第21話 またしてもオレは何者にもなれない【タイキSide】
*
また、だ。
オレ、識部大器はただ震えているだけだった。また、オレは何者にもなれなかった。
セイシロウ、ションフォンは元々オレとは違う、持っている側の人間だと思っていた。だから、今回も魔物を討伐するのもあの二人だと最初から知っていた。そこにほんのちょっとでいいから、オレが手助けすることが出来ればと思っていたんだ。
でも、実際には震えていただけ。勇者会議の際に、魔物と戦う“勇者”を決断したはずなのに……。
リタも生成魔法で魔物をあっという間に倒しちまった。オレは隣で自分が動かなきゃと、自身と戦っているつもりになって、結果何も成せていなかった。
はん、結局オレなんてこんなもんだ。やさぐれた心が自分を守るために、また正当化を始めようとする。まあ、普通の人はこんなもんだ、次こそはやれるさ、って、勝手に自分を正当化するんだ。
自分を嫌いになりそうだ。自身は特別なんだと思い込んで、強気の口調で、調子の良いことを口にする。実際には何もできないのに。こういう人間がオレの一番嫌いな奴なのに。
「タイキ。あたし、この子を宿屋に預けてくるね」
「ああ……」
リタに短くそう伝える。リタが宿屋に入るのを確認すると、あれ、視界が歪む。無力感を表すように涙が頬から垂れ落ちた。……ダセッ。
一刻も早く泣き止みたかった。オレの心の内とは裏腹に、雲一つない青空を見上げながら歩き始める。
一刻も早くこの場から立ち去りたかった。オレだけが勇者にふさわしくない気がして。
涙をこらえて、前を向いて歩いていると、この村の惨状が目に飛び込んでくる。もはや、天災だ。オレが元いた世界は地震も多かったから、大きな地震で人々の生活が唐突に奪われることがあった。それと同じように魔物という天災が、家屋や馬小屋や小麦畑を根こそぎ破壊しつくしていた。
「トーマス!! 頑張って、もう少しだから!!」
声の方向に振り返ると、オレと同じくらいの年齢、おそらく高校生くらいの少女が、トーマスと呼ばれた少年の腕を懸命に引っ張っていた。トーマスは家屋に押しつぶされて、瓦礫の下敷きになってしまっている。
「カーミラ、逃げるんだ!! まだ奴らがいるかもしれない!!」
「ダメ、トーマスを置いていくことなんてできない!!」
周囲を見回す。が、頼りになりそうな屈強な男はいない。オレは少しでも誰かの役に立ちたかったから、急いでカーミラと呼ばれた少女に駆け寄った。
「大丈夫か!? 手伝うぞ!!」
オレとカーミラの二人掛かりでトーマスの右腕を引っ張るが、どうにもならない。瓦礫から地道にどかしていくしか手はなさそうだ。まずは家屋の屋台骨となっていた柱をどかそうと、手を伸ばした途端、急に視界が暗くなった。
いや、周囲が暗くなったわけじゃない。雲一つなかったはずなのに、オレの影を巨大な球体の黒い影が覆ったのだ。嫌な汗がつぅーっと背中に流れる。オレは慌てて振り返った。
黒い巨大な球体、魔物がオレの背後にいた。オレにはそいつがニヤリと笑いかけているように見える。
隣にいたカーミラと呼ばれていた少女も異変に察知したようだ。必死にトーマスの腕を引っ張るが、やはり、どうしようもない。
魔物の影がどんどん伸びていく。オレらを捕食しようと、口を縦長に開いているのだ。魔物は人の脳を食す、ベルーガ先生の授業を思い出す。そんな死に方絶対嫌だ!!魔法を……、いや、間に合わない、くそ…くそ!!!!
オレはカーミラを抱えて横に跳ぶ。食べられない位置まで逃げなきゃいけない。だけど、カーミラは精一杯「トーマス!!」と叫んで、オレの制止を振り切るほどの力強さでトーマスの元に戻ろうとする。オレは必死にカーミラを押さえつけておく。次に耳に入ってきたのは、鼓膜を震わすほどの彼女の絶叫だった。
「きゃああああああああああああああああああ!!」
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