表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/32

第九話 初勝利と咲緒里さん

 そして、

 「激闘戦闘剣!」

と叫ぶと、俺の手に激闘戦闘剣が現れる。この剣を使用して敵を倒していくのだ。

 戦いは嫌だけど、嫌だけど、しょうがないのかなあ。

 まだ戦いに対する心構えが完全に出来ているところか、怖さの為、半分も出来ていない。

 しかし、モンスターは、そんな俺の状況とは当然全く関係がない。

 いきなり俺に飛び蹴りをしてくる。早い。これを俺は避けられない。

 俺の体は、あっという間に数メートルは飛ばされる。

 それと同時に、激闘戦闘剣も手から離れてしまう。

 あわてて俺は剣を拾おうとするが、モンスターは、パンチを繰り出してくる。

 すさまじいスピードだ。

 今の俺には防ぎようがない。所詮はレベル五。

 パンチやキックを縦横無尽に受けまくる。

 痛い、痛い。体がバラバラになりそうだ。痛みが極限までに達していく。

 どうして、どうしてこんなことに。俺は彼女ができないままここで倒れてしまうのか……。

 俺はその場にうずくまる。

 モンスターは攻撃を止めたが、それはわずかの間のこと。

 今度は炎攻撃を開始。

 痛い、熱い、もう嫌だ、嫌だ、もう生きていたくない!

 そう思った時。

 「海忠くん、しっかり!」

 康子さんの声が遠くから聞こえる。

 も、もう限界だよ。た、助けて……。

 痛みと熱さの極限を越え、朦朧とした意識。

 もう声はでない。この意識だけでも届いてくれれば。

 「そんなことじゃ、これからの戦いが思いやられるわ」

 苦笑いをしている彼女。

 ご、ごめん。今は俺を助けてほしい。

 声にならない叫びを上げる俺。

 「声が出ないほど苦しんでいるようね。しょうがない。助けるわ」

 俺の意をくんでくれたようだ。

 康子さんは杖を振るい、ビーム光線を発射する。

 ダメ-ジを受け、炎攻撃を止めるモンスター。

 続いて、

 「癒しの光線!」

と康子さんが叫ぶ。

 すると、杖からは青色の光線が発射され、俺を包んでいく。

 痛みが、痛みが、癒されていく……。

 モンスターから受けたダメージから、俺は回復することができた。

 あれほど痛かったのに、そして熱かったのに、今はなんともない。

 「どう? これならまた戦えるでしょ」

と彼女はそう言うと微笑んだ。

 しかし、ちょっと疲れがあるようで、満面の笑みとまではいかなかったが。

 「うん。なんとか戦えそう」

 「その調子よ。あと、『シールド』と叫びなさい。これも訓練したでしょ」

 「あ、そうだった。忘れてた」

 「忘れてたじゃないわよ。命にかかわることなのよ。これからはキチンとね」

 「はーい」

 「返事もキチンと!」

 早速俺は彼女の指示に従う。

 「シールド!」

と叫ぶ。すると、俺の体が光に包まれる。これで敵からの攻撃をある程度までは防御できるはずだ。

 再び対峙する俺とモンスター。

 AIが搭載されているモンスターはそんな俺に対して改めて炎攻撃を開始する。炎に包まれる俺。

熱さ自体は感じるが、シールドをしているので、ダメージは今のところ受けていない。しかし、限度はある。

 この炎の威力がもっと強くなったら、シールドも破られてしまうだろう。

 とにかく剣でモンスターにダメージを与えていかなくてはいけない。

 モンスターめ、よくもやりやがったな。俺だって戦士の端くれ。まだ心はまとまりきってないけど、今日はお前を倒す為に戦う。

 この攻撃で、モヤモヤしていた俺の心が戦いに向けて一本化された。

 しかし、炎攻撃の為、そう簡単には近づけない。

 いったいどうすれば。これじゃどうにもならない。

 まだレベルが低いということなんだろう。やはり俺には無理だったか。そうだよな。無理だよな。

 そう心が沈んでいると。

 「海忠くん、心を平静にして、それから気合を入れるのよ。訓練を思い出して」

 康子さんの声。

 そうだ。あせってもしょうがない。心を水平線のようにしよう。

 俺は大きく深呼吸をする。

 そうだ。炎と炎の間を狙おう。そして、やつの動きを止めるんだ。

 モンスターが炎を吐き終わった瞬間。

 「よし、今だ!」

 俺は気合を入れ、モンスターに斬り込む。

 ダメージを受け、動きが止まるモンスター。

 よし、これならいける!

