第13話 湯上がりロゼと嫉妬のクリス
「ドン、ドン、ドン‼」
次の日、俺とクリスは朝から店の扉を激しくノックする音で叩き起こされた。
「朝からうるさいなあ」
「お客様でしょうか」
「だといいけど、魔物だったら嫌だな」
恐る恐る扉を開いてみると……。
「す、すまんな。また来たよ」
現れたのは、ドロドロに汚れたメスカルたちだった。
「いやあ、面目ない」
「もう、恥ずかしいよ~」
「……」
ばつの悪そうな笑顔で頭を掻くメスカル。後ろのロゼとガイルも苦笑いを浮かべている。あの後、帰る前に寄り道して穴に落ちたらしい。
「もう! メスカルが大丈夫だって言うからじゃない!」
「みんなケガもしてないだろ。要するに俺のスキル的には危険じゃなかったってことだ」
最初は野宿するつもりだったそうだが、いざとなれば『さぬき製麺』があるからと、薄暗い通路を11階層へ歩いているうちに穴に落ちたらしい。
当然、昼間にそんな穴に落ちる冒険者はいないが、夜はダンジョン内の通路も暗くなるため、基本的に冒険者は夜間の活動を避けるそうだ。
「昨日ここで食事してから何も食べていないんだ。しかも、言いにくいんだが、持ち合わせがなくて……」
「穴に落ちたときに財布も失くしちゃったんです」
「皆さんなら無料でも構いません。喜んで食事をお出ししますよ。でもその前に……」
「えっ、そんなことまでしてもらって、本当にいいのか!?」
とにもかくにも、俺は三人にお風呂に入ってもらうことにしたのだった。
◆
「いいお湯でした~♪。それに服まで貸していただいてありがとうございます。この服、とっても動きやすくて可愛いですね」
湯上りのロゼがお礼を言いに来てくれた。服が乾くまでの間、俺の高校時代の体操服を貸している。白の半袖と小豆色のハーフパンツがよく似合っている。
今まで気付かなかったが、華奢なクリスとは違ってロゼはグラマー体型。俺の目の前で、豊かな双丘がたぷんたぷんと揺れている。
「この前はあんな失礼なことを言ってしまい、すみませんでした。怒ってませんか?」
照れたように上目遣いで尋ねてくるロゼ。桜色に上気した肌に、しっとりと濡れた赤髪が色っぽい。
そのまま無言で俺の腕に自分の腕を絡めてくる。いい匂いがして、柔らかい感触に腕が埋もれているのですが……。
「セトーミ様!」
異変に気付いたクリスが、もの凄い勢いで飛び込んできた。
「ちょっと、あなた! セトーミ様に近づきすぎです!」
「お礼を言うくらいいいでしょ」
「お客様からのお礼なら、私がお受けいたします。むやみにセトーミ様に触るのはおやめください」
「さ、触るって……。はいはい。どうせ私の胸にかなわないから、ひがんでるだけでしょ」
「な、な、何ですって~!」
「まあまあ、クリス」
「まったく、止めろよロゼ。みっともない」
俺のお古のスウェット姿のメスカルとジャージ姿のガイルが助けに来てくれた。三人とも服が乾くまで俺の服を貸しているのである。
「何よ! だいたいメスカルが寄り道しようって言うからこんなことになったんでしょ!」
「その代わり、風呂に入れたんだからいいじゃないか」
「そんなの全部セトーミ様のおかげでしょ! ああ……。このお店が私たちの拠点だったらいいのに。私もセトーミ様と、ここに住みたいな」
「ダメです! 女の人はお断りします!」
両手を広げて、顔をブンブン横に振るクリス。
あ、あの……。ここは俺の店なんだけど……。
◆
「何だ?! この異世界料理は?!」
「なんだか高級そうな器なんですが……。こんな高そうなお料理、本当に頂いてもいいんですか?!」
「……!」
「もちろんですよ。熱いので気を付けてくださいね」
木桶の中を珍しそうにのぞき込む三人。
木桶に入った釜揚げうどんは、現地の人からすればかなり異世界的に見えるらしい。俺も外でしか食べたことがなかったので、いい機会だとクリスと一緒に食べることにした。
「俺たちも朝食を食べそびれただろ。たくさん茹でたから一緒に食べよう」
「私も頂いていいのですか?」
「当たり前じゃないか。お客に出す料理くらいは一通り食べてないとな」
「はい。ありがとうございます」
「ずずっ……。久々に食べると美味いな」
「はい。さすがシャーマン様です」
釜揚げ特有の外側のねっとり感と内側のコシ。噛むと小麦の甘みが広がり、つゆの塩気と甘みが絡みつく。
二口目からは薬味をどんどん投入した。ねぎのシャキシャキ、しょうがのピリ辛がうどんの甘みを引き立てて、止まらない。
最後はつゆにうどんを全部浸して完食した。
「『釜揚げうどん』は最高だったな!」
「この器からも木の香りがしてきたよ~。王都のレストランでも絶対食べられないよね」
「……美味かった」
向こうのテーブルでは、メスカルたちも食事を終えて満足そうにお茶をすすっている。
しばらくすると、メスカルが何か思いついたようにこちらを振り返った。
「そうそう、セトーミさん」
「メスカルさん、お替わりですか?」
「俺たちはもう満腹だよ。それより差し出がましいんだが、看板がないと冒険者はここがレストランだとわからないと思うんだ」
「やはりそうですか」
◆
「それじゃあ、またな!」
「例の件のこともよろしくお願いします」
「任せとけって」
メスカルによると、食堂では一般的に食器のシルエットをかたどった看板を掲げるらしい。彼らにはギルドでの宣伝に加え、『さぬき製麺』の看板設置も頼んでおいた。
親指を立てて力強く快諾するメスカルたちに、期待することにしよう。
【瀬戸内グルメ:釜揚げうどん】




