第17話 軍略会議【ベルーガSide】
*
「はあ……」
自然にため息が漏れちまうぜ。俺、ベルーガ=ペンドラムはロイゼンサンクチュアル王国、王都シーバルセンの廊下を憂鬱な思いで歩いていた。将来の軍方針を決める軍略会議に、あの事件を報告しろ、と早馬でお達しが来たのだ。軍略会議とは、俺ら部隊長のさらに上位である、軍隊長クラスが取り締まる会議。正直、何を言われるか、わかったもんじゃねー、俺は何度目かわからないため息を再度ついた。
「あ、ベルーガさんじゃないですか。お久しぶりです!」
「ああ、シュトライか、索敵部隊長昇進おめでとさん」
「いえ、運が良かっただけですよ」
軍服に身を包み、肘まで包まれる黒手袋を着用している、短髪のザ好青年のシュトライが俺に話しかけてくる。キラキラしたオーラが余計に俺の鬱屈な気持ちを助長させるようだ。
「はあ……」
「人の顔見て、ため息つかないでくださいよ、どうしましたか?」
「いや、なに、お偉いさんからお呼ばれだよ」
「ああ、あの件ですか、何でも魔物が魔法訓練中に現れたとか? しかも堀の中という情報も聞きましたが」
周りに人がいないかをシュトライが確かめながら、気持ち小声で俺に話しかけた。王城内でどこに機密情報を漏らす輩がいるかもわからん。国民に情報が広まって不安を無駄に煽るわけにはいかない、当然の措置だろう。
「ああ、お前の耳は相変わらず早いな。その通りだ、勇者の一人、セイシロウが魔物を討伐したが、な」
「今回は《・・・》優秀そうですね」
今回は、という言葉に力をこめる。シュトライも勇者が機能するかを心配していたんだろう。
「ああ、とはいっても、さすがに勇者の中で動けたのは一人だがな、っとわりー、そろそろ行くわ」
「すみません、お時間を取らせてしまって、ご武運を」
「ああ、お前もな」
俺はシュトライに対して敬礼をしてから、軍略会議へと重い足を運ぶことにする。あと数分で定刻だ。覚悟を決めて、三回ノックをすると、「入れ」という言葉が耳に入る。ため息を押し殺し、深く呼吸をしてから決戦の場へと踏み入ることにした。
「失礼します、ベルーガ=ペンドラム軍育部隊長、ご報告に参りました」
長机の上座には第一王子殿下のウィズダム=セントス総司令官、そこから参謀軍隊長、国防軍隊長、襲撃軍隊長と続き、椅子に深く腰掛けている。一つ空席が見える、あの位置は近衛軍隊長の席のはず。第二王子殿下はお見えになっていないようだ。
ちょうど、前の議論が終わったところだったのか、国防軍隊長が魔術で火をつけて煙草を吸っていた。王城の軍議室には煙草の匂いで充満している。
「うん、よく来たね、ベルーガ。勇者の皆様は元気かな?」
ウィズダム第一王子殿下が俺に語りかける。王族であることを証明するかのように、転移魔法陣が右手の甲に刻まれている。
だが、こんなこと言うと懲罰もんだが、とてもじゃないが王族には見えない。ぼさぼさの髪にだらしない服装。興味がないものにはとことん関心がなく、自分に興味があるものには執拗に粘着する。この人の目を見ていると何でも見空かれてしまいそうだ。言うまでもなく俺はこの人が苦手だ。
「はっ!! 勇者一行全員無傷となります! 一名戦闘後に意識をなくしたものの、外傷はなく、すぐに目を覚ますものと思われます!!」
「真面目に捉えすぎるなよ、単なる挨拶の口上だよ、まだ緊張がほぐれていないかな?」
「いえ、そんなことは……」
いくら現人神の血を引き継いでいるとはいえ、自分よりも一回りも下の人から、揶揄われて、しどろもどろになってしまう。
「でも勇者が無事ならよかった。彼らはこれからの王国を守備するにも魔王を討伐するにも必要な人材だからね」
「まさに、その通りですな。今回の勇者は前回とは違うようだ。前回は誰一人動けなかったじゃないか、初戦で二人を失う大損害だったからな」
軍議室が笑い声に包まれる。何が面白いのかわからんが、ひとまず場の雰囲気に合わせて乾いた笑いをする。笑い声を収まったのを見計らって、ウィズダム王子殿下が切り込んでいく。
「さて、魔物をどうやって勇者が倒したかを報告してもらってよいかな?」
堀の内部に魔物が現れたという一大事には触れないことから、勇者がどうやって魔物を倒したのかに興味があるようだ。優先順位が違うのでは、と疑問を覚えながらも渋々説明をしていくことにする。魔法訓練中に魔物が1体現れたこと、勇者のうち3人は動けなかったが、1人の勇者セイシロウが強化魔法を駆使してこれを討伐したこと、セイシロウがエーテルを使い果たし意識を失ったが、現在はゴビ村にて回復をしているだろう旨を簡潔に報告した。
「ふむ、そのセイシロウという勇者おもしろいね、恐怖よりも勝る感情があるのかな、うん、我も興味が湧いてきたよ」
「はい、おそらく仲間のために奮闘したのかとは思いますが……」
「いや、違うね、おそらくは自己実現のためだ。人間は自分が死ぬという場面で他人のために動くことは出来ない。たとえば、報酬のため、名誉のため、地位のため。もちろん、愛する人や大切な人を守るためというのはあり得るかもしれない。それにしても、結局は自己のためなんだよ。その人がいなくなったら、自分が自分ではなくなってしまうから。よって、ベルーガ、君のいう仲間のために動いていたにしても、自己のため。そして、なにより、彼らの間に絆はあるだろうが、一か月で自己の命を懸けるほどの絆が生まれるとは考えにくい。おそらく、セイシロウにあるのはもっと単純な自己表現の上の行動なのだろう。だからこそセイシロウという人間に興味が湧いた」
ウィズダム王子殿下は、にやにやと不敵な笑みを浮かべている。ああ、やっぱりこの人は嫌いだ。その推論があっているのかは知らんが、この人がそう言うのであれば事実なのだろう。一瞬でセイシロウの心も見透かしてくる。
「……確かに殿下の言う通りかもしれませんね、以上が報告になりますが、魔物が堀の内部で現れた原因調査についてご報告は必要でしょうか?」
「いや、いらない」
何でそこまできっぱり断れる。言うて、情報をいくら集めても原因は皆目見当がつかなかったため、途方に暮れていた。俺としては助かるが、随分とあっさりしている。もしかしたら、軍隊長陣は魔物が現れた原因を掴んでいるのかもしれない。
「恐れながら、今回の件について何か原因に見当が?」
「ああ、堀の内部に魔物が侵入した原因についてだが、それは我の命令によるものだ」
「は?」
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