 「激闘戦闘剣、激闘フレッシュモード!」

 俺が叫ぶと、激闘戦闘剣にエネルギーが注入される。

 そして、

 「激闘戦闘斬り!」

と叫び、モンスターを一刀両断する、

 爆発するモンスター。 

 「やっと、やっと勝った」

 ホッとする俺。

 「よくやったわ。上出来よ。訓練の成果が出ていたわね。この調子で行きたいわね」

 微笑む康子さん。

 「うん。そうだね」

 訓練はつらい。でもこうして成果が出せたのはよかったと思う。

 だが、もう一つ大きな問題がある。

 そう。咲緒里さんを初めとした、モンスターに倒された人たちのことだ。この人たちを救うことはできるのだろうか。

 「康子さん。咲緒里さんたちはどうなるの?」

 俺の前には、倒れた人たちの悲惨な光景が広がっている。

 「大丈夫。あたしがなんとかする」

 康子さんは大きく息を吸うと、

 「時間よ、止まれ!」

と杖を振るい、時間を止める。

 この付近の時間が止まったようだ。

 そして彼女は、

 「癒しの光線、スーパーバージョン!」

と叫ぶ。

 すると、青色に少し黄金色が混ざった光線が、咲緒里さんを初め、倒れた人たちを包んでいく。

 彼女たちの傷は、少しずつ癒されていく。

 ところが。

 「う、うん」

 光線が止まった。

 康子さんは、少しよろめいている。

 「大丈夫?」

 俺は彼女に声をかける。心なしか少し顔が青くなっている。

 「うん。大丈夫。少し休んだだけ」

 そう言うと康子さんは再び杖から光線を発射する。

 どうもこの光線は、かなりのエネルギーを使うようだ。助ける人数も多いしなあ。康子さんは改めてすごい人だと思う。

 俺もこの光線を使えると康子さんの助けになると思うけど……。でも俺は戦士タイプだから、この技を使うのはそもそも無理そうだが。

 彼女は、その後も一回休みを入れた。やはり相当のエネルギーを使用する技だということがいえる。

 無理してなきゃいいんだけど。これは相当疲れているんじゃないのかなあ。

 自然と彼女のことが心配になる。

 しかし、彼女の努力で、全員の傷を癒すことに成功した。

 すごいとしかいいようがない。胸が熱くなってくる。

 ただ、倒れた人たちは、まだ意識を失ったままなのが気になる。

 「まだ意識は戻っていないようだけど」

 「もう傷は治っているから、まもなく目を覚ますわ」

 そう話をしていると、近くで倒れていた咲緒里さんが目を覚ましたようだ。

 「あ、あれ? あたしは今まで?」

 状況をつかめていないようだ。

 「あたしは、モンスターに襲われていたようなんだけど。なんだったのかな」

 やがて、座ったまま俺の方を向く。

 「あれ、生駒くんじゃないの」

 いつもの厳しさとは違うやや柔らかめの声。いつもこういう声だったらいいのに、と思う。

 「生駒くん、あたしね。モンスターに襲われていたの」

 「モンスターに?」

 俺はどう答えたらいいかわからず、こういう返答になった。 

 「そう。あなたは大丈夫だった?」

 「う、うん。特に」

 「そういえば、あたし、ほとんど気を失ってたんだ。でもね、意識が少しだけあったみたいで……」

 そう言うと、咲緒里さんは言葉を一回切り、その後また続ける。

 「モンスターと誰かが戦っているの」

 「モンスターと?」

 「強いモンスターと戦っているのよ。最初は劣勢だったけど、盛り返して倒すことに成功したのよ。すごいわ」

 「そ、そう……」

 「その戦っていた人なんだけど。もしかして生駒くんじゃないかと思って」

 「え、えっ」

 俺は絶句をする。なんと言っていいかわからない。

 俺は正義の味方の一員なんだから、一般の人には存在のことを話さない方がいいだろうか? 今までの正義の味方はほとんどこのタイプだった気がするが。

 そう思い、康子さんの方を向く。なにか指示があるんじゃないか、と思って。

 だが、彼女は、体のつらそうなところを我慢し、微笑んだまま。何も言う様子はない。

 ということは、別に話をしてもいいのか。

 そう解釈をする。

 「意識がはっきりしていなかったからわからないのだけど。あのいつもボーッとしている生駒くんが戦いなんかできるわけはないし」

 ずいぶんな言われようだ。

 「それに、最近あたしが言っても態度を直そうとしない人が、ヒーローになんてなれるわけがない、と思っていたの」

 逆に咲緒里さんはどうしていつもキチンとできるのか、と思ったりする。

 「でもやっぱりヒーローはどういうふうに思っても生駒くんね。ちょっとくやしい気はするけれど」

 「くやしい、と言われるのもねえ。ちょっと納得はいかないところはあるけどなあ」

 俺は苦笑いをする。

 「でもね」

 少し彼女は口ごもる。

 「ありがとう。今日はお礼をすることにするわ」

 いつもの彼女にはない柔らかい笑顔。

 あれ、咲緒里さんって、こんな表情もするんだ。これは意外。

 「う、うん。まあたいしたことはないよ」

 そばで康子さんが、まだつらそうなところはあるが、抑え気味に笑っている。なんか恥ずかしい気持ちになってきた。

 「普段からこういう姿でいてくれるともう少し……」

 あれ、最後の方はなんと言っているんだろう。もしかして俺への好意? なんて思っちゃったりして。

 「もう少し?」

 俺はほんのちょっぴりだけ期待した。

 好きになれるんだけど、って言われたら、それだけでもうれしくなってしまう。

 「い、いや。もう少し怒らないですむのに、と思ったのよ」

 なんだ、そんなことか。

 と俺はガクッとくる。

 でも、最初は違うこと、つまり俺への好意を言おうとしていたんじゃないのかなあ。

 そういう期待が俺の心の中にあった。


この小説を読んでいただきまして、ありがとうございます。

面白いと思っていただきましたら、ブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