第84話 普請方
天文二十四年(1555年)、八月。
伊勢国、三重郡、江野、屋敷。
清洲から戻って数日後、新九郎が二つの籠を持ってきた。片方には黒ずんだ石、もう片方には白っぽい石が入っている。
新九郎は籠を下ろし、黒い方を一つ取り出した。
「十兵衛様。治田の山で古い穴が見つかりました。入れる範囲は確かめましたが、奥が崩れていたため、それ以上は進ませておりません」
「何を掘っていたかは分からないか」
「まだ分かりませぬ。穴の場所なら、案内できる者がおります」
続いて白い石を取り出し、隣へ並べた。
「古田の山肌にも、これと同じ石が出ております。ただ、何の石かは私には分かりません」
「古田までの道はどうだった」
「荷車で行けるのは途中までです。その先は歩いて確かめて参りました」
「分かった。源蔵に石を調べてもらおう。治田と古田、それぞれに案内を付けてくれ」
「かしこまりました」
数日後、治田と古田を見て回った源蔵が江野へ戻ってきた。治田から持ち帰った石を机に置き、腰を下ろすなり坑道の話を始めた。
「銀は取れそうだ。ただ、あの穴はまだ掘るな。奥が崩れてるし、水の具合も確かめてえ。人を入れるなら、先に坑木を入れねえと」
「分かった。掘り始める前に、奥の様子を調べてくれ」
「ああ。金堀の頭が決まったら連れてこい。穴の中をどうするかは、そいつとも話す」
源蔵は古田から持ち帰った白い石を手に取った。
「こっちは石灰石で間違いねえ。山肌にも広く出てる。ただ、今の道じゃ量を運べねえぞ」
「当面は背負って下ろすしかないか」
「少しならそれでいい。何度も運ぶなら、荷車が通れるように道を直せ」
政基が白い石へ目を落とした。
「北への備えとして残した古田が、こんなところでも役に立つとは思いませなんだ」
「石が出ればいいとは思ってたけどな。使える石灰石だったのは運がよかった」
石灰石を焼いて作った石灰を土に混ぜれば、道を締め固められるかもしれない。荷車も今より通しやすくなるはずだ。ただ、土によって効き方は違うだろう。まずは少量を江野へ運び、道の短い区間で試してみたい。
源蔵は石を籠へ戻した。
「それで、治田も岩松組にやらせるのか」
「向山を止めずに済むなら、任せたいと思ってた」
「治田へ人を回せば、その分だけ向山が遅れる。別の組に任せた方がいい」
「そうする。蛇谷の方なら、岩松組で受け持てるか」
「まず山を見せろ。人を入れられるかどうかは、それからだ」
翌日、源蔵は甲賀衆を連れて蛇谷へ向かった。戻ってきた時には足袋から脛まで泥だらけだったが、着替える前に俺のところへ来た。
「蛇谷は岩松組でやる。ただ、向山から大勢は動かせねえ。しばらくは俺が両方を行き来する」
「向山の仕事は遅れないか」
「そっちも続ける。人手が足りなくなったら言う」
「分かった。任せる」
治田には別の組を入れることにした。松雲軒を呼び、城と周囲の山を記した絵図を広げる。坑道を見てきた源蔵にも同席してもらった。
俺は絵図の治田城を指した。
「坑道の中は、新しく置く金堀の頭に任せる。松雲軒には、山へ入る者と荷の手配、それに掘り出したものの受け取りを頼みたい。帳面を付けて、銀になったら江野へ送ってくれ」
「それでしたら、治田城を使わせていただきとうございます。人も荷も、あそこへ集めた方が動かしやすうございます」
「そのつもりだ。使える建物は使ってくれ」
松雲軒は絵図に描かれた治田城を見た。
「金堀の頭が決まりましたら、共に城を見て回ります。炉を置く場所も、その時に相談いたしましょう」
源蔵が横から口を挟んだ。
