冒険者登録
「ええええええ!平民になるぅ!?」
「どうしてそんなに驚いているの?」
「いやいや、アディ。その選択肢なら貴族になった方が女の子沢山食べられたよ?」
何故、私の行動原理が全て女の子だと思われているのだろうか。確かに貴族に魅力を感じないわけでは無い。でも、平民を選んだのには理由がある。
「ほら、エリーが前に『私と王女では不釣り合いです』って拒んだことがあったじゃん?」
「最初から三回目の閨とかですよ。今も客観的には不釣り合いと思います。が、気にしてません。その方が嬉しいでしょう」
「よく分かってるぅ!でも、やっぱり身分の差って障害になるじゃん?」
「あまり、感じたことはありませんよ?障害を上から下に降りるのは簡単ですから。」
「そうじゃなくて結婚するのにさ。エリーと結婚するってなったら絶対他の貴族が許さないし、すごく面倒な敵対が生まれそうだなって思ってたから、今まで我慢してたんだけど」
「何言ってるんですか?」
「えっ!?結婚しないの!?」
「どう考えても、身分の差より性別の差の方が大きいですよ。結婚に関しては。賎民でも平民でも王族でも女同士で結婚できる法律はありません。」
「うわー、先に作ってから平民になるんだった」
「はあ。で、本当はなんでですか?」
あ、流石にバレた。
「やってみたいことがあって」
「お供しますよ。この正妻が」
「あっ!結婚したことになってる!」
それから数日後。王家制度が廃止された。
———
オトリム王国改め、オトリム国の中心地、首都フレンでも一際賑わう地域。
そこにあるのは、冒険者協会本部。
各地で発生する魔物を討伐したり、地方の治安を守ったり、未踏の地域を探索したり。この世の夢とロマンを詰め込んだ職業である冒険者。貴族からは荒くれ者と罵られる彼らを纏める、国内でも最大級の組織である。
「頼もう!!!」
ドアを勢いよく開けると、中にはかなりの人で賑わっていた。ビールを飲んだり、喧嘩をしたりしていたようだが、彼らの視線が私達に集まった。
受付は思ったよりも遠い。
どんな雰囲気の中でも堂々と歩く。それも王族として培った力。エリーも慣れている。
「おいおい、女だぜ。誰かナンパしろよ!」
「めちゃくちゃ美人じゃね?特にあの白髪のちゃんねー。もうプルンプルンじゃん」
「胸しか見てねえなお前。それよりもあの赤毛の付き人、相当なやり手だろ。歩き方が違う。あとすげータイプ」
「ギャハハ!浮かれすぎだろー!ここにも女はいるぞぉ」
「は?私のことか?おう、抱かれてやるぜ?」
「やだよ、ぜってえー食いちぎられる」
「ちげえねぇ!」
おお!これが冒険者。王宮では絶対聞こえてくることのない言葉が次々と飛び交う。いいね。乱暴は嫌いだが、下品なのは嫌いじゃない。
「貴様ら。その汚い口を閉じろ。私の主を侮辱すれば切る」
いつの間にかエリーが彼らに刃を突き立てていた。
「ちょっと!何やってんのエリー」
「この者たちがお耳汚しを」
「そういう場所に来たのは私の意思なんだから!」
「承知しました」
冒険者達はポカンとしたままだった。
エリーは侍女兼護衛なので剣術が使える。多分、この建物の中でも結構上位の実力があるはずだ。
それに対して私は、魔法が使える。火属性の魔法。広範囲に広げられるが、威力はまあまあ。魔法は大砲よりも、場合によっては拳銃よりも弱いのでどこに行っても重要視はされない。昔は魔法で戦争をしていたそうだ。
魔力は全ての人間が持っているが、それを魔法として出力できるのは一握りの人間だけ。
「冒険者協会へようこそ。生きるも死ぬもあなた次第。自己責任ですが、登録しますか?」
「ええ。二名分お願い」
受付嬢の子可愛い。三つ編み上手だなぁ。コツとか聞いてみようかな。
「では、こちらのカードにお名前を」
「エリーズ・ルソー、アデル・ド・オトリムっと」
