルーガ=ペンドラムだ。……まあ、お前らもいきなり来て混乱していると思うが、人類のために協力してくれるとありがたい。ひとまず、親睦を深めるためにも、ささやかだが歓迎会を用意している、会場に向かおうか」
「「いやっほーい」」
タイキとリタは嬉しそうにはしゃいでいる。一方のションフォンはどこか浮かない表情だ。
ベルーガさんを先頭に、僕たち勇者も終わりが見えないと錯覚してしまうほどの長い廊下へ一歩踏み出した。そのとき、僕の鼓膜が、誰かの話し声をかすかに捕捉する。国王陛下の声だろうか、先ほど出てきた扉からだ。
「ところで、『方舟計画』の準備状況はどうだ?」
「はい、カレらの…に…テキ……」
普段なら絶対に聞こえない距離も、何故か集中すれば聞こえそうな気がする。だけど、盗み聞きはさすがに良くない。疑問があるなら直接ぶつけるべきだろう。方舟計画というワードだけは記憶のどこかに仕舞っておくことにした。
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