第19話 質量魔法
申し訳ありません!スマホで本話を読み直したら、あまりに読みにくかったので、改行や、表現のみ変更しました。内容自体には3/26投稿分と差分ありません。
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突如として地鳴りが宿屋の一室に響き渡る。音の発生元を知りたくて、窓から覗いてみるが様子が分からない。ただ、明らかに異常事態が起きたのだとわかる。というのも、地鳴りに続いて悲鳴も聞こえるのだ。
「外の様子がおかしい。ちょっと見に行こう」
「であれば、全員で外に出た方がいい。もしかしたら、最悪ケースの可能性もある」
「最悪ケースってなんだよ?」
タイキの質問に対して、ションフォンは「最悪は、最悪だ」とぼそっと呟いた。
ションフォンに続き、タイキ、リタも階段を駆け下りていく。僕は部屋に残されることになったレーベさんに簡潔に伝えることにした。
「この部屋で待ってて、外はどういう状況かわからないから」
「はい、どうかご無事で」
レーベさんは胸の前で祈る仕草を僕に向ける。僕はなるべく心配かけないように明るく伝えることにした。
「うん、もちろんだよ。……フロリダさんもレーベさんのことをよろしくお願いします」
「はい、もちろんです」
僕は窓を開ける。階段を駆け下りるよりも、窓から降りた方が早い。
エーテルもあるし、二階程度であれば怪我をすることはないだろう。
僕は窓から見えた木に一度飛び移り、そこから宿屋の正面玄関に向けて大きく跳躍した。足が地面に着いた瞬間に衝撃はあったが、痛くはない。ある程度の高さで跳躍してもエーテルが守ってくれるため、死ぬことはないかもしれない。
宿屋の正面口にいた他の勇者と合流したが、すでに凄惨な光景が広がっていた。
目が届く範囲で魔物クーゲルが二体。
黒い球体の悪魔は木造の家を半壊にしておいて、あたかも住人かのように静かに居座っている。
食事中だったのだろうか、料理が散乱されていた。クーゲルが動かないということは、つまり食事中ということだ。首がない死体をみて、「お母さん、お母さん!!」と身体をゆする男の子がいた。
もう一体の魔物は車輪のように駆動している。
クーゲルが進んだ後には一本線の跡が幼児の落書きのように大地というキャンパスに滅茶苦茶に描かれていた。たまに赤く潰れたトマトのような染みがある。あれが人だったなんて思いたくない。こちらの個体はエネルギー源となるエーテル量が充分なのか、人を食べる気配はない、ただただ走り回って殺戮をしている。
「手分けして、すぐに助けないと!!」
僕の提案に対して、ションフォンが首を横に振る。
「駄目だ!!」
「なんでだよ、ションフォン!? まだ脅えているからとでもいうつもり!?」
「違う!! ……いやセイシロウの言う通り、そんな簡単に恐怖を人間は克服できない。俺が脅えているというの認めるが、それよりも手分けをするということを許容できない!! 勇者の誰もが欠けることは出来ないし、恐怖を抱いている人もいる!! 全員で行動するべきだ!!!!」
ションフォンの言葉を受けて、僕ははっと気づき、他の勇者の様子を伺う。リタ、タイキの二人は震えながら立ち尽くしている。確かに即座には動けなそうだ。
僕は現世とは思えないほどの地獄を目の当たりにして、取り乱していたのかもしれない。
「ションフォン! ごめん!! 僕が冷静じゃなかった、これからどうすればいい!?」
「……まずは動き回っている方からヤる! 犠牲を最小化する必要があるからな。もう一体は食事中だ。直ぐには動けないはずだ」
くっ。とはいえ、男の子が魔物の側で必死に母親をゆすり続けている。母親の突然の死を受け止められていないのだろう。無理もない……。
まるで、トロッコ問題だ。ある人を助けるために他の人を犠牲にするのが許されるのかのを問う倫理学上の思考問題。今回で言うと、より命を奪っている魔物を優先にするが、もし食事中の魔物が動き出したら、男の子が危ない。自分の選択で命を天秤に乗せなきゃいけない。
「分かった! ションフォンの案で行こうッ!!」
「ああ!! リタ、タイキ!! 動けそうか?」
「ご、ごめん、直ぐには、む、無理けろ……。あっちを助けてやるだべさ!!」
リタが素の口調になっている、心理的負荷が相当掛かっている可能性があった。
「オ、オレも。落ち着いたら、大丈夫だから」
タイキも青ざめた表情で答える。それを受けてションフォンは二手に別れるしか手がないことを悟ったのだろう、覚悟を決めた面持ちで動き回る魔物を見据えた。
「分かった、何かあったらタイキの魔法で時間を稼ぎつつ、俺らを呼ぶんだ! 必ず駆け付けるようにする!!」
「うん」
「ああ」
二人の返事を聞いた瞬間に、僕は魔物に向かって駆け出す。脚に力を溜めて全てを推進力へと変えた。強化魔法、悪を倒すための僕の武器だ。
一気に魔物との距離を詰めると、魔物の一つ目が僕を捉える。敵だと判断したらしい。僕に向かって大きな口を開いた。口内に中心を捉えるが、拳を叩き込むよりも魔物が口を閉じる方が速いと感覚が告げている。
「セイシロウッ!! 飛び出しすぎだ!!」
ションフォンの静止を促す言葉が遥か後方から聞こえてくる。
「くっ、そぉぉ!!」
このままでは魔物の餌になってしまう。
僕は咄嗟に跳躍して、上空に回避する。急に方向転換をしたので、身体が空中で横回転した。
地面への着地と同時に次の行動に移る体勢をとるが、魔物の単眼が急に背面に現れて、僕を捉えた。「お前は餌だ、逃がさない」と言わんばかりだ。
チッ。前回は食事中だったから魔物を簡単に葬ることができたのだと痛感する。動き回り、向かう先々で花弁のように開かれる刃は脅威以外の何物でもない。
僕一人なら勝てなかったかもしれない。でも、僕は一人じゃない!!
僕の視界に映っているのは魔物ともう一人。その背後で構えるのはションフォンだ。魔法陣が刻まれた右手を魔物に伸ばし、左手を肘に添えている。
「潰れろッ!!」
ションフォンの掛け声に合わせて、魔物がミシミシと地面にめり込む。
満月が徐々に欠けていくかのように、球体である魔物が大地に潜り欠けていく。
最初、ベルーガ先生の話を聞いた時に思ったのは重力魔法。だが、この世界では科学が発展しておらず、重力という概念が発見されていないためか、このように語られていた。――“質量魔法“と。
効果は見ての通り、自身のエーテルを消費して、目視できる物体の質量を重くしたり、逆に軽くしたりできる。
ただし、効果範囲が思ったより狭いのと、対象物体との距離が遠いと効果が弱まる。また、僕の強化魔法に比べると中心を破壊するということには向いていない。
だが、強化魔法とは違い対多数でも威力を発揮するのが強みの魔法だ。なによりも動き回る魔物を抑止できることは最大の長所になる。
「動きを止めた!! セイシロウとどめを!!」
僕はこくんと頷いて、右拳にエーテルを集中させる。
本来、魔物を倒すのであれば、上空からの攻撃でないと横滑りが起きて、中心を捉えるのが難しい。だが、ションフォンが身動きを取れないように抑えてくれている。
この状態であれば人を飲み込むほどの大口を開くこともできないだろう。よって、中心を目掛けて、拳を振りぬくのみ。
「世界の悪を滅ぼすために、僕は正義を遂行するッ!!」
僕の拳は魔物の中心を一寸たがわず捉えて、粉々に破砕した。
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