第23話 自分自身を諦めない【タイキSide】
「カーミラ、逆側から逃げるんだ!!」
「……う、うん」
この狭路はL字になっている。うまくいけば逃げ切れるかもしれない。森の方に逃げてもいいか?
くそ、オレは頭がよくねーから、何が正しい判断かわからない。こんなとき、ションフォンなら正確な判断を下せるだろうし、セイシロウならそもそもこんなピンチに陥っていない、リタは近づく前に倒せていたはずだ。クソッ、こんの無能め!!!!オレは自分の膝を思いっきり叩く。
ただ、カーミラはうまく逃げ切れ……。
「きゃああああああああああああああああああ」
この声、カーミラか!?くっ、一度結界魔法を解き、カーミラが小走りで向かった逆側の通路へと全力ダッシュする。L字の角を曲がった瞬間に、カーミラが尻もちをついていた。
その先にも魔物だ。魔物の瞳にカーミラが映りこんでいる。クソッ、挟み込まれた。
「カーミラ、オレの後ろにッ!!」
「う、うん!!」
這い寄りながらも、何とか俺の背中へと辿り着く。オレは、L字の角に陣取り、両手を魔物に掲げて、結界魔法によるエーテルの防護壁で侵入を拒む。こうなったら、時間を稼いで根競べをし続けるしかない。魔物が諦めるのが先か、オレが諦めるのが先か。
魔物はキュイーンと駆動音を立てながら、空回転をし続ける。
「はあ、はあ……。絶対に諦めないッ!!」
壁が壊れそうになると、即時に新しいエーテルの壁を作り出す。でも、じわじわと魔物が迫ってくる。
「もう、いいよ……」
カーミラは諦めたのか一人呟く。オレは振り向くことなくカーミラに伝える。
「イヤ、オレはカーミラの命を諦めない!! 最期までオレはカーミラを守り続けるッ!!! それがせめてものトーマスへの罪滅ぼしだ」
トーマスは自分の命よりも「カーミラ、逃げるんだ!!」と、彼女の命を優先した。それだけカーミラのことを大事に思っていたということだ。トーマスのためにも、カーミラを守り抜かなければならない。
「それに……オレはオレのことも諦めない!! 」
オレは背中で隠れているカーミラに、顔だけ向けて微笑んだ。自分に対しても諦めが悪いのが、オレの良いところだと思っている。自分がどれだけクズかは自分で分かっている、それでもいつかは理想の自分になれると信じて。必死にあがいてやるさ、この残酷な世界で!!
いつのまにか、最初に見つかった魔物との距離はもう目と鼻の先だ。途中でカーミラの様子を見るために結界を解いてしまったことで、距離をかなり詰められてしまった。たとえ、オレが死ぬことになってもカーミラだけは絶対に守り抜く。
オレはカーミラを抱き寄せて、耳元で囁いた。
「オレが食べられている間に森へと逃げろ」
「そ、そんなこと!!」
「トーマスとオレのためだ!!」
オレの必死の形相に折れたのか、カーミラはこくりと頷く。ただ、オレは諦めるつもりはない!!あくまで、最悪のなかの最悪の場合の話だ。最期の力を振り絞って、結界魔法を展開する。これを突破されたら、オレは死ぬ……。
だけど、ああ、よかった――。
「……おせーよ」
オレの発言は空から落ちてきた勇者によって掻き消された。一番傍にいた魔物目掛けて、隕石のような正拳が中心を貫く。魔物は活動停止をして、その魔物の頂上に立つ人物が一人。
「タイキ、大丈夫だった!?」
「セイシロウ、おせーよ。もう少しで死ぬところだったぞ」
「ごめん!! 最初に見かけた奴以外に、もう一体魔物を見かけたんだけど、討伐に時間がかかっちゃって……。それにしても、タイキはすごいな!! 二体を同時に抑えてくれていたのか!?」
「はッ、うるせーよ。さっさともう一体ヤるぞ!!」
「うん、もちろん!」
急に力が湧いてくる。やっぱりセイシロウがいると心強いな。エーテルはすでに底をつく寸前だけど、セイシロウと一緒ならやれる気がする。今の自分の力不足は認めているが、だからといって決して自分のことを諦めない。必ず勇者になってやる、セイシロウみたいな勇者に、な。
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