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マルムの力

 いい雰囲気になりかけていたところに、いや、妙な雰囲気になりかけていた

二人の元に、地面を伝って『何か』の振動が届いた。


「?」

 マルムは暢気にも、ペタリと座り込んでやり過ごす構え。

 対して、レインネストは荷車から離れた。

 音のする方向へ歩いていく。

「ここは、そもそも超巨大モンスターの住処だったそうです」

「超巨大……?」

「どうやら復活したようですね」

「え?」

 ガザリと芝生を揺らすモノがあった。

 無数に。

 それは最初から二人の前に落ちていて、芝生の中に隠れていたのか。いままで

まったく気付かれなかった、たくさんの骨だ。


 おそらくは倒されたというボスが死して屍となり、十層の地面に溶けたものだ

ろう。

 それが集まり始めた。

 細くて白い糸のようなものが、無数の骨を繋ぐ。

 寄り集まった骨が組みあがり、それらを纏めた糸は、しめ縄のように、もっと

言えば筋肉のように骨と骨とを繋いでいく。

 

 傍から見えてしまう骨格。

 透明に近い、白い筋肉。

 四つんばいの足に。外骨格である緑色の甲羅を身に纏ったソレは……


「――スケルトン・レイス……。しかもジャイアントタートルのッ!?」


 亀巨人を見て、悲鳴じみた声をあげるマルム。

 だが「ハッ!」と思い直したように、表情を引き締めた。


「(ここで役に立たなきゃ!)」


 彼女はボスを睨み、目を凝らした。

 すると、右目の色が変わり、光彩が灰色に。

 魔眼持ち。

 マルムが上級者のレインネストに付いていくと結論した理由はソレだった。


「レインネストさん! 敵の弱点は『骨』ですッ!」


 マルムは常識的には一番硬いと思いそうな骨を弱点と見た。

 ガバンの傷を言い当て、キツネ男のわき腹を抉った時のアレも、そうだった。

服の上からでも一目見て、相手の弱点を見抜く瞳。

 しかし、

「わかるんですか?」

 レインネストも、大概、暢気だった。

 ボーっと突っ立ったまま、疑問の答えと説明を待っている。

「ええッ!? いま説明するんですか!?」

 マルムの魔眼は、傍から見ていても効果がわかりづらい。

 本当かどうか疑問でしかないとはいえ、緊急事態にも関わらず、レインネスト

は笑顔でうなずいた。


 彼の背後に迫る超大物。

 マルムは巨大な亀のスケルトンと、にこやかな彼の笑顔を見比べて「ああもう

どうにでもなれ!」と口にはしなくとも顔に出して、早口でまくしたてた。


「私の目は『密相眼』と言って目の前にあるものの密度を計測できます! 視界

が、こう、硬いところは白く、柔らかいところは黒くなって見える、というか、

そろそろモンスターが近づいてきてるから勘弁してくださいッ!」


「便利ですね」

「それだけッ!?」

 即座にツッコミ。

 感情が高ぶっているせいか、敬語を使うことも忘れていた。


「では私も、力の正体を明かします」


 彼は右手を振り上げた。

 それはシャドウバルーンを割った時と同じで、しかし、あの時はよく見えては

いなかったが……

 レインネストの拳は黒く染まっていた。


「これは『正しさの呪い』。正道を貫くためには、時に力が必要です。どんな敵

を相手にしても正しく在るように、と、この力を貰いました」


 彼は引き絞った拳を敵の鼻っ柱に向けて解き放つ。

 尖がった頭蓋骨が、ミシリ、と音を立てて砕けるほど彼の拳は深くまで突き刺

さり、骨と肉だけで出来ている敵の体に波紋を広げた。


 空間を撫でる衝撃波が、今回はやさしい。

 レインネストの髪が後ろに流れる。空間を覆うような波動はマルムにも届いた

が、思わず目をつぶる程度だった。


「どんなモンスターが相手でも、私が敗北することはない」


 彼がその台詞を言い終わると、亀巨人の体はバン! と弾け、元の塵に戻って

いた。


「先に進みましょうか」

「あ、はい……」


 あまりのデタラメに呆然とするマルム。

 レインネストの呪いは敵の力に応じて強くなり、最終的には必ず相手を上回る

力を発揮して、勝利するモノだった。

 それが彼の能力。

 すべてに対応する呪い、対応呪詛だ。


「(やっぱり、恩返しできないッ!?)」


 マルムは切り札である魔眼まで不要と知り、たらりと冷や汗を流していた。

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