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第13話 レーベの恋心【レーベSide】

 

「その行動は合意の上ですか? 僕にはそうは見えないけれど」


「ああ??」


 前方、僅かばかり距離がある位置から話しかけてくれたのは、あのとき――私のあられもない姿(けっしていかがわしい意味ではなく、布団にくるまっている姿)を見た勇者、たしかフロリダの話ではセイシロウ……でしたか。


 セイシロウの後方にはフロリダが走って、こちらに向かってきている姿が見えます。そうですか、フロリダ、間に合ったのですね。ただ、助けてくれるかは分かりません。彼にひどい暴言を言ってしまった気もしますし……。


「セイシロウ、あの、先日は失礼なことを言っておいて不躾ぶしつけなのは重々理解していますが、助けてくれないでしょうか?」


「ん?」


 セイシロウは何を言っているのかわからないといった顔をみせながら、首を傾げる。やはり、助けるのは抵抗感があるのでしょうか。思い返してみると、変態とかクズとか散々な言いようでしたし。


「質問の意図がよくわからないけれど、助けるなんて当然だよ。同意もなく、無理矢理、連れて行くなんて、僕がいた世界では立派な犯罪だ!!」


 え?こんなにもすんなり……。もしかしたら思ったよりも、懐が広い方なのかもしれません。


「さて、君たちは何か言い分はあるのかな? できれば大人しくお縄についてもらえると助かるんだけど……」


「はあ? なに正義のヒーローぶってんだよ!! 少し痛い目を見てもらう必要があるようだな」


 ひぃ。首を回して骨を鳴らすフレアラーテの威圧感にまたしても短く悲鳴を上げてしまいます。


 彼の掌から炎が生成――、魔術による攻撃を仕掛ける準備をしているようです。この世界では当たり前ですが、エーテルで守られているため、物理攻撃は効きません。喧嘩にしても魔術攻撃が一般的です。勇者とはいえ、まだこちらの世界に来て一週間やそこら。とてもじゃないですが、フレアラーテには勝てないかもしれない。


「セイシロウ、む、むりそうなら逃げても……」


 そんな私の言葉に反して、セイシロウも数回ジャンプをして、準備運動を始めています。そして、一言、ぼそっと彼はつぶやきました。


「誘拐犯ということでいいよね? つまり、魔物に及ばずとも悪と認定する。よって――、世界の悪を滅ぼすために、僕は正義を遂行する」


 一瞬でチンピラへと迫る体躯たいくはさながら突風のようでした。あまりの速さにフレアラーテは、手の平に収めていた炎の球をセイシロウへぶつけようとします。


ぜろよッ、クソガキが!!」


「きゃあぁぁぁああ!!」


 あまりの高熱に叫んでしまいます。魔術を人に向かって投じるなんて!本当に死んでしまいます!!


 白煙が立ち上がります。セ、セイシロウは!?


 セイシロウは炎の球を避けていたらしく、気づいたらフレアラーテのすぐ傍に、そして鉄拳を振りかざします。


 で、でも、物理的な攻撃ではエーテルで守られて効かないはず……。フレアラーテはそれを理解して勝利の笑みを浮かべています。おそらく、魔術が使えない勇者なのでしょう。これだと勝ち目はないのでは……。


「え!?」


 そんな想像とは裏腹に、セイシロウの拳がフレアラーテの頬にめり込み、身体を吹き飛ばしました。大男をあんなに吹き飛ばせるのでしょうか。十メートルは飛んでいるようにみえました。


 それよりもなによりも、物理攻撃が通ったということは、身を守るエーテルよりも圧倒的なエーテル量で殴ったということです。そもそも、この世界は魔術がものをいう世界です。当たり前ですが、人が殴られる光景を私は見たことありません。その爽快感は今まで得たこともないものでした。


「あ、兄貴ぃ!!!! ひ、ひぃ……、覚えてろよ!!」


 どこかで聞いたことあるようなセリフを吐き捨てて、子分は彼を連れて逃げていきます。セイシロウに対して遠巻きながら、露店の店主や通行人客から「よくやったな」、「兄ちゃん、すごいな」と拍手喝采はくしゅかっさいで包まれます。私は危機が去った安心感からか、腰に力が入りません。へなへなと座り込んでしまいます。


「大丈夫?」と、セイシロウは私に手を差し伸べてくれます。な、なんでしょう、なんだか心臓の鼓動が早い気が……。セイシロウが一際輝いて見えます。もしかしたら、異国から来た王子様なの……かも?あのだらしない姿を見られたのも、自分のありのままの姿を生涯の伴侶に見せるように神様(決して現人神あらひとがみなどと称えられるお父様ではありません)がお導きをしてくださったの……かも。


 初めての感情で、自分がどうにかなってしまいそうだから、少し手を握るのが、ためらわれます。……でも、差し向けていただいた手をとらないと、し、失礼ですし、仕方なく。


 手を握って、私を起き上がらせていただきます。ああ、殿方の人の手です。ごつごつしていて、私の手とは全然違う。離したくなくて、ついぎゅっと握ってしまいます。


「ん? 本当に大丈夫? 顔も真っ赤だけど」


「え、あの、これは……今日は一段と暑いですね」


「そうかな? はっ!? も、もしかしてまだ怒っている? あのときのことを根に持って……」


「怒っていません!! むしろ、その逆というか…………」


「逆??」


 どうやら好意を持ってしまったようです。セイシロウ……さんは気づいていない様子ですが……。これは私の恋心に気づかせるには骨が折れそうです。それでも、いつか絶対。セイシロウさんの手を離さずに握り続けることにします。


「あ、あの、ごめん、一つだけ助けたお礼に、というつもりはないんだけど、お願いがあって……。噴水で他の勇者と待ち合わせしたんだけど、道に迷ってしまいまして。噴水まで案内してもらえないかな?」


「ふふ、ええ、もちろん!!」


 セイシロウさんの手を引っ張って、噴水まで連れて行くことにする。私がこの恋をリードしていくんですと自分の恋心を燃やしながら。


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