第74話 三嶽寺焼き討ち
天文二十三年(1554年)、初夏。
伊勢国、三重郡、音羽村、三嶽寺山麓。
三嶽寺攻め――滝川一益
夜が明けても、三嶽寺の門は開かなかった。
柵の内側では白い頭巾を被った僧兵が槍を持って動き、門脇には弓を抱えた者もいる。山道の番も残ったままだ。
継潤が山道の方へ目を向けた。
「山道の番も退いておりませぬな」
「昨日まで待った。今朝も門は閉じたまま、槍を持って並んでいる。それが答えだ」
昨日返した使者には、門を開くか閉じたままにするかで答えを示せと伝えてある。閉じたままなら、決めた通りに動くだけだ。
正面の参道では可成の第一大隊が列を整え、利家の第二大隊は鳥居口へ下がる道へ向かっていた。木立へ入った成政の第三大隊からも、寺の裏へ回ったとの報告が届いている。
継潤が地面へ広げた絵図へ三つの木札を置いた。
「三左衛門殿は予定通り正面へ。又左衛門も間もなく鳥居口へ着きます。内蔵助には、山へ逃げた者を追って兵を散らすなと重ねて伝えました」
「寺へ戻るなら戻らせろ。下へ抜けようとする者だけ止める」
「山中まで追えば、こちらが勝手の分からぬ場所へ入ることになりますからな」
「そういうことだ」
使番が三方へ走った。麓に残した騎兵は馬から下り、手綱を取ったまま待っている。
騎兵の一人が参道を見上げた。
「我らは出ませぬか」
隊を預かる男がすぐに返した。
「ここへ馬を入れれば味方を踏む。下へ抜けてきた奴が出るまで待て。それまでは馬を休ませておけ」
そこへ賢政が政基、忠治、おりんを連れて来た。
第一大隊の前では盾が並び、その後ろへ鉄砲兵が入っていく。忠治はしばらくその列を見ていた。
「萩沢方にいた者も、音羽から加わった者も、随分と揃うようになりましたな」
「三左衛門たちが何度もやらせたからな。今日はそのまま動かしてみる」
政基が盾の列を見た。
「石を落とされれば厄介です」
「だから鉄砲が先だ。屋根へ上がった奴を立たせたままにしない」
賢政が、本陣に残る某と継潤へ向き直った。
「久助。寺は任せる。湯の湧く谷へ続く道が押さえられたら、俺はそちらへ行く」
「心得ました」
「中を改めて、武器と火薬と帳面を出せ。全部済むまで火は入れるな」
「承知仕りました」
「山へ燃え移らせるなよ。焼くのは寺だ」
木の多い斜面へ目をやった。
「この時期に山まで焼けば、寺一つでは済みませぬ。草を刈らせ、水も上げておきます」
「頼む」
賢政たちは、おりんが見つけていた脇道の入口へ下がった。
しばらくして、山上から法螺貝が鳴った。
柵の向こうへ僧兵が集まり、門前に槍が並ぶ。堂と僧坊の屋根にも人影が増え、瓦の脇には拳より大きな石が積まれていた。
継潤が屋根の上を見た。
「石まで上げておりますな」
「三左衛門殿には頭上も見させろ」
第一大隊の先頭が止まり、盾の隙間から鉄砲兵が銃口を上げると、屋根にいた男が石を抱え込んだ。
可成の声が参道を駆け上がった。
「まだ撃つな! 柵際と屋根の上を見ておけ!」
一人、二人と立ち上がり、下の兵へ石を落とそうと腕を振り上げる。
「今だ!」
可成の旗が下がるや、幾つもの銃声が重なって山にこだました。
屋根の上で白い衣が跳ね、板へ血が散った。石を抱えていた男が身体を折って軒から落ち、柵から身を乗り出していた僧兵も胸を撃たれて後ろへ倒れる。
「一列目、下がれ!」
撃った列が下がり、次の列が前へ出た。
参道には白煙が残っていた。
「見えんぞ!」
「撃つな! 煙が抜けるまで待て!」
可成は撃たせなかった。風が通ると、門前が見え始めた。伏せていた僧兵が槍を持って柵へ戻り、屋根にも別の男が上がった。
