第五話 転生への道
そうして異世界の一つである世界へと転生をした。これが俺の前世になる。ここで力を発揮するはずだったのだが……。力を発揮する前にこちらへ戻ってこなくてはならなくなった、ということになる。
それにしても、前々世、前世とつらいことの方が多かった人生だと思う。
俺が今までのことを思い出した後、マーガレット様はこう言った。
「どう、前々世、前世でのあなたの人生は。いい人生だったと思う?」
「いや、いい人生だったかどうかと言われると……。そうではなかったと言わざるをえないでしょう
ね。彼女ができなかったのが、なによりも大きいと思います」
「彼女ができないと言っても、あなたの場合まだ高校生だったでしょう?」
「でもまわりにはカップルがどんどん増えていて、つらかったんですよ。俺が地味だったから、彼女が出来なかったのだ、と思ったりはします。地味だと女性は男性のことを好きになれないんじゃないか、と思ったりはしますね」
彼女はあきれた表情をしている。
「本当にそう思っているの?」
「そう思ってますけど、違うんですか?」
「海忠くん、あなたは自分のことを理解していないわ。それにね、男女が仲良くなるっていうのは、心と心の結びつきなの。地味とかそういうもので決まるものではないの」
「わかりにくいことをおっしゃる」
「そして、どんな人にも、その人と合う人が必ずいるのよ」
「もしそういう人がいるんだったら、俺も生きていれば結婚できたということになったんでしょうか?」
「そうよ、あなたは二回ともそういう人に出会う前に命を失ってしまった。ここが人生の難しいところね」
「どういうこと? よく理解ができないんですけど」
「合う人自体は必ずいる。そして適した時期になれば、その人に会うことができるようになる。でも一方で、人生というのは難しいものであるということは言えるわ。なにしろ無数の選択肢がある。出会いもそうで、選択肢次第では、その人と出会えなくなってしまうことがあるのよ」
「選択肢ですか」
「そう。あなたの場合も、もう少し生きることができれば、そういう人に出会えたのに。残念だったわ」
「今さらそんなこと言われても……」
無念さが心の底から湧き上がってくる。
「このことについても、あたしたちの方からは指導を行っていた」
「指導?」
「そう。あなたが出会うべき人に出会えるようにね。そして、この話だけじゃなくて、すべてあなたにとってよい方向にいくように指導を行っていた。特にあなたは、強い戦士になる予定だったのだから、その方向に行くように指導を行っていた。でも、限界があったのよね」
「そんなこと言われたって、なにも聞こえなかったんですよ。どうしょうもないんじゃないですか」
「とにかく、あなたはこうして現世からこの霊界に戻ってきた。これからはまた次の転生先を考えなえければならないのよ」
「せっかく戻ってきたのだから、少しはゆっくりしたいと思うんですけど」
「そうもいかないのよ、あなたにはまた転生してもらわなければならない」
「もう少しだけここにいることはできないんですか」
「難しいわね。あなたは次の人生をもうスタートさせなきゃいけないのよ」
このことについては、頼んでも無理のようだ。今いるところは、居心地がいいので、離れたくはないのだが、仕方がない。
「わかりましたよ。それじゃ、また転生先を選択させてください」
最初は、前々世と同じ世界を提示されたが、戦士と魔法の世界へのあこがれは強いままだったので、この前の転生の時と同じく、異世界の中から選択することにした・
前回もそうだったが、RPG的な世界から、前世と同じような世界を提示される。
RPG的な世界に行きたいという思いも強い。
俺はしばらくの間、思い悩んでいた。
しかし、今度こそ、中学生の時あるいは高校生の時に、彼女もしくは親しい女性を作りたい、という想いも強く、同じような転生先を選択することにした。
もう一度同じ場所に行く、という選択肢もあったが、同じ場所というのは嫌だったので、同じようだが違うところを選択した、ということになる。
「これでいいのね。また同じような世界だし、戦闘も他の異世界より多く発生しているところだけど」 彼女は心配そうに言う。
「お願いします」
と言って俺は頭を下げた。
