第29話 邂逅 後編
第2章完結です。次回は活動報告にあります通り、少し間が空きます。
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僕の警戒心を少しでも解こうとしているのか、その人物は口を開いた。
「ふむ。確かに我が名乗るのが優先だったな。我が名はウィズダム=セントス。このロイゼンサンクチュアル国の次期国王、第一王子であり、かつ、王国軍の総司令官を拝命しているものだ」
国王の息子さんで、レーベのお兄さんに当たるということか。乱れた髪型に着崩したYシャツは、とても身分が高い人には見えなかった。人を見た目で判断するのは良くないな、僅かばかり反省する。警戒心は解かないが、正拳突きをいつでも放つことが出来る構えを解くことにした。
「すみません、急に話しかけられたので、警戒をしてしまいました。僕が、一条誠志郎です。こちらが同じ勇者仲間の、王勝峰、識部大器、リタ=キュリリアです」
「うん、もちろん知っているよ。君たち勇者のおかげで、ゴビ村襲撃も最低限の被害で収まったよ」
「最低限? ゴビ村は壊滅的な被害っすけど」
タイキがウィズダムさんの発言に我慢できずに口を挟んだ。
「ん? ゴビ村が犠牲になって他の国民の命は守られたんだ。つまり、些細な被害だろう?」
僕たち勇者が小を見捨てずに一人でも国民を救おうとするのであれば、この人は非情な決断を持って小を捨てて大を救おうとする、そういう人物のようだ。上に立つ人物としては必要な視点なのかもしれないが、僕たちにはとても受け入れられるものではなかった。現に、僕よりも先にタイキが「は?」と、怒りをウィズダムさんにぶつける。
「……だから、か。やけに俺ら勇者への支援が遅いと思ったんだ、お前の命令か?」
「ふむ。ションフォン、君はこちら寄りの考えだと思ったが、どうやら思い過ごしのようだ。大局を考えればどちらを優先すべきかについては、考えるまでもなくわかると思ったんだが……」
「まさか、勇者を見捨てる選択をするなんてな」
「見捨てる? 我が君たちを?? フハハハハハ!」
「……何が可笑しい?」
「ションフォン、逆だよ。セイシロウ、君という存在がいたから、今回の勇者を信頼したんだ。それに、こんなところで死ぬようであれば、どちらにしても使い物にならないんだよ。君たち勇者は魔王討伐のために、どんな逆境も跳ね返してもらわなくてはならない」
「……勇者は消耗品とでもいうつもりか?」
「いや、貴重品だ。勇者という固有魔法を有した戦力は、君たち四人しかこの世界に存在しない。ただし、代替することは出来る代物だということは理解してもらいたい」
「なるほどな。俺らが死んだら、また勇者を呼び出せばいいってわけか」
「「「!?」」」
ションフォン以外の僕たち三名は唖然とする。もし、この人にとって、僕たちの命に代わりが効くと考えているのであれば、魔物への特攻を強制されることもあるかもしれない。あんな地獄をあと何度潜り抜けなくてはいけないんだ!!僕たちの心の機微を察したのか、ウィズダムさんは発言の真意を補足する。
「勘違いはしないでくれ。君たちの命をぞんざいに扱うつもりはないし、父上のように弱腰になるつもりもない。我はこの世界で魔を宿すものを、滅ぼすのが使命なのだ。その使命のためであれば、命にだって優先順位をつける、ただそれだけのことだ」
……弱腰。方舟計画を指しているのかもしれない。国王陛下自らが逃げる道を模索している、ウィズダムさんはその姿勢に批判的の立場なのだろう。王族の中でも様々な立場や意見が渦巻いており、一枚岩ではないということだろうか。
「それよりも、セイシロウ、君に一つ聞きたいことがある」
「……僕ですか? はい、なんでしょうか?」
先ほどからやたらと、ウィズダムさんは僕という存在を持ち上げている気がする。もしかしたら、この質問内容で僕を買っている理由が分かるかもしれない。僕としては別にたいしたことを成し遂げたつもりはない。まだまだ、これから、正義を遂行しなければならないのだ。
「もう、一ヶ月半前になるか。初めて魔物と邂逅をしたときに、なぜ動けた? 今回のゴビ村襲撃時も、だ。君はだれよりも早く魔物に立ち向かっていたと、村民から報告を受けている。何を思って行動した」
「正義という使命感です、それ以外は特にありません」
「ハハハ!! 即答の上で、断言するか。自分の命よりも正義か?」
「? はい、もちろん。正義のために死ねるなら本望です。ただ、自分の命を心配して待っている妹もいるので、自分の命を軽視しているわけではありません。だから、そこに“正義”がない、無謀な作戦には僕は動かないので、ご理解をお願いします」
「……そうか、壊れているな、そして、我とは相容れない存在だ。我は自らの手を“悪”に染めても、この国を救う。もちろん、我が立案する作戦に、貴重な戦力たる勇者を無駄死に、とはさせないがな」
無駄じゃなかったら平気で死なすということだろうか。それよりも何も僕に向かって壊れているといったのか、さすがに第一王子殿下とは言え、失礼ではないだろうか。
「いや、貴重な機会をいただいた。我も上の立場なので、なかなか勇者と意見を交わす機会がなくて、な。大変有意義な時間だった、そうだ。君の『妹』という発言で思い出したが、我が愚妹がセイシロウ、お前と話したがっていたな」
「……そうですか、また、あとでレーベを探してみます」
「ああ、よろしく頼むよ」
そのように短く伝えると、ウィズダムさんは手をひらひらと振りながら、この場を立ち去っていった。
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