ピリッとした空気。これは、王宮でもたまに感じた嫌悪の感情だ。
「すみません。王族の方の名前を騙るのは無礼に当たるのでできません」
「別の偽名はどう?」
「それもできません。偽らずに本名でお願いします」
怒ってもなんだかリスみたいで可愛い。だが、困った。まだオトリム姓は有効だ。オトリム王家は既に無くなったが、名前は変更されなかった。つまり、偽名と真名も断られてしまったわけだ。
「おい、ガキども。それは流石に笑えねえ冗談だ。俺らはこの国の王に敬意を持ってんだ。それをネタにしようなんて許せることじゃねえのよ」
「そうか。じゃあ、無くなってしまったことについてはどう思っているんだ?」
「ふん。何も変わらず、さ。貴族として王家の血は残った。議会にも参加する。形が変わっても俺らは王家を尊敬し畏怖する」
「ならば下がりなさい。この方は正真正銘、本物のアデル王女です。あなたの忠誠に免じて、三秒待ちます」
「本物がこんな場所来るわけないって馬鹿でもわかんだよ」
「三」
「ニ」
「一」
瞬間、冒険者二人が倒れ伏した。泡を吹いている。エリーの何倍も大きい、イカつい男二人が一撃で沈められた。うちの正妻、強くて可愛いとか無敵すぎでしょ。
「生きてる?」
「峰打ちです。それにしても何故王家はここまで冒険者に敬われているのですか?」
「うーん?なんでだろ。私にも分かんないや」
二人で頭を抱えていると、受付嬢ちゃんが説明してくれた。
「今代の王は、亡くなった冒険者の葬式を国葬として資金を出してくれていたんです。冒険者は身寄りがない人がほとんどですから、前まではパーティーメンバーがお金を出し合って工面していました。それを王が『国のための犠牲なのだから』と。」
「冒険者って仲間意識が強いみたいですし、効果抜群だったわけですか」
「勉強不足かぁ。全然知らなかった。王も善性だけでやったわけじゃないと思うけど、打算で人が幸せになるのが一番効率的だね」
冒険者は国に利益をもたらすし、戦争の際の即戦力として使える。恩を売るには適切な相手だったのだろう。
「てめぇら。よくも」
「ねえ、知ってる?王家は無くなったけど、王家に対する侮辱行為は今だに極刑なんだよ。法律がまだ変わってない」
「衛兵を呼ぶのか?冗談じゃ済まなくなるぞ」
「エリー侮辱して?」
「アデル王女はぁ!毎晩抱く女を変えてるんだってよぉ!!!あと、面食いぃ!!!」
協会内が一瞬静まり返る。その後、一人の冒険者が顔を真っ赤にして外に出ていった。他の冒険者も怒ったり、困惑したり様々な反応をしてしている。
「毎晩じゃないよ?」
「ええまあ」
「お前ら、狂ってんのか?」
衛兵がドアを開けて駆けつけてきた。そして、エリーを捉える。縄でぐるぐる巻きだ。…今度縄買ってこよう。
「ねえ衛兵、私が分からない?王族への侮辱は、侮辱された本人に裁く権利が与えられる、だったよね。彼女は無罪で処分しといて」
「え?な、あ、アデル王女!?何故こんな場所に…い、いえ!失礼いたしました。この者を解放します」
「は?」
「ふう。信じてもらえたんじゃないですか?」
「お、おい!衛兵!まさかこいつは、いやこの方は…」
「元ではありますが、オトリム王家のアデル王女に間違いありません!私はこれで失礼します」
「お疲れ様〜ありがとねー」
「い、いえ滅相もございません」
衛兵が出て行った後、冒険者協会にどよめきが起こる。衛兵は王族の護衛任務や捜索をするために、入隊時に必ず王族全員の顔と名前を覚えさせられる。一応、国に千人しかいないエリート集団だ。身分を証明する物が何も無いので、今後も衛兵認証は使えるかもしれない。
「も、申し訳ございませんでした。あろうことか、アデル王女殿下に粗相を…」
その場にいた数十人の冒険者が一斉に頭を下げた。
