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第28話 邂逅 前編

第2章も次話で完結です。


 *


 一悶着があった褒章授与式を終えて、僕たちは謁見の間から退出した。国王陛下が退席した後も、謁見の間は衛兵たちの熱量で包まれていた。称賛の歓声が扉を閉めていても聞こえてくる。もしかしたら、平常心でいられる僕たちの方がおかしいのかもしれない。そんな錯覚を覚えるほどだ。


「すごい熱量だったね……」


「ねーっ。あーしは、なんか疲れちゃったよ」


「な、オレたちの褒章授与式じゃねーのかよ。オレたちが称賛されるならともかく、国王陛下が称賛されてどうすんだよ」


「そうだねーっ、でもっ、タイキの目的は叶ったんだし、とりあえずはよかった寄りじゃない?」


「リタの言うことも、もっともだけどよ、なんかこう……しっくりこないというか、もやもやするというか……」


「僕たちだけ蚊帳の外って感じだったね。ごめん。僕が“方舟計画“っていう、余計なワードを言ったばかりに」


「国王に質問できるチャンスも少ないだろうし、気にすんな!」


「うん……、ありがとう、タイキ!! でも、“方舟計画”というのが、まさか島外に亡命しようとする計画だなんて」


 そう、このロイゼンサンクチュアル王国は四方が海に囲まれた陸の孤島なのだ。面積4万平方kmにも及ぶ島、セントス島――。この島に、異国から初めて降り立った初代国王の功績を称えて、姓であるセントスの名を冠しているらしい。


 王都であるシーバルセンはセントス島の最北部に位置しており、北側は海で覆われ、南側は三重の堀で囲まれている。要塞都市としての機能も果たしているのだ。


 王都は活気あふれた貿易港を有しており、他国との貿易が盛んに行われている。方舟を造り、人を運ぶ技術は充分に供えているだろう。


 では、国民を少しずつ外国へ避難させるのもありなのでは、と思ったがそうするとこの国は体裁を守れなくなるし、現人神あらひとがみとしての国王陛下の地位が国外の権力者に脅かされるのかもしれない。簡単にはいかない事情がありそうだ。


「方舟計画か……」


 黙っていたションフォンが口を開いた。顎に手をやり、考える仕草をしている。こういうときのションフォンは何か違和感を察知している可能性がある。伊達に死線を一緒に潜り抜けているわけではないのだ。僕は、素直に聞いてみることにする。


「ションフォン、なにかあった?」


「いや、逆に怪しいと思ってな」


「怪しい? 一応筋は通っているとは思ったけど……」


「そうだな、セイシロウの言う通り、一本筋は通っているようには聞こえた。だが、ここまで秘密にしていた計画をあんなにあっさり話すか?」


「うーん、そうか? 考えすぎな気もするけどな。計画名がばれたから、仕方なく開示したとかじゃね?」


「あーしもタイキと同じ意見かなー。……あ、わかった!! 逆に魔物を運ぼうとしていた、とかっ!? ほら、外国に武器を輸出すると儲かるっていうし!!」


「ああ、その可能性もあるかもな。事実に嘘を混ぜ込んで開示した可能性はあるだろう」


 確かにリタの言う通り、柔軟に考える必要があるかもしれない。僕は国王陛下の話を聞いたときに思ったことを素直に口にする。


「もしかして、国王陛下だけが逃げるため……とか?」


「「!?」」


 リタとタイキは、驚きのあまり、二人して大きく目が見開かれる。だが、ションフォンは顔色一つ変えずに冷静に返答した。


「そうだな、その可能性が一番高いと俺も思っていた」


 僕たちは話し合いに夢中になって気づかなかったのだ。忍び寄る黒い影に。地獄耳を持った僕の聴力でも、扉を突き抜けてくる歓声が邪魔をして、足音を聞き逃した。


「やあ、君がセイシロウ?」


 空手のかた砕破サイファというものがある。その中の一つ、中腰で左拳を前に出す体勢、これが自分の中で警戒している相手に自分が拳を突き出しやすい体勢なのだ。僕は咄嗟にその拳を声をかけてきた人物へと向けた。


「まいったな、そんなに殺気を向けないでくれ。我は君より数段弱いんだから」


「あなたは?」


 僕は警戒心を解くことが出来ない。初対面の人に対してこんなに警戒心を抱くのも失礼に値する。頭では分かっているはずなのに、僕の直感が告げるのだ。この人は油断ならない、と。たしかに、この人は武術の心得はなさそうだ。エーテル量の感知について、僕は得意ではない。それでも彼のそれは、僕たち勇者と比べると脆弱極まりない。そのはずなのに、僕の危機察知能力がビンビンと反応していた。


 僕の直感は外れたことはない。この人は僕を倒しうる武器がある。そして、必ず相対するときが来る気がする。


 僕の警戒心を少しでも解こうとしているのか、その人物は口を開いた。



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