「懲りぬな」
継潤が呟いた直後、二度目の銃声が響いた。
門前で数人が崩れ、屋根にいた男が石を抱えたまま斜面へ落ちる。
「鉄砲は下がれ! 盾を上げろ! 槍を通せ!」
鉄砲兵が後ろへ下がると、盾兵がその場所を埋めた。矢と石が降り、盾へ続けて当たる。
「上だ!」
「盾を寝かせるな!」
「押せ! 止まるな!」
割れた板の隙間から槍が伸びる。柵越しに突き出された穂先を押し返しながら、第一大隊が前へ進んでいく。
本陣へ伝令が駆け戻った。
「第一大隊、柵へ取り付きました! 門前の僧兵は奥へ下がっております!」
続いて鳥居口から別の兵が走ってきた。
「第二大隊、鳥居口で僧兵二十余りと接触! 斜面へ出ようとした者もおります!」
「下へ抜けたか」
「いえ! 道は塞いでおります!」
「又左衛門にはそのまま持ち場を固めさせろ。深追いはさせるな、鳥居口より下へは出すな――そう伝えよ」
寺の裏からも銃声が聞こえた。成政の伝令が戻ってきた時には、正面の柵へ第一大隊の盾兵が身体ごと押し付いていた。
「第三大隊の前へ十数人出ました! 道を避け、山際へ入ろうとしております!」
継潤が裏手の木札を少し動かした。
「内蔵助が追えば裏道が開きます。寺と山の間だけ詰めさせましょう」
「正面へ戻る奴まで追う必要はない」
「では、そのように」
正面で柵が傾いた。
「倒れるぞ!」
「前へ出ろ!」
盾を押し付けていた兵が一斉に踏み込む。横木が外れ、倒れた柵を踏み越えて第一大隊が寺域へ入った。
石段には僧兵が槍を並べて待っていた。
「来るぞ!」
盾越しに橘兵が槍を突き出し、僧兵も上から穂先を返す。盾の脇へ身を乗り出した男の腹へ槍が入り、身体を折ったまま石段を転がった。
「詰めろ! 隙間を空けるな!」
後ろから弓も飛ぶ。肩や腕へ矢を受けても槍を振るっていた僧兵へ、さらに矢が突き立つ。腿を射抜かれて膝をつき、背中から何本もの矢柄を突き出したまま前へ倒れた。
門脇では一人が槍を足元へ放り、両手を上げた。
「降る! もう戦わぬ!」
第一大隊の列は止まらない。
「前へ!」
その一人も、胸へ槍を受けて仰向けに倒れた。まだ身体を起こそうとしたところへ、後ろから来た兵がもう一度穂先を入れた。
鳥居口へ走った者は利家の第二大隊に押し返され、堂の裏へ抜けた者は、そこまで上がってきた成政の第三大隊に当たった。
「戻れ! 裏も塞がれている!」
僧兵は寺の中へ戻っていった。
「本堂前、第一大隊が押しております! 敵は本堂と僧坊へ分かれました!」
「第三大隊、僧坊裏まで進出! 裏道は押さえたままです!」
報告が続けて入る。建物へ入る第一大隊の兵が増え、可成と成政の間に空きができ始めていた。
継潤がそこを指した。
「久助殿、あそこが開きます」
「本陣の一隊を回せ。道だけ埋めろ。堂の中へ入れるな」
「伝令路は残します」
僧坊から怒号が上がった。
「戸を出せ!」
外した戸板を盾にした僧兵へ槍兵が押し込み、窓から弓が射かけられる。
「窓だ!」
「伏せろ!」
裏口から二人が飛び出したが、その先には第三大隊の兵が並んでいた。一人は背中へ槍を受けて倒れた。もう一人は走りながら槍を捨てた。
「武器はない!」
それでも左右から穂先が突き出され、その場へ崩れた。
いつの間にか法螺貝の音は消え、兵の怒号と、戸や壁を打ち破る音だけが残っていたが、それも次第に少なくなっていった。
しばらくして伝令が本陣へ駆け込んできた。
「寺域の抵抗、止まりました! 本堂、僧坊、蔵の周りまで押さえております!」
「裏は」