「いやいやいや!こんなとこに来る王女が悪いんだよ。元だけど。」
「いえ、それでも。礼節にかけた許されざる行為です」
「いやいやいやいや顔あげて?特にそこのお姉さん。」
せっかく解放的な胸元なのに、頭を下げてちゃあ胸が見えないじゃないか。
「私も、どんな罰でも受ける所存です」
おっと、それは大分魅力的なお誘いだ。冒険でかいた汗をこう、全部舐め取ってあげたい。
「アデル王女は寛大なお方だ。この程度で民を罰したりしない。あと、胸元を閉めろ」
「ええ!?」
ーああいうのが好きなのは知ってるんですよ。アディ。
「てか、私って王族から平民になったの。だからもう、偉いとかないからさ。名前は変更されてないからそのままだけど。」
「うう、でもぉ」
「ウジウジしすぎなんですよ。イカつい見た目してるくせに。アデルお、アデル様が良いって言ってるから全ては許されるんです。それにむしろ今の命令は『顔を上げろ』ですからね?」
「…姉御ぉ」
「ちっ、そこで寝てる奴らも顔を上げろ!」
「気絶は違くない!?エリーがやったんだよ?」
「そうでした」
———
「こちらお二人の冒険者カードです。身分証にもなります。」
木に文字を彫った簡素な作りのカードだが、その素朴な感じがむしろかっこいい。
あと身分証になるのはありがたい。
「まずはE級からのスタートです。D級になればシャワーや飲み物など、冒険者協会の設備が月二回の回数制限付きですが使えるようになります。特Aになれば食べ放題、リラックスマッサージが無制限でついてきます。」
「特Aってお肉の話ですか?」
「いえ、冒険者の話です。特Aは最高ランクのA級の中でトップ五に入った冒険者のことです。年に一回、依頼の達成件数でランキングが発表されます」
「マッサージって、何かサービスはありますか?」
「ええ、ご要望に合わせたマッサージを提供できます。かくいう私もマッサージの担当員でもありますから」
えっちな方のは、言おうとしたが流石にやめた。今後利用する時にこのお姉さんに警戒されるのは良くない。自然なムードを作らなければ。
「それで、初心者におすすめの依頼はありますか?二人とも戦闘できるので、できれば魔物討伐がいいです」
「少し遠いですが、南東の農村部にて大量発生した豚の魔物を狩る依頼があります。倒した数に応じて報酬が決まる方式です」
「じゃあそれでお願いします」
「はい確かに受け付けました。それと、初めて依頼だと先輩冒険者との共闘が推奨されているんですが、誰かあてはありますか?」
私とエリーは顔を見合わせる。当然、王宮にほぼ籠っていた私達に冒険者の友人などいない。
「いないわ。できれば同性の冒険者がいいのだけど、紹介してくれるかしら」
「男と寝食を共にするのはアレですもんね。そこの彼女とかどうですか?ランベールさん、ちょっと来てください」
ランベールと呼ばれたのは、先ほどまでは解放的な胸元をしていたあの冒険者だった。
あまり手入れされていないボサボサの黒髪に、健康的に焼けた小麦色の肌。王宮にはいなかった、激エロタイプのお姉さんだ。
食べたい。だが、平民の立場で即閨は捕まりかねない。ちゃんと落としていかなくては。
「ジジ。来てやったぜ。何の用だ?って、まあ分かるけどな」
「ええ、南東の豚の魔物を狩る依頼です。行ってくれますか?」
「元王女と同行できるなんて光栄の極みさ。こちらから名乗り出ようとしていたぐらいだ。よろしく頼むよ」
「こちらこそ。仲良くしましょうね」
握手を交わす。はわわ。力強いが、女の子らしい小さな手だ。くっ、我慢我慢。
「さて、早速出発。といきたいが。見るからに装備が足りないな。明日、商店で必要な物品を買って準備しよう。今日は帰りな」
一応は元王女。首都に一軒家を買ってもらったので、寝る場所には困らない。そのまま家に帰ることにした。