「そこまで言うならここにします。今度こそうまくいくように」
マーガレット様はそう言うと、
「康子さん」
と言って人を呼ぶ。やがて、康子さん、と呼ばれた人はこちらにやってきた。
彼女も天使の姿をしている。ストレートヘアのかわいい娘。髪はマーガッレット様よりも長め。年は俺と同じくらい。
「海忠くん、こちらが康子さん」
「康子よ。よろしく」
頭を下げる康子さん。
「康子さんはあなたの守護をしている霊よ」
「守護霊様ということになるんだ」
「そうよ。彼女はあなたのことを今まで見守ってきた。でも、今回もあなたは若くして命を失うことになってしまった。このままでは、あなたの能力が生かせないままになってしまう。そこで、今回、彼女に強いバックアップをしてもらうことにしたのよ。今度こそ長く生きてもらうとともに、彼女と力を合わせてレベルの高い戦士になってほしい」
「レベルの高い戦士……」
「そう。あなたは、この世界に行くからには、戦士として、破壊・征服しようとする敵と戦い、レベルを上げ、世界を救っていくのよ」
「ち、ちょっと待ってくださいよ。俺が世界を救っていくって?」
「そうよ。海忠くん、あまり時間がないから、これだけ言っておくわ。あなたはもともと高い能力を持った戦士なのよ。でも、今まではその能力の百分の一も出すことができなかった。能力を全くもって生かすことができていないのよ。あたしたちとしても、あなたにはもっと成長してほしいと思っている」
「わたしだって成長はしていきたいです」
「そうでしょう。ただ、今回の世界は、様々な勢力が自分の力を拡大しようとしている。その為に、さっきも言ったけど戦闘が多く発生してきている世界なの。その攻勢を防ぐということも喫緊の問題としてある。それで、ここに行くのであれば、彼女にも行ってもらって、あなたを助けてもらうことにしたいと思うのよ」
「行くからには、その勢力との戦いを絶対にしなくてはいけないのですね」
「もちろん、攻勢に対処するのはあなただけじゃない。でも、この世界の広さに比べると戦士の数はあまりに少ないのよ。だから、あなたにも戦ってもらわなければいけない。もう一度言うわ。それでもあなたはこの世界に行くの? 決して楽な道のりではないわよ」
その言葉を聞くと、少し弱気になる。
しかし、一度決めたことだ。やはりこの世界に行こう。
「行きます。戦いは厳しいとは思いますが、努力します」
「わかったわ。あなたならできる。きっと強い戦士になってね」
彼女は優しくそう言った。
「もう時間がきたわ。それじゃ康子さん、後はお願いね」
「はい。任せてください」
「よろしくね」
そう言うと、、マーガレット様は、空に向かって飛び上がり去っていく。
努力していきます、と俺は思う。
「さて、それじゃ海忠くん。異世界に出発しましょう」
「えーっ。もう出発するの?」
行くこと自体は決めたのだが、まだ心の整理ができているとは言い難く、さすがに今すぐというのはつらい。異世界に行くこと自体はもちろんいいのだが、戦いが多いとなると、自分がそこでちゃんとやっていけるのかどうか、悩んでしまう。
「こんな状態で出発したって、なにもできないと思うんだけど」
「大丈夫。あたしがなにかあったら守ってあげるから」
「守ってくれるとは言ってもね……。第一今までは誰も助けてくれなかったじゃない」
「今までは、あなたの力だけでなんとかなるんじゃないか、と思ったから助けることはしなかったの。でも今回は違うわ。この世界に行くからには、今回こそはあなたに戦士として立ち上がってもらう」
「戦士……」
「その為に、あたしがあなたを力強くバックアップするのよ」
「力強くねえ……」
「とにかく行くわよ。マーガレット様が言っていた通り、今度こそ強い戦士になるのよ」
康子さんは、そう言うと杖を取り出し、
「扉を開け!」
と叫んだ。
すると、扉のようなものが出現する。
「さあ海忠くん、一緒に行きましょう」
俺はまだここでのんびりしたい、という気持ちが残っていた。
でも行かなくてはならないのだろう。
「行きたくはないけど、しょうがないんだね」
「そうよ。でも自分を信じていくのよ。あなたならきっといい結果になると思う」
「そう信じていくしかないよね」
「では異世界に向けて出発!」
康子さんは俺の手を取り、一緒に扉の中へと入っていった……。