「水も先に確かめろ。炉を据えてから足りねえと分かっても遅いぞ」
「金堀の者と一緒に、水の場所も確かめます。炉に要る物は、こちらで揃えましょう」
新九郎が帳面に書き付け、顔を上げた。
「蛇谷で銀を含む鉱石が採れたら、治田へ運ばせますか」
「そうしてくれ。向山の分も、治田で扱う方がいいものは源蔵と相談して決めろ」
古田の採石は通安に任せた。美濃への備えを続けながら、山へ入る者と運び出す石を把握してもらう。源蔵と新九郎は、早くも蛇谷へ持っていく物を相談していた。俺はその傍らで、古田の道を誰に直させるか考えた。
* * *
二日後、佐兵衛と大蔵介を江野へ呼んだ。二人が席に着くと、千種から員弁までを記した絵図を広げた。
俺は二人へ新しい役目を伝えた。
「普請方を作る。二人には、現場を預かってもらいたい」
「人足の差配だけでなく、普請そのものを任されるのでしょうか」
「ああ。どこへ何人入れるか、材料をいつ運ぶかも、現場で決めていい」
「五方の指図を受けて動く役ではないのでございますな」
「普請方は五方とは別に置く。ただし、田畑や水に関わる工事をする時は、先に区長と話を付けろ」
佐兵衛が絵図へ目を落とす横で、大蔵介は江野から西へ続く道を指でたどった。
「我らも、別々の現場へ出るのでございますな」
「佐兵衛には古田を頼む。山から城まで荷車を通せる道にしてくれ。大蔵介は、江野から千種を経て根の平峠までだ」
「では、一度道を歩き、どこに手を入れるか確かめて参ります」
佐兵衛も古田の絵図を手元へ寄せた。
「こちらも山の様子を見てから、要る人足を揃えます」
「まずは普請方に付ける者から選んでくれ。職人や人足が足りなくなったら、互いに使いを出して融通し合え」
佐兵衛が絵図を畳みかけて、手を止めた。
「一つ伺ってもよろしいでしょうか。普請方へ移れば、我らは兵を率いる役から外れるのでございましょうか」
「戦から外すつもりはない。ただ、兵を進めるにも荷を送るにも道が要る。今は、その道を頼みたい」
「承知いたしました。では、古田へ参ります」
大蔵介も絵図を丸め、翌日から道を調べると告げて佐兵衛と座敷を出た。
古田の工事が始まって三日目、俺は政基を連れて現場へ向かった。山道に入って間もなく、前方がつかえて馬を止めた。掘り返した土が道にはみ出し、鍬や鶴嘴も足元に置かれている。その先では、空の荷車と石を積んだ荷車が向かい合い、どちらも動けずにいた。
政基が馬上から先を覗いた。
「随分と詰まっておりますな」
「道を直している間に、通れなくなってるな」
荷車を引く者たちは、互いに道を譲れと怒鳴り合っている。その脇を、道具を抱えた人足がすり抜けようとしていた。さらに先では、石工が土を削り終えるのを立ったまま待っている。
佐兵衛が人足の間を抜けてきた。
「昨日の掘り残しがありまして。石工には今日から来るよう伝えていたので、もう待たせております」
「石を積んだ車も、石工のためか」
「はい。今朝、古田城から上げさせました」
荷車の脇で、また声が上がった。
「そこへ置いたら車が返せねえ!」
「こっちだって、ここへ運べって言われて来たんだ!」
俺は馬を下り、道具と掘り返した土を避けて佐兵衛の隣へ進んだ。道を掘る作業が遅れたところへ、石工と石を積んだ荷車が予定どおりに来てしまったらしい。
佐兵衛が掘りかけの斜面を見た。
「昨日の夕方には、掘り終わらぬと分かっておりました。今朝までに済ませられると思い、石工へ予定の変更を伝えませんでした」
「坂の下に、石工が取りかかれる場所はあるか」
「あります。今日はそちらへ回します」
