第11話 スライムやゴブリンではない魔物という存在
「さて、次に魔物についてだ」
「オレよくRPGやるんだけど、魔物といったらスライムとかゴブリンとか、ドラゴンとかですかね?」
「いや、そんなもんはいない」
「え!?」
「厳密にいえば、昔はタイキが言うところのモンスターはいたらしい、が、俺もみたことはねえ。今いるのはクーゲルと呼ばれる魔物だ」
「クーゲル?」
ゲームでは一切聞いたこともない魔物だ。僕だけじゃなく、ゲーム通らしいタイキも首を傾げていることから、この世界特有の魔物なのかもしれない。
「ああ、そうだ。クーゲルは魔物と呼んでいるが、厳密には鋼鉄や金属に近いと言われている動く物体だ。黒い球体の化け物で、全長は2.4メートル、個体差は現状確認されておらず、きっちり同じ大きさだ。また、エーテルを纏っていることから基本的な物理攻撃はもちろん効かない」
2.4メートル?さすがにデカすぎはしないか?まあ、想像のドラゴンよりはか、幾分小柄な気もするが、それでも人類よりは一回り大きい。大きさは単純に強さだ。人類が勝てるサイズ感なのだろうか。
「そして、エーテルを保持している人間を一つの眼を使い視覚で感知して、球体を転がして移動をする。一番特徴的なのは、歯だ。この鋭利な牙を駆使して、人の脳を食べる習性がある」
「の、脳を!?」とびっくりした様子でリタが訊ねる。
「ああ、研究員の話によると、クーゲルはエーテルを使って駆動しているため、エーテルの生成器官と言われる脳を食して、自分のエネルギー源にしているのではという説が有力だ」
「ひいいぃぃ」とタイキがガクガクと震える。確かにそれは怖い、もし、人が食べられている場面に出くわしたら、その日は絶対に食事を摂れなさそうだ。
「……一ついいか?」
「なんだ、ションフォン?」
「今の話を聞く限り、人間よりも大きく単純な力比べでは勝機はないように感じた。なにか弱点はあるのか?」
「……もっともな質問だな。お前らが勇者として活躍するには魔物をいかに攻略するか重要になるからな、必ず覚えておくようにしろよー。……一つ目の弱点は消耗戦だ。エーテルが底をつけば機能停止し、全く動かなくなる。俺ら王国兵も大体はこの手段で魔物を停止させている。ただし、このやり方はいくつか問題があってな……。魔物は転がって動き回り、人を探している、そんなやつにエーテルが枯渇するまで魔術を当て続けなければならない、難しさは容易に想像できるだろう?」
僕は頷いた。ずっと動いている敵に対して、魔術を当て続けなければならないなんて自殺行為だ。敵が動かない状態じゃないと機能しないだろう。
「まあ、そのために堀があるんだが、そこは別日にしよう。……話を戻すが、もう一つの問題は、魔物のエーテル総量が人の三、四倍にも及ぶ値を有している事だ。よって、三人から四人で囲い込み全員のエーテルが切れるまで魔術で攻撃をし続けなければならない」
え、絶望的じゃないか。そんな奴に勝てるビジョンがまるで見えない。周りの勇者の様子を横目で確認すると、皆も俯いている。
「というわけで、今話したのは弱点といえるほどの弱点じゃない。お前らが取るべきはもう一つの行動。……それは、中心と呼ばれるエーテルの生成器官を破壊することだ。魔物ゲーテルの中心部には、必ず球体の形をした中心が存在することになる、これを破壊することで奴らは活動を停止する。人を食べようとする瞬間は特に中心が露わになるため、狙い目だな」
中心こそ、魔物の唯一の弱点といえるだろう。そこを貫けば勝てるという意味ではシンプルで持久戦よりも僕好みだ。質問者のションフォンはベルーガ先生が説明してくれた弱点について端的に追加質問をした。
「中心の大きさは? たとえば、中心の大きさが1cmだとすると、2.4mの巨球から探すのは至難の業になる」
ベルーガ先生は説明のために黒板に円を描く。さらにその円にすっぽり収まるように小さめの円を描き、二重丸を作り出した。
「外側の円が全長2.4m、つまり半径は1.2m程度となる。一方の中心は全長1m、半径0.5m。この中に人の脳から仕入れたエーテルを格納していると思われる。そのため、そこそこの大きさを誇っており、ションフォンが危惧したような中心が見つからないということにはならないだろう」
「理解した。魔物の数も教えろ」
「あー、推測にはなるが、俺らがいるロイゼンサンクチュアル王国の総人口の1.2倍から1.5倍にもなるのではないかと言われている」
「……絶望的だな。一つの魔物を倒すには少なくとも三人の力が必要になり、人類の1.5倍存在するとなると……。はあ、お手上げだな。となると、いかに魔物に見つからずに魔王を見つけ出せるかの戦いになると理解したが、あっているか?」
「ああ、さすがだな、その通りだ。防衛線を築き、国を守りながら、直接魔王の根城を叩く、これ以外に人類に勝つ道は残されていない」
「了解だ」
そう、ションフォンが伝えるものの、表情は硬く険しい。他の二人にもこの重苦しい雰囲気が伝染していく。
「だから言ったろ? お前ら勇者の双肩に期待するしかねーんだよ、俺ら一般人は。いきなり転移させてきて、無茶なことを言ってるのは分かっている。だが、お前らに夢をみさせてくれ、そのぶん、俺もお前らに命を預けるからよ」
他の皆は返事しない。自分たちがどこまで期待に答えられるかもわからない。それでも僕は返事をする、ここで誤魔化して、逃げるのは“僕“じゃない。
「僕が悪を打ち滅ぼしますから、安心してください!」
僅かばかりの無言の後に、僕に続けてリタも返事をする。
「そーだよ、先生! あーしたちこれから訓練頑張るから!!」
「そうだな、ここは踏ん張りどころだよな!! ハーレムのためにも!」
タイキも自己は一切ぶれていなかった。
「はあ……、正直こんな死地に飛び込みたくはないが、仕方ない。国王は信頼ならないが、あんたは、ちょっとは信用できそうだしな」
ションフォンも僕たちに続く。勇者四人で訓練を乗り切って魔王を討伐しようと改めて思いを通わせあった。基礎的な情報を先生の講義で仕入れながら一日、一日と実技訓練もこなしていく。
もちろん休息も必要だ。身体を休めるためにもらった休日は勇者四人で親睦も深めた。
意外だったのはションフォンだ、クールな感じで断られると思ったが、誘うと必ず付き合ってくれた。もしかしたら、少しは仲間として認めてくれたのかもしれない。
一か月なんてあっという間に過ぎていき、僕たちは魔法訓練中に初めて魔物と邂逅したのだった。
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