第20話 生成魔法【リタSide】
祝!20話!
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あーし、ううん。あたし、リタ=キュリリアは十人の兄弟姉妹に囲まれて育ったんだ。あたしは次女で産まれたから、上にお兄ちゃん二人とお姉ちゃん一人、四人目の子供だった。
人里離れた小屋で唯一の社会との接点が家族。いま思えば、なんでこんなド田舎に暮らしてるんだろって思うんだけど、当時のあたしにとって、それは普通のことで疑問すら湧かなかった。
おっ父は狩猟で生計を立てていた。幼い頃は一緒に森へと繰り出し、よく仕事を見せてもらっていた。おっ父の見事な腕で鹿や猪を一矢で仕留めると、あたしは喜んで「今日のディナーはパーティーだね!」とはしゃぐんだ。おっ父はそんなあたしに暖かい眼差しで、あたしの頭がすっぽり収まる大きな手で撫でながら、よく語ってくれていた。
「生きるために命をいただくんだべ」
あたしも弓を射れる年頃になると、おっ父に教わりながら、森に出て、獣を狩った。生きるために。その肉を持って帰ると下の子達が大喜びしてくれて、「お姉ちゃんは凄いんだぞー、がおー」とついつい自慢をするのだ。一番喜んでくれるのは末っ子だった。満面の笑みで「やたー!! お肉だあーー!!」って瞳をきらきらさせながら、涎をだばだば垂らすんだ。
あたしはどうしてこんなことを思い出してるんだろう?もしかしたら、魔物を前にママと叫んでいる男の子がちょっとだけ末っ子に似ていたからかもしれないなぁ、と思った。
魔物の咀嚼が止んだ。
必死に母親のことを揺すっている男の子に魔物の目が焦点を合わせた。ああ、次の獲物に狙いを定めた肉食獣とおんなじだ。この子を食べようとしてる……。
「だめっ……」
あたしのささやきが聞こえた人はいない……。タイキもまだあたしの真横で震えていて、あたしの声に耳を傾けるほどの余裕はなさそうだし、頼りになりそうなセイシロウもションフォンも他の魔物で手いっぱいだもん。
だから、あたしがどうしたいか。
「いいか、おまんはおまんのやりたいことをやればいいけろ。このままここに暮らして、わしの手伝いをしてもよいし、都会に出て、やりたかったモデルをめざしてもいい、だからな……」
都会に憧れを抱いて夢を追いかけるか決断しきれないあたしにおっ父が話しかけてくれたことを思い出す。当時は下の子の面倒を見なければならなかったし、おっ父とおっ母の手伝いもいっぱいあった。
自分の夢を諦めないといけない、そう思ったんだけど、諦めようとすればするほど、自分の夢が膨らんでいって、どうしようもなく諦めきれなくて、おっ父に相談をしたんだ。都会に出てモデルをやりたい、と決意を伝えたときのおっ父の言葉だった。
「おまんはおまんの感情にうそをついちゃいかん。全力でやりたいことをやれけろ」
その言葉があたしの叫び声の引き金になった。
「だめぇぇぇぇええええええええええええええええええっ!!!!」
あたしの右手に刻まれた魔法陣が光りだす。魔法陣は十字マークに十字の交差点に小さい丸が描かれている。左手に体内のエーテルが集まり、なにかの物体を形成していく。そして、現れたのはコンパクトボウ、おっ父が教えてくれた狩猟で命を狩るために必要な道具だ。
弦にエーテルで生成された光り輝く矢をセットして、弓をしならせるように弦を思いっきり引く。
あたしの魔法は生成魔法。体内のエーテルを自分がイメージする実体がある武器に変換をすることが出来るんだ。生成魔法は使いこなしていくと自分のイメージ次第でいろいろな使い道の道具を作ることが出来るらしいけど、あたしは馬鹿だからか、一番イメージしやすい武器しかまだ作ることが出来ない。それが慣れ親しんだ弓矢だった。
弓がしなり、ギリギリと音を立てる。あたしは深呼吸をして不要な力を抜く。矢を抑える右手の親指、人差し指、中指に力を込めて弦を静止させた。
狙いを定めるんだ。魔物の弱点である中心に……。
魔物が傍にいた男の子に対して捕食しようと、球体を半分に割って大きな口を開く。見えたっ、中心!!
「いまっ!!!!」
矢を抑えていた指を離して、弦がびゅうっと風切り音を奏でる。放たれた光の矢は一直線で獲物に向かう。魔物の中心のど真ん中に命中して、中心はぴしぴしと音を立てて崩れ落ちる。魔物は大口を開いたまま、シューンと機械の停止音と共に動作を停止した。口から矢だけが突き出ている。
やった?やったああああああああああああああ!!!!
命中した!!さすが、おっ父の娘だけあるけろ!!はっ、喜んでいる場合じゃない。
あたしはすぐに男の子へと駆け寄る。幸せを造り上げていたと簡単に想像できる家屋が魔物によって粉砕され、今となっては散乱した木片となっている。そんな木屑にあたしは膝をつく。そして、男子の頭を優しく抱き寄せた。
「辛いときは甘えていいけろ。苦しいときは頼っていいけろ。悲しいときは泣いていいけろ。いっぱい甘えて、頼って、泣いて、最後にいっぱいご飯を食べて、明日は自分で立ってみる。それでダメならまた同じことを繰り返して、また次の日に一歩は自分で歩いてみる。そして、気づいたときには笑っていられるから」
あたしはちゃんと笑えているだろうか、正直わかんない。でも、男子に向けて精一杯の笑顔を浮かべる。
そんな、あたしの顔を見て、男の子は涙目になり大声を出して泣き出した。
「よしよし、大丈夫、大丈夫」
あたしは自身の涙を押し殺していることをばれないように、男の子が泣き止むまで、頭を撫で続けることを決意するのだった。
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