佐兵衛は石工の頭を呼び、坂の下の区間へ回るよう話を付けた。石も運び直すことになったが、下ろそうとした荷車の前へ、今度は馬が上がってきた。
俺は近くの人足を二人呼んだ。
「一人は下、一人は上へ行け。荷車を通している間は、反対側から入れるな。馬も同じだ。ここで向かい合わせるな」
二人が道の両端に立つと、荷車が一台ずつ動き始めた。だが、人足が作業へ戻ろうとする足元には、まだ道具や石が散らばっていた。
佐兵衛が鶴嘴を拾い上げた。
「これも片付けさせます」
「置き場を決めてくれ。使っていない道具まで道に出しておくな」
「休み場の脇が空いております。そちらへ寄せます」
佐兵衛が人を出して道具や石を片付けさせると、人足も道を通れるようになった。朝から掘っていた男は腰に手を当て、別の人足は肩を揉みながら座り込んでいる。
俺は佐兵衛へ、翌朝からの進め方を伝えた。
「仕事を始める前に全員を集めて、誰がどこへ入るか伝えろ。それと、作業前に少し身体を動かさせてくれ。膝を曲げたり、肩や腰を回したりするくらいでいい」
「朝からそんなことをするのかと、文句が出そうですな」
「短く済む。集めた時に一緒にやらせろ」
午前の大半は、人と荷の行き先を変えるうちに過ぎた。昼前になって、ようやく予定していた作業を再開できた。
昼の休みに職人と人足が日陰へ散ると、佐兵衛は握り飯を手に帳面を開いた。朝の予定を指で追い、午後は職人をどこへ回すか確かめている。
俺も佐兵衛の隣へ腰を下ろした。
「昨日の夕方に遅れが分かったなら、その時に石工と荷車方へ知らせておけば、ここまで詰まらずに済んだな」
「石工だけでなく、石を出す者にも伝えねばなりませぬ。荷車の手配も変わります。一人に知らせて済む話ではございませぬ」
「なら、昼飯の後に各組の頭を集めろ。午前中にどこまで進んだか確かめて、午後と明日の予定を決める」
「毎日でございますか」
「予定どおりなら、長くはかからないだろ」
佐兵衛は帳面を閉じ、石工や荷車方にも声を掛けると答えた。休みが終わる少し前には、各組の頭が集まってきた。
佐兵衛が人足の頭へ尋ねた。
「上の道は、今日どこまで掘れる」
「曲がりを越えた所までです。その先は明日に残ります」
「分かった。石工は明日の朝も下の区間を続けてくれ。上へ移るかは、明日の昼に決める」
石工の頭が頷いた。
「下にも仕事はある。それなら構わねえ」
荷車方の頭が口を挟んだ。
「明日の朝は、上へ石を運ぶことになってますが」
「上への分は止める。朝は下で使う石だけ運んでくれ」
「なら、車を一台減らせる。上へ運べるようになったら呼んでくれ」
話を終えた頭たちが持ち場へ戻ると、人足は上の道を掘り、石工は下で作業を再開した。荷車も一台ずつ通り、道の真ん中で怒鳴り合う声は聞こえなくなった。
翌日からは、朝に人数と持ち場を確かめ、短く身体を動かしてから仕事に入った。道の上下には通行を見張る者を置き、昼には各組の頭が進み具合を持ち寄る。佐兵衛も遅れが分かれば、次に入る組へ使いを出すようになった。帰りの荷車には柄の割れた鍬などを載せ、修理のため江野へ送っている。
* * *
大蔵介は江野から根の平峠まで道を歩いて確かめ、手を入れる場所を決めてから人足を出した。俺が現場を訪ねた時には、路肩に溜まる水を逃がすため、浅い溝を掘っていた。
道には、荷車が一台通れるだけの幅がある。大蔵介は人足の頭との話を終えると、少し先を指した。
「ここが済みましたら、あちらへ移ります。雨が降るたびに車輪が沈む所にございます」
「橋はどうだった」
「今すぐ直す必要はございません。先に、荷車が止まる所から手を入れます」