「動く者はおりません!」
槍を捨てた者も含め、寺に残った僧兵は一人残らず討たれた。
寺域を見上げた。
「火を持ち込むな。先に中を改めるぞ」
各大隊から兵を出し、本堂、僧坊、庫裏、蔵へ入れた。戸を開け、物入れを退け、畳や床板まで外す。
「ここにもあるぞ!」
僧坊の床下から槍が束で出てきた。
「弓もあります!」
別の部屋には弓と矢が積まれている。蔵からは火縄銃と火薬壺が運び出された。
「火薬は先に下ろせ! ここへ松明を近づけるな!」
寺の奥からは帳面も出てきた。寺領や年貢を書いたものに混じり、山道を通った荷と日付を記した帳面が何冊もある。
継潤が一冊を開いた。
「久助殿、これは寺領の帳面ではありませぬな」
「何が書いてある」
「荷の数と日付です。名のあるものもございます」
表紙を見た。
「持って帰れば使えるか」
「誰がこの山道を使っていたかは追えましょう」
「なら燃やすなよ」
継潤は横にいた兵へ帳面を渡した。
「布へ包んで下ろせ。米俵や武器の下へ置くな。濡らして読めなくしては意味がない」
寺域の外へ槍、弓、火縄銃、火薬、帳面が積み上がっていく。米や使える道具も、それに続いて外へ運び出された。
その間に山側では兵が鎌を持って枯れ草を刈り、水桶も次々と上げられていた。
「水はこっちだ! 建物へ掛けるんじゃないぞ!」
松明を持った兵が僧坊へ近づいたところで、可成の声が飛んだ。
「まだ焼くな! 中をもう一度見ろ! 味方ごと焼くつもりか!」
再び兵が建物へ入った。床下、物置、蔵の隅まで確認し、最後の兵が外へ出る。
継潤も寺域を回って戻ってきた。
「火薬は全て麓へ。味方も残っておりませぬ。山側の草も刈らせました」
空を見上げた。
「風は」
「今のところ弱うございます」
「よし」
本堂と僧坊を見た。
「焼け」
松明を持った兵が散った。僧坊の軒下へ入れた火が板壁へ移る。本堂では開け放した戸から火が入り、床板を伝って柱の根元へ回った。
「火が上がったぞ!」
初めは細かった煙が次第に黒くなり、軒の内側から上がった炎が屋根裏へ入って梁を走った。焼けた板が弾け、瓦が落ちる中、しばらくすると本堂の屋根からも炎が噴き出した。
別働隊を向かわせた方角からも煙が上がり、一つ目から少し離れた山腹で二本目が立つと、その奥でも木々の間から炎が見え始めた。
「火の粉が山側へ出ました!」
「寺の火は放っておけ! 外へ落ちた分だけ消せ!」
水桶を持った兵が走る。枯れ草へ落ちた火へ水が掛けられ、白い煙が上がった。その向こうで三嶽寺の本堂と僧坊は燃え続けていた。
* * *
三嶽寺から離れると、鉄砲の音は木々の向こうへ遠ざかった。
おりんが先を歩き、俺と政基、忠治が続く。護衛も少し間を空けて後ろへ付いていた。
道は次第に細くなった。岩が張り出したところでは二人並べない。沢へ近づくにつれて土も湿り、草鞋の下で土が沈む。
政基が足元を見た。
「ここへ荷車を通すのは無理ですな」
「俺もそう思う」
途中で忠治が斜面の下を指した。
「江野から荷を上げるのであれば、下を回った方がよろしゅうございます。少し遠くなりますが、坂は緩く、荷を付けた馬も通っております」
木々の間に、もう一本の道が見える。
「帰りにそっちを見よう。こっちは人が歩くだけだな」
「雨が降れば、なお悪くなりましょう」
少し進むと、おりんが岩場の前で立ち止まった。
「こちらにございます」
岩の割れ目から細い水が流れ出し、沢へ落ちる前に浅い窪みへ溜まって、石の間を抜けていく。白く濁っているわけでもなく、鼻につくような臭いもない。
「これが湯か」
