第1話 僕は正義を遂行する
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1話のみ短めですが、以降は3000文字前後の予定です。
24/3/15は連続投稿予定です。ブックマークをしていただくと更新タイミングが分かりやすいと思います。
この異世界は悪に支配されている――圧倒的な悪、魔“物”によって。
魔物と聞くと、ゲームで出てくるようなスライムやゴブリンのような姿を想像するかもしれない。
でも、全く違うんだ。
自然界には溶け込めないような、異質なほど真っ黒いそれは、大玉の“物”質で、この世界の人から聞いた話だと直径2.4メートルにも及ぶらしい。さらに、悪魔のような惨たらしさから、魔“物”と呼ばれている。
魔物はギョロりとした一つの目玉に、ギザギザした鋭い牙を有している。そんな魔物が僕たちのまさに目の前で、ヒトの頭を、ガリガリと音を立てながら噛み砕いて貪っていた。
僕はたまらず視線を下に向けると、さっきまでヒトだった身体が荒野に吐き捨てられていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ。い、異世界より転移し、四人の選ばれし勇者様! 我々を魔物からお助けくださいぃぃ!!」
僕は声の方向に振り返る。戦う術を心得ているはずの兵隊が、はるか後方の安全地帯で、助けを求める声をあげていた。つい先月まで、普通の高校生だった僕たちに対して。
まさか、魔物討伐のための魔法訓練がいきなり本番になるなんて、夢にも思わなかった。僕は他の勇者三人たちが気になり、ちらりと横目で様子を探る。
一人の青年は、この光景を現実だと受け取ることが出来ない様だ。絶望した表情で枯れ木のように立ち尽くす。
僕と同学年の男子は土下座をするかのように地面に手をつき、吐き気を催している。
この中で唯一の女子は、頭を抱えながら、小刻みに震えている。「おっ父、助けてけろぉ」と隠していた素の口調がでてしまっていた。
皆に共通していることは、平等に死を運んでくる、残酷なまでの悪に対する恐怖だ。こんな状態では戦えるはずがない。逃げることなんてもっと無理そうだ。
だからこそ、僕が助けるしかない。踏みしめながら右足を一歩進める。魔物との距離が近づいた、その距離は目測10メートルもないだろう。
「なっ!? セイシロウ!?」
僕の名を呼ぶ声が聞こえた。僕の行動が想定外だったのか、その声色は驚きを含んでいるようだ。もしかしたら、無謀な僕の行動を止めに入ろうとしているのかもしれない。……が、関係ない。僕は進む、正義を成すぞ、一条誠志郎!!
なんだろう、さっきからずっと心臓の鼓動がうるさい。死ぬのは怖い。でも、この高鳴りは恐怖心からくる緊張ではなく、自分の存在意義を見つけたときの高揚感だ。僕はずっと悪の存在を求めていたんだ。
目の前で仏様となった兵士には申し訳ないけれど、魔物という悪が居てくれて、心の奥底では安堵している。日本では比較的治安が良く、警察官である父のように正義を行使する場面はなかったから。
だから、僕はいま、この瞬間、この異世界で、正義として生まれ落ちる。そのための産声を高らかに上げるんだ!
「世界の悪を滅ぼすために、僕は正義を遂行するッ!!」