「分かった。任せる」
根の平峠から先には、まだ人を入れていない。大蔵介は江野と峠の間を行き来し、水の溜まりやすい所から工事を進めていた。
古田の山道が城までつながると、石灰石を荷車で下ろせるようになった。やがて焼いた石灰も江野へ届き、道の土に混ぜて試せるだけの量が揃った。
試す場所には、大蔵介が受け持つ道の中から、荷車の往来が多く、轍の深い所を選んだ。路面を浅く掘り返し、土に石灰を混ぜて均してから、突き棒で締めていく。まずは短い区間だけ仕上げ、荷車を通して具合を確かめる。
数日後、大蔵介は白っぽく固まった路面にしゃがみ、隣の土道に残った車輪の跡と見比べていた。
「こちらの方が浅うございますな」
「次は雨の後だ。それでも持つなら、道の悪い所から使っていこう」
二日後、夜から降っていた雨が朝にはやんだ。試した区間へ行くと、隣の土道には水を含んだ深い轍が残っている。石灰を混ぜた路面の轍は浅かったが、端の低い所には水が溜まり、踏むと表面が沈んだ。
大蔵介が人足を呼び、路肩の水溜まりを指した。
「まず、ここに溜まった水を道の外へ逃がせ。それから、この辺りをやり直す」
人足が鍬を持って作業に取り掛かった。俺は水の溜まっていない部分も踏み、足元の沈み方を比べた。
「使えそうだな」
「はい。ただ、先に水の逃げ道を作らねばなりません」
「なら、その順で続けてくれ。根の平峠まで、道の悪い所から頼む」
大蔵介は道を一度に固めようとはせず、ぬかるむ所の水を逃がしてから、石灰を混ぜる場所を増やしていった。
治田城へ寄った時には、門を入った荷車が広場の端に止まっていた。松雲軒が帳面を持って荷を確かめ、下ろす場所を示している。
山から戻った男が、松雲軒のもとへ駆け寄った。
「金堀の頭が、明日までに坑木を増やしてほしいと申しております」
「何本要るのでしょう」
「そこまでは聞いておりません」
「では、必要な本数を確かめてきてくだされ。分かり次第、こちらで揃えます」
男が山へ戻ると、松雲軒は届いた荷を帳面に書き加えた。空いていた建物には棚が入り、材木や道具の置き場も決まりつつある。金堀の者が炉を据える場所を確かめる傍らで、松雲軒は人足へ材木の置き場を指示していた。
俺に気づいた松雲軒が帳面を閉じ、近づいてきた。
「十兵衛様。炉の場所が決まりました。明日から道具を運び入れます」
「足りない物はあるか」
「今のところは揃っております。新たに必要な物が出ましたら、江野へ使いを出します」
次の荷車が門をくぐってきた。松雲軒は一礼し、帳面を開きながら荷車の方へ戻っていった。
* * *
八月も後半に入った頃、義賢が江野へ来た。俺は継潤、政基とともに湯場の館で迎えた。義賢が乗ってきた馬は厩へ引かれ、供の荷は別棟へ運ばれていった。
義賢が俺へ向き直った。
「十兵衛。待たせたな」
「御屋形様。ようこそお越しくださいました」
「善祥坊から湯の話を聞いておってな。一度来てみたかった」
館へ入る前に、義賢は通ってきた道を振り返った。
「途中に、白く固めた道があったな。あれは何だ」
「古田で採れた石灰石を焼き、土に混ぜたものです。普請方の多湖大蔵介に、江野から根の平峠まで、道の悪い所を直させております」
「根の平峠までならよい。その先へ手を入れる時は、わしに話を通せ」
「承知しております」
義賢は供の者たちが別棟へ向かうのを見送り、継潤へ顔を向けた。
「供はあちらへ通すのか。善祥坊、お前は先に一晩泊まったそうだな」
「はい。湯にも館にも、不都合はございませんでした」
「なら、まず湯を見せてもらおう」