「触れれば分かります」
しゃがんで手を入れた。
「思ったより熱いな」
政基も指先を入れ、すぐに眉を上げた。
「これは、思ったより温うございますな」
少し上を見ると、別の割れ目からも湯が流れている。二つの流れは岩の下で一つになり、そのまま沢へ落ちていた。
前世の記憶では、この辺りが後の湯の山温泉だった。だが、今目の前にあるのは岩から湯が流れているだけの谷だ。
草鞋を脱いだ。
政基がこちらを見た。
「入られるので?」
「足だけな。見るだけじゃ分からん」
「手では足りませぬか」
「入る湯なら足で確かめた方が早いだろ」
政基が濡れた岩へ先に足を掛けた。
「十兵衛様、そちらは滑ります。こちらから」
「分かった」
袴の裾を膝まで上げ、岩の窪みへ片足を入れた。足を入れた瞬間は熱かったが、そのまま浸けていられた。もう片方も入れ、膝下まで浸ける。朝から山道を歩いていた足へ熱が広がっていく。
「どうでございます」
「悪くない。少し浸かってると足が楽になる」
忠治も湧き口へ手を入れた。
「温い水が出るとは聞いておりましたが、これほどとは。山へ入る者が手足を洗うことはあったようですが、湯屋を置いたという話は聞いておりませぬ」
「なら、まだ誰も使っていないようなものだな」
足を上げ、少し下の流れへ入れてみる。
「こっちは温い」
「沢水が混じっているのでしょうか」
「それもあるだろうな」
上の割れ目へ手を入れると、逆に最初の場所より熱い。湧き口ごとに違うらしい。
忠治が持っていた木椀を借り、太い湧き口へ差し入れた。湯が縁まで満ちる。同じ椀を隣の細い湧き口へ置き、同じくらい待つ。こちらはまだ半分ほどしか溜まっていない。
忠治が覗き込んだ。
「随分違いますな」
「見ただけじゃ分からんな」
「太い方から湯殿へ引きますか」
「まだ早い。明日も同じだけ出るとは限らん」
斜面を見に行っていたおりんが戻ってきた。
「上にも二か所ございました。一つは大きな岩の割れ目から出ております。もう一つはその下で、上の方が熱うございました」
「案内してくれ」
上へ回る。一つは長く手を入れていると熱く感じる。もう一つは最初の湧き口と大きく変わらない。そこでも同じ木椀を使った。
「こちらは早いな」
「下の細い湧き口より倍ほどありそうです」
「三郎左衛門。この四か所に印を付けてくれ。周りの草は刈っていいが、石は動かすな。七日間、朝と夕に同じ椀で量を見させる」
忠治が頷いた。
「雨の後は量が変わるやもしれませぬ」
「雨が降った日も書かせろ。湯の濁りや臭いが変わったら、それもだ」
「では山を知る者を二人置きます」
「七日経つまでは掘らせるなよ」
「承知しました」
湧き口から少し下ったところには、岩の少ない平地があった。端を湯と沢水が流れ、そのまま下へ落ちている。
俺が立ち止まると、忠治も周囲を見回した。
「ここなら人を置けますな」
「上から湯を流して、ここで一度溜められそうだ」
「熱い湧き口と温い方を分けて引けば、入れる前に合わせられましょう」
「それができればいいな」
そのまま下へ歩き、先ほど忠治が示した道へ出た。上の細道より距離はあるが、坂は緩い。
ちょうど荷を付けた馬が一頭上がってきた。
忠治が手を上げた。
「少しよいか」
馬を引いていた男が足を止めた。
「へい」
「この道はいつも使うのか」
「山へ荷を上げる時は、たいていこちらで」
「荷車は?」
男は少し下の沢を指した。
「あそこで難儀します。通せぬことはありませぬが、雨の後は車輪が沈みます」
「やはりか」
