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第16話 ギャルへの道は険しい

 

 *


 勇者会議の後に、「久しぶりの脳みそ使って疲れたー」とタイキとリタは甘い物を探し求めに部屋から出ていった。僕は身体の調子が完全回復をしたので、なまった身体を鍛えるために正拳突きを仮想敵に繰り出していた。単に空手の練習とも言う。


 ションフォンは壁に寄りかかりながら、読書をしている。特に僕のほうを見るわけでもなく、本に目を通しながら、時折、ページをめくっていた。僕は先ほどの会議のことを聞きたくなる。


「ションフォン、聞いてもいい?」


「なんだ?」


「わざと僕たちを“勇者”に誘導して、自分は“叛乱”に入れたでしょ」


 ションフォンは、まさにページをめくる途中だった。その指を止めて、本をパタンと閉じる。そして、本から僕のほうを見つめなおした。


「何で分かった?」


「最初に僕を指名したよね? 絶対に“勇者”に入れる僕に先陣をきってほしかったのかなと思ったんだ。僕が“勇者”に入れれば、後の二人も“叛乱”は選びづらくなるし。……あとは、ションフォンが“叛乱”を選んだとき、『俺も現状では取るべき内容ではないとは思っている』って語っていた。……にも関わらず、“叛乱”に投票していたから、おかしいと思ったんだ」


「……ふう、さすがに露骨すぎたか。とはいえ、あの二人には気づかれていないから良しとするか」


「どうしてそんな遠回りのことをしたの?」


「魔物が怖いというのは本音だ。あんな化け物に立ち向かえるなんて、セイシロウ、お前は勇敢だ。……だが、全員が全員そうじゃない。このまま勇者を続けるにしても魔物を倒すことを自分の意志で選択をさせる必要があった」


「なるほど、確かにどちらにしても険しい道だし、自分で選択をしたのであれば、これからも戦えるかもしれないね。……でも、それならションフォンも“勇者”でよかったんじゃないの?」


「いや、“叛乱”を選択するべきだと思った」


「ん、なんで?」


「そうだな、“勇者”を選んで、結果、魔物に俺らのうちの誰かが殺されるというのは、シチュエーション的に多いにありえる可能性だ。つまり、必ずしも“勇者”が正しい選択ではないと伝えたかった、特にお前にな」


「……」


 僕は口を塞ぐことしかできない。王国民を助ける“勇者”という選択肢しかないと思ったけど、その選択は僕も含めた勇者を殺す選択かもしれない。そのとき、僕は本当に後悔しないだろうか。答えが出ない。


「……そうか、誰かが言わないといけない役割をションフォンが担ってくれたのか……、いつも苦労かけているね、ごめん、ありがとう!!」


「いや、お前らと、この悪に染まった世界で生き残りたいからな、当然のことだ」


 うん、ションフォンは頭も切れるし、面倒見の良さは勇者の中でも群を抜いている。僕が少しでもションフォンの負担を減らしていきたい。もっと、努力しないと。強くなることも必要だし、ションフォンのように考えを巡らせることが必要だ。愚直に正義、正義とうたっても、たぶん誰も守れないから。


 ふと、正義で思い出した。ションフォンが正義を成しているときが一番興奮状態に陥るという研究があったといっていたっけ。だけど、そのあと、「だが、正義は……」と言い淀んで、本筋ではないと話題を変えられた。あのとき、何を言おうとしたんだろうか。わからない、素直に聞いてみることにする。


「さっきの会議でションフォンが話していた『だが、正義は……』の続きの言葉聞いてもいい?」


「ん? ああ、思い出した。確かに止めてしまったな。俺が伝えたかったのは、正義は……」


 そのとき、ドタドタと宿屋の階段を急ぎ足で上がってくる音――、その騒音でションフォンの発言がかき消される。部屋の扉は閉めているのに。よっぽど急いでいるみたいだ。と、思ったら、バタンと急に扉が開き、飛び込んできた人影があった。その姿に見覚えがある。


「はあ、はあ、はあ……」


「え、レーベさん!?」


「ぶ、無事でしたのね、セイシロウさん、良かったぁ!!」


 レーベさんの背後からメイドさんのフロリダさんの姿も見えた。仕えているお嬢様に付き添ってここまで来たのだろうか。結構王都から距離がある気がするが。


「どうして、ここに?」


「どうしてって、セイシロウさんが倒れたって聞いて、飛んできました」


 ま、まさか、僕が倒れているすきに今までの恨みを返そうと!!ひぃぃいいい、怖い!!あれ、でも無事でよかったって言っていた気がする。どういうことだ??僕の中でハテナが浮かぶ。


