97.娯楽の中心
二人が外に出ると、既に準備を済ませていたアマカ、ファルテア、ライガの三人が待ちぼうけていた。ライガとファルテアもある程度着飾っているが、アマカはいつもと変わりない白い着物姿である。
「遅かったな」
ライガが多少の批難の色を声に込めて言う。
「ジークが中々了承してくれなくてな、手間取った」
「うぐ、すみません」
「まあ、良い。急ぐわけじゃないからな」
ライガとしてはちょっとした皮肉のつもりだったため、そう真剣に謝罪されるとやりにくかった。ライガが口を閉じたところで、メディが一つの疑問を口にした。
「アマカ、お前武器を持ってないようだが、良いのか?」
アマカの腰にはいつもの刀が提げられていない。ジークとメディも武器を持ってはいないが、それはジークの魔法の中に収納しているが故である。一番武器を手放しそうにない性格のアマカが丸腰というのは違和感を覚えさせた。
「あら、持ってるわよ、刀」
アマカはこともなげにそう答えると、自身の着物の裾を捲った。白い太股が露わになる。
「うわっ!?」
ジークは声を上げて顔を覆い、メディも驚いて目を見開いた。だがその驚愕は直後に別のものに切り替わる。二人の表情を見て、アマカは笑みを深めた。
彼女の左の太股の内側に、刀がくくりつけられていた。なるほど、外側からはわからない位置だ。よくよく見れば、着物の裏地には苦無や投擲用の短刀なども収まっている。
「人間武器庫か貴様は……」
メディが呆れつつ頭を抱えて溜め息を吐いた。暗器術は暗殺者としては基本的な技術だが、それにしても数が多い。刀一本で大概の状況はどうにかなってしまうだろうアマカに、これだけの備えは必要なのだろうか。
「まあ、用心するに越したことは無いわよ、身ぐるみ剥がされて真っ裸で監禁、なんてことだってあるかもしれないしね、そうなったら無意味だわ」
「裸で、監禁……」
極端な喩えにジークが思わず呟いた。それをメディに聞き取られ、脇腹を小突かれる。
「想像するんじゃない不埒者。というかもしやアレか、お前、胸が大きい女の方が好みとか言うつもりじゃないだろうな!?」
「言いませんしそもそも想像してませんよ!いいがかりです!」
「どうだか!男なんて単純だ、目の前で胸を揺らされたら追いかける生き物なんだ!」
メディはジークが少しでもアマカのことを考えたのが不満らしく、冷静さを失っている。アマカが痴話喧嘩に入るところだが、今はそうしても逆効果だろう。アマカが頭を抱えていると、意外なところから助け船が入った。
「子供の前で色恋沙汰のいざこざの話をするのはどうなんだ」
ライガが半目でジークとメディを睨み、冷たい声音でそう言った。少年とは思えない低い響きが籠もっており、場の空気が凍った。
「せんせたち、仲良く」
幼い子供二人(ライガの精神年齢はそう幼くはないようだが)に諭されては立場がない。メディは咳払いをしてジークへの謂れなき糾弾を止めた。
「んむ、そうだな、大人げないことをした、そろそろ行くか」
こういった時のメディの転身は見上げるほど潔い。先程までの騒動がなかったことのように冷静な表情になり、先陣を切って歩き出した。文句を言う気にもならない自信満々さである。貴族として育てられたが故の立ち居振る舞いだが、良いのか悪いのか。
***
メディの案内に従って、一行は娯楽の街メイニの中でも娯楽の中心と言われるカジノに辿り着いた。悪趣味なまでの黄金と、魔法によって作られた人工の光とが視覚を侵食する。その濃厚さに、ジークは軽く目眩を覚え、ファルテアも軽い恐怖を感じているようだった。ライガは人の無駄の集大成とも言えるようなそれを見て溜め息を吐いた。そんな、娯楽というものに対して疎い三人を尻目に、しかし赤毛の魔術師は目を輝かせてその外装を見ていた。
「流石の威容だな、うむ、やはりここまで現実的でないからこそ娯楽の殿堂たり得る!」
「メディさん、派手好きでしたっけ?」
これまでの旅の中で、確かに金を惜しむような態度は見せてこなかったメディだが、このような俗なものに興味を示すタイプではないと思っていたジークだが、どうやらそうではないらしかった。
「自分が身につけるものを言えばあまり目立たないものが好ましいが、見た目に楽しいものは好きだぞ、お前ももっと楽しんだらどうだ」
「メディちゃん、楽しむのは良いけど、私の任務の付き添いで来てるってこと、忘れないでちょうだいね。カジノでするべきなのは賭けじゃなくて、ミスター・リライケンに話を聞くことなんだから」
アマカの注意喚起に、メディは口を尖らせて反論する。
「む、むう、忘れてはいないさ、ただ、そのリライケンとやらに話を通すのはお前なんだろう?それまで少しくらい遊んだってバチは当たらんさ」
理論立てて説明しているようで、その実子供のわがままでしかないそのセリフにアマカは微笑を深めて、「いいわよ、少しくらい時間はあるでしょう」と大人の余裕で返すのだった。




