第26話 褒章授与式
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ゴビ村に国防軍の精鋭が駆けつけたのは、僕たちが魔物を殲滅した半日後だった。
怪我を負った村人の治療行為や、損壊した家屋からの救助活動は、夜通し行われた。それを主導したのは、レーベだ。的確な指示の下、宿屋を簡易的な病棟に見立て、治療が行われていく。僕たち勇者も率先して身体を酷使した。正直、身体は限界に達していたが、身体を動かし続けないと、守れなかった命の大きさに精神が押し潰れそうだったのだ。
馬に揺られながら王都シーバルセンへと帰還する際には、心地よい揺れに馬上で睡眠に興じるところだった。落馬の危機に直面しながらも、なんとか王城へと帰還し、客室に案内されるやいなや、僕はベッドに倒れこんだ。
そして、三日ほど過ぎ、国王陛下から魔物を討伐した褒章授与式が執り行われることになった。
僕としてはゴビ村の惨状を考え、辞退したいくらいだったが、国の不安や暗い雰囲気を払拭するために、必要だとベルーガ先生からも諭され、僕も含めた勇者四人とも賛同することになった。
僕たち四人は、こうして謁見の間にて国王陛下の前で跪く。ションフォンは公の場なので、嫌々の行動だろう。心までは傅いていないぞとの声が聞こえてきそうだ。
「面を上げよ」
国王陛下のお許しとともに僕たちは顔を一斉に上げる。
「此度の働きは余の耳にも届いておる。我が国民の犠牲は決して少なくはなかったものの、貴殿らの働きがなくては、防衛線を突破され、より多くの国民が犠牲となり、より広い国土に甚大な影響を被ったはずじゃ。また、ゴビ村での迅速な人命救助により、多くの命が救われた。此度の働き、大変大儀であった」
衛兵の一人が歓声を上げる。また、他の者は称賛を拍手で体現して、衛兵全員に波のように伝搬した。謁見の間はたちまち、拍手と歓声に包まれた。
本来であれば、僕は成し遂げた正義に対して、思いっきり胸を張りたい。けれど、僕の手を砂のようにさらさらとすり抜けてしまった、救えなかった命を考えると、素直に喜ぶことは出来ない。僕だけじゃなく、リタもタイキもションフォンも全員が同じ想いなのだろう。俯きながら、歓声を浴びている。
「して、貴殿らの勇敢なる働きに対して、褒美を与えよう。そうじゃな……金貨十枚を勇者各位に授けることとする」
金貨十枚は大金だ。銀貨二枚もあれば独身男性なら衣食住不便なく、1ヶ月を生活できる。金貨一枚に対して銀貨百枚に等しい価値だから、一年生活水準を上げて生活してもお釣りがくる額になる。
国王の発言にさらに歓声が沸き上がる。やはり魔物を討伐すると正当に評価がされて、兵士の士気を向上させるといったパフォーマンス的な位置づけもあるのだろう。やけに、兵士の食いつきが良い気がした。
予想通りの大金を得られるチャンスにタイキは目を輝かせて、僕たちの顔色を窺う。タイキから報酬に関して事前に提案を受けていたのだ、その通りにして良いという意味で僕は深く頷いた。続いて、リタもションフォンも同様に首を縦に振る。
「国王陛下!! 発言をしてもいいっすかね?」
「タイキか、いかがした?」
「あの、今回の報酬についてなんですが……」
国王陛下は怪訝そうな表情でタイキを見つめた。初めて転移してきたときのことを思い出していたのかもしれない。あのときのタイキなら、これじゃあ遊ぶには足りないと、平気で吹っ掛けそうだ。
「いただいた金貨すべてをゴビ村の復興に寄付したいんです!! あの村は魔物に蹂躙されて、復興するにはかなりのお金が必要だと思って……あの、その、少しでも足しになればと。これは勇者の総意です!! すべてゴビ村のために使ってください」
「……そうか、相分かった!! 貴殿らの想いしかと受け取ったぞ。余の名誉にかけて、必ずゴビ村を復興することを此処に誓おう!!」
「あ、ありがとうございます!!」
タイキの目が潤んでいる気がするが、それを伝えるのは野暮だろう。僕はタイキの肩を叩き、「やったね」と短く伝えた。この謁見の間で最初に出会ったときとは、見違えるようだ。今回の事件は僕たちの心に深い傷をつけたが、それだけ人として成長ができたということなのかもしれない。こうやって、大人になっていくのかなと少しだけ思った。
僕はそういえば……と、初めてこの謁見の間に召喚されたときのことを思い出した。僕たちがこの部屋から出て行った後に国王陛下が話していた“方舟計画”について少し気になっていたのだ。どういった計画なのかは全く不明だし、それとなくベルーガ先生にも聞いたけど、「なんじゃそりゃ、聞いたことない」と一蹴されてしまったのだ。せっかくの機会なので聞いてみることにしよう。
「あの、僕からも質問しても大丈夫ですか?」
「先程のタイキの発言から余は機嫌が良い!! 何でも聞くがよい!!」
「ありがとうございます!! ……では、お言葉に甘えまして、『方舟計画』って一体何なんでしょうか?」
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