「えっと、とりあえず、セイシロウさんは怪我をしていない、元気いっぱいということですよね?」


「はい、この通りピンピンしています!」と、僕は正拳突きを繰り出す。うん、我ながら良い切れだ。


「はぅぅぅぅぅぅぅ、かっこょ」


 カッコウ??鳥でもいたのだろうか。僕は窓を覗いてみるが鳥は木に止まっていなかった。


「い、いえ、なんでもありません。でも、少し安静にした方がよいんじゃないかしら? ベッドもありますし、ほら、膝枕でも……」


 レーベさんはぺしぺしと自分の太ももを叩いてアピールする。おそらく馬で来たのだろうが、ショートパンツスタイルだ、もしかしたら、かなり馬に乗り慣れているのかもしれない。あらわになっている太ももがふるふると揺れる。膝枕か……、確かにこちらの世界に来てからやってもらっていないな。


「あー、たしかに、妹によく耳かきしてもらったなー。最近やっていなかったからお言葉に甘えようかな」


「え?」


「ん?」


 なんか、噛み合っていそうで噛み合っていない気がする。二人で首を傾げていると、ションフォンが間に割り込む。


「おい、この残念な女は誰だ? 見るからに俺の苦手なタイプだ」


「し、失礼ですね!!」


「あー、まだ紹介していなかったっけ、こちらレーベさん。あのお城に住んでいるお嬢様」


「お初にお目にかかります、勇者ションフォン、私の名前はレーベ=セントス。ロイゼンサンクチュアル王国の第二王女です」


「えええええええええええええええ!!」


 なぜかションフォンではなく、僕の声が響き渡る。レーベさんって王女だったの?確かに身分は高そうな気がしたんだけど。まさか王女様だなんて。今までの無礼で処刑とかになったらどうしよう、慌てて僕は土下座をすることにする。


「すみませんでした!! 今までのご無礼をお許しください!!」


「えっ、顔を上げてください!! 無礼どころか恩人なんですから、これからは今まで通りに振舞ってください。あまり気を使われるのは好きではありません。そ、それに将来のだ、だんなさま……」


 レーベさんはそう言いながら僕の腕をとり立ち上がらせる。純白のブラウス越しに柔らかいものが触れているがきっと気のせいだ、うん。あまりに柔らかくて話が耳に入ってこなかった。ふと、顔を覗くと、レーベさんが恥じらっているようだ。恥ずかしいのであれば離れれば良いと思うのだが……。ションフォンはそんな彼女を一瞥いちべつして一刀両断に叩き切る。


「ああ、第二王女。あの王の血を引いてやがるのか、通りでいけ好かないと思ったぜ」


「むっ! どういうことですか!? お父様と私は別の人間です。同じ王族だからと一緒くたにされることは好みません」


 先程の表情とは打って変わって、今度は顔を膨らませている。こうやって見るとコロコロと感情が変わって人間味があって可愛いなと思ってしまった。王女様に対して少し不敬だろうか。そんなことを考えているとまた別の声が部屋に響き渡る。


「おい、これどういう状況だよ!! なんでナイスバディの美女がセイシロウに抱き着いているんだよ、うらやま……、じゃなくてけしからん!!」


 いつの間にやら帰ってきたタイキが鬼の形相でこちらを凝視している。僕は今日勇者に殺されるかもしれない。タイキの後ろからひょこりと現れたリタが部屋の中を覗く。こちらを見ると驚きながら、ワンオクターブ高い声音で話し始めた。


「あれ、レーベちゃん、じゃん!! もしかして作戦ちゅうー?」


 後から入ってきたリタはレーベさんのことを知っているらしい。作戦が何のことを言っているかは分からないが、女子特有の踏み入ってくるなの雰囲気を感じる。


「リタちゃん!! はいっ、さっそくリタちゃんから伝授された技を使わせていただいています」


 う、そんなに胸を当てつけないでくれ。僕は石像、僕は石像、と自分に言い聞かせて自制を保つことに集中する。一方で、タイキは「んにゃろおおおおおおおおおおお」と叫びながら、血眼で僕を凝視している。僕は親の仇かなにか、か。静かにしていたションフォンに助けを求めようと視線を向けると、我関せずと読書をしていた。そんな僕の気持ちを知らないでリタは話を続ける。


「やりおるねーっ! さすがあーしの見込んだヒロイン!! これでレーベちゃんも立派なギャルだよっ!!」


「本当ですか!? やりました!! けどギャルってなんですか?」


「あーしみたいにイケている女のことだね! あ、そういえば、この前の……」


 だれか、この状況を助けてくれ。僕の声は誰の耳にも届かないのだった。


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