湯を上がった義賢は着替えを済ませ、座敷へ入った。腰を下ろして茶を一口飲むと、俺へ顔を向けた。
「よい湯だな。善祥坊が勧めたのも分かる」
「ありがとうございます」
義賢がひと息ついたところで、清洲で信長と話した内容をまとめた書付を取り出した。
俺は義賢の前へ書付を置いた。
「御屋形様。上総介殿とは、清洲でこのように話を付けました」
義賢は書付を広げ、俺の説明を聞きながら読み進めた。互いに押さえた土地へは兵を入れず、先に従った城や国衆にも手を出さない。どちらにも従っていない者への動きは制限せず、進出先が重なりそうなら出兵前に使者を立てる。
義賢が書付から顔を上げた。
「援軍を出すとも、共に兵を動かすとも書いておらんな」
「はい」
「互いの動きを知らずにぶつかるのを避けるための取り決めか」
「そのつもりです」
「この書付は、清洲で交わしたものではないのだな」
「清洲では口頭で決めました。江野へ戻ってから書付にし、上総介殿へ送る前に御屋形様へお見せしたかったのです」
義賢は末尾まで読むと、書付を俺へ戻した。
「よかろう。六角を約定の当事者にする書き方にもなっておらぬ。上総介が条件を変えてきたら、取り交わす前にもう一度見せろ」
「承知いたしました」
継潤が書付を受け取り、脇へ置いた。義賢は茶碗へ手を伸ばし、道の普請へ話を戻した。
「普請だけを受け持つ者まで置いたか。人も銭も掛かるであろう。北伊勢の備えを疎かにはしておるまいな」
「道は兵や荷を動かすためにも要ります。古田では林新右衛門に、北への備えを続けさせております」
「八風口から先で何かあれば、まず橘が受ける。その役目を忘れぬなら、普請方の差配はお前に任せる」
夕膳には、桑名から運ばせたハマグリを焼いて出した。義賢は開いた殻を手に取り、身を汁ごと味わってから、殻を膳へ戻した。
「桑名からか」
「はい。今朝、舟で上げたものです」
「これなら酒にも合うな」
次に牛肉を運ばせると、厚切りの肉を焼いた匂いが座敷へ広がった。義賢は箸を伸ばしかけて、俺へ顔を向けた。
「十兵衛。これは牛であろう。耕作に使う牛まで食わせるつもりではあるまいな」
「田へ出している牛ではありません。食べるために、別に育てたものです」
「初めから食うためにか。そこまでして牛を食おうという考えは、わしにはよう分からぬな」
そう言いながらも、義賢は一切れ取って口へ運んだ。噛んでいる間は何も言わず、飲み込むと、また箸を伸ばした。
俺は義賢の箸先を見ながら尋ねた。
「いかがですか」
「悪くない」
それ以上の感想はなかったが、膳を下げる頃には牛肉がほとんど残っていなかった。
* * *
翌朝、義賢の出立に合わせて馬が引かれてきた。普請方の者たちも現場へ向かい始めている。門の外では、石灰を積んだ荷車が向かいから来る馬を待っていた。馬が通り過ぎ、道端の人足が合図すると、荷車も動き出した。
俺は義賢が馬に乗る前に、館の使い心地を尋ねた。
「御屋形様。不便なところはございませんでしたか。あれば直します」
義賢は主屋と別棟を見渡した。
「わしが泊まる分には困らなんだ。供も別に休ませられるし、湯も近い。ただ、客が重なれば世話をする者が足りぬかもしれん。その時は人手を確かめよ」
「分かりました」
「客を迎える館として十分使える。弥三郎にもそう伝えておけ」
義賢が馬に乗ると、供の者たちも列を整えた。
「では戻る。上総介との書付は、返事が来たら知らせろ」
「承知いたしました」
一行が門を出る間、石灰の荷車は道端で待っていた。最後の馬が通り過ぎると、荷車方は綱を取り直し、普請場へ向けて引き始めた。