男を行かせ、その先を見る。道は一度狭くなり、向こうからもう一頭来れば、どちらかが広い場所まで戻らなければならない。さらに下では、小さな沢が道を横切っていた。馬はそのまま渡れるが、荷車なら車輪を水へ入れることになる。
「こっちだな。全部広げなくていい。何か所か、荷車が行き違える広みを作る」
忠治が沢へ下りた。
「橋も要りますな」
「大きい物はいらんだろ」
忠治が両岸を踏んで確かめる。
「丸太を渡して固めれば足ります。ただ、山側から水が落ちております。先に溝を切って道へ流れ込まぬようにした方がよろしいでしょう」
「雨で道ごと流れたら意味がない。橋より先にそっちをやってくれ」
「承知しました」
「江野へ出す人足まで回すなよ」
「人数は分けます」
湧き口の下へ戻った。平地から見上げると、四つの流れが岩の間を下り、沢へ入っていく。
「七日見て湯量が変わらないなら、ここへ石を組む」
忠治が平地の端から道まで歩いた。
「湯殿はこちら側ですか」
「最初は一つでいい。樋で下へ落として、道側に休める小屋も欲しい」
「小屋はこちらへ寄せれば材を運びやすうございます。沢際を空ければ、使った湯も流せます」
政基が周囲を見回した。
「誰に使わせます」
「まずは怪我人や普請に出た者だな。人が来るようなら、その後に増やす」
忠治が笑った。
「湯に入りに山へ来る者が出ますかな」
「出るようになれば、それはそれでいい」
山の向こうから黒い煙が上がった。一か所だけではない。少し離れた山腹からも、もう一本立ち始めている。
政基が振り返った。
「火が入りましたな」
「ああ。戻ろう」
三嶽寺へ近づくにつれて、焼けた木の臭いが強くなった。門前には戦の跡が残っている。柵際では銃弾を受けた僧兵が倒れ、石段には何本もの矢を受けた者が伏していた。僧坊の前にも槍で突かれた死体が重なっている。
政基が足元を避けながら言った。
「かなり抵抗したようです」
「門を見れば分かる」
その向こうで、本堂と僧坊が燃えていた。一益が寺域の外で兵を動かしている。
「久助」
一益がこちらへ来た。
「十兵衛様。寺は片付きました」
「逃げた者は」
「鳥居口へ出た者も裏へ回った者も止めております。山へ散った者は追わせておりません」
「それでいい。帳面はどうだった」
一益が少し声を落とした。
「妙な物がございました。寺領や年貢とは別に、山道を通った荷を日ごとに書いた物が何冊も」
「誰の荷か分かるか」
「名まで書いた物もあるそうです」
「なら善祥坊に回せ。出入りしていた者が分かるかもしれん」
山際では火の粉を追って兵が水桶を抱えて走っていた。
「外へ落ちたぞ!」
「踏め! 水はその後だ!」
本堂そのものへ水を掛ける者はいない。
「焼け残りそうな物はあるか」
「門と柵、それに端の小屋が少し残るかと。火が落ちれば分かりましょう」
「冷えてから材も見てくれ。使える物は残せ。釘と鎹も拾わせろ」
一益が燃えている僧坊を見た。
「釘や鎹まで拾わせますか」
「鉄は焼いても鉄だ。江野へ持っていけば使える」
「承知仕りました」
別働隊を向かわせた方角でも煙が太くなっていた。木々の間から別の火も見える。
忠治がそちらを見た。
「三か所とも上がったようですな」
「寺の方は任せる。三郎左衛門、湯の谷はさっき決めた通り頼む」
「承知しました。まず道と沢から見せます」
大きな音がした。
「崩れるぞ!」
燃えていた本堂の屋根が内側へ落ち、炎と火の粉が一気に噴き上がった。寺域の外へ落ちた火を追って兵が走る。
一益が振り返った。
「山側へ飛ばすな! 寺は放っておけ!」
俺は燃える三嶽寺を背に、山を下りた。




