第23話(下):食後の甘味と失われた二国間交流
アキトは甘いもの好き、覚えた。大事なことだから3回言いますw
■食後の甘いひとときを
食事が一段落したところで、ミナが立ち上がった。
「食後のお茶菓子をお持ちしますね」
しばらくして、ミナが小さな和菓子用の皿に切り分けられた羊羹を運んできた。艶やかな小豆色で、上品な甘い香りが漂う。
「これはCOBOL王国特産のデータ小豆という品種を使った羊羹です」
「普通の小豆より粒が大きくて、強い甘みと、少しだけ塩気があるのが特徴なんです」
「おお、これは良い羊羹だな」ヒロシが目を細めた。
「実は俺、こういうものが大好きでな。酒は全く飲めないんだが、甘いものは別腹だ」
アキトも一切れ口に含むと、優しい甘さが口いっぱいに広がった。ふっくらとした食感で、小豆の風味が豊かに感じられる。
「俺も甘いもの好きなんです」思わず感想が口に出る。
「元の世界でも、よくお取り寄せの和菓子を買っていました。これは…なんというか、懐かしい味がします」
「ほう、そうか!」ヒロシが嬉しそうに頷いた。
「エンジニアは甘いものを好むやつが意外に多い。細かい作業をするには糖分が必要だからな」
(どの世界でも同じことを言われている気がするな…)
「データ小豆は、繊細な味をしていますが、これだけふっくらとかつ食感を残すように仕上げるには技術が必要です。これは王国の和菓子職人の技術の結晶ですね」
アキトはようじを手に、もう一切れ羊羹を手に取る。
「確かに、ただ甘いだけじゃない。絶妙な塩気と、複雑な味わいがありますね。コンビニの羊羹とは全然違う」
「コンビニが何かは知りませんが、COBOL王国では、集中力を保つのに甘いものは欠かせないと考えています。学園でもおやつタイムがありますよ」
リリスは微笑ましそうに二人を見ていた。
「ピピカチャ!アキト、ウレシソウ!」ピットも興味深そうに見つめている。
「甘イモノハ、精神的安定ニ良イ効果ガアリマスネ」イオも青く光りながら観察している。
羊羹をゆっくり味わいながら、会話はより和やかになっていく。
■失われた交流への想い
食後のティータイムを楽しんだ後、話題は次第に深刻な方向へと向かった。
「ところで」リリスが話題を変えた。
「COBOL王国とJavaシティの関係は歴史的にはどうなのでしょう?」
ミナが少し表情を曇らせながら答えた。
「複雑ね。もともとは同じ起源を持つ国だったの。でも、Javaシティが『新しい技術』を取り入れ始めた頃から、少しずつ距離が生まれた」
「ただ敵対しているわけでもない」ヒロシが続けた。
「両国とも、互いの価値は認めている。ただ、アプローチの違いがね…」
ミナは少し身を乗り出して説明を始めた。
「具体的に言うと、こちらCOBOL王国は『PROCEDURE DIVISION』や『DATA DIVISION』のように、明確に構造を分けて、一つ一つの処理を確実に行うことを重視するの。例えば、金融システムなんかでは、1銭の誤差も許されないから、こちらの方式の方が信頼されている」
「一方、Javaシティは『オブジェクト指向』を前面に出して、柔軟性を追求した。『継承』や『ポリモーフィズム』なんて概念で、一度作ったコードを再利用しやすくしたり、拡張しやすくしたりね」
アキトは興味深そうに聞いていた。
「でも、どちらにも長所と短所があるのよ」ミナが続ける。
「うちの王国の方式は確実だけど、新しい機能を追加するのに時間がかかる。Javaシティの方式は拡張性はあるけど、複雑になりすぎて時々予期しないバグが生まれることもある」
「現実的には、用途に応じて使い分けるのが一番なんだけど…」ミナは少し寂しそうに言った。
■かつての友好関係
「以前はお互いを尊重し合っていたのよ」ミナが懐かしそうに語り始めた。
「Javaシティの人たちも、うちの堅実さを評価してくれていたし、私たちもJavaシティの革新性を認めていた」
「そうだな」ヒロシが頷いた。
「俺が若い頃は、両国の技術者たちが頻繁に交流していた。『データ商人』のマーカス爺さんや、『アルゴリズム学者』のエリザベス先生なんかが、両国を行き来していたもんだ」
「マーカス爺さんは『COBOLの厳密さとJavaの拡張性を組み合わせれば、最強のシステムができる』が口癖だったな」ヒロシが懐かしそうに言った。
「エリザベス先生も『言語の垣根を越えた時に、真のイノベーションが生まれる』とよく言っていました」ミナが続けた。
「私も子供の頃、先生から色々なことを教わったんです」
「ところが、ここ数年で急に変わってしまった」ヒロシが心配そうに眉をひそめた。
「Javaシティの中で、COBOL王国のことを『柔軟性に欠ける』『古臭い』と批判する声が大きくなってきたんだ」
ミナが続ける。
「それまでは、そんな極端な意見を言う人はいなかったのに。急に『時代遅れの技術に頼っているから進歩がない』とか『堅牢性なんて言い訳にすぎない』なんて言う人たちが現れて…」
「そして、そういう声を煽るような人たちが、Javaシティの中央部に入り込んできたらしい」ヒロシの声が低くなった。「以前なら考えられないことだった」
■消えた友人たち
「さっき話していた人たち、半年ほど前から急に姿を見なくなってしまったの」ミナの声に不安が混じる。
「マーカス爺さんは最後にJavaシティに向かうって言ってたけど、それっきり…手紙の返事も来なくなった」
「エリザベス先生からも連絡が途絶えた」ヒロシが深刻な表情で続けた。
「同じタイミングで黙って姿を消すなんて、普通じゃない。きっと何かが起きている」
アキトは表情を曇らせた。
「それは…グローバル・ソリューションズが関係しているかもしれませんね」
ヒロシとミナは顔を見合わせた。
「やはり、そうなのか…」
「グローバル・ソリューションズが本格的に介入し始めたのは、ちょうどその頃だったと思います」ミナが言った。
「きっと、関係があるはず…」
「両国の交流を妨害することで、何かの利益を得ようとしているのかもしれない」リリスが分析した。
「でも、あなたたちのおかげで、状況が少し見えてきた」ヒロシが僅かに表情を明るくした。
「明日からしっかり訓練して、PERFORM訓練所に行こう」
■古きメモの謎
「実は、これに関係するかもしれない、あるものを見せたいんです」
ミナはそう言って立ち上がり、隣の部屋から古い紙束を持ってきた。
「これは師匠が残していったメモの一部です。今まで意味がわからなかったのですが…」
それは古い羊皮紙のような質感の紙に、奇妙な図形と文字が書かれていた。
「これは…」アキトは興味深そうに覗き込んだ。
「世界再構築プロトコルの鍵に関するメモかもしれない」ミナが静かに言った。
「アキト、あなたならそれを解読できるのでは…」
アキトがその紙に触れた瞬間、彼の指先から微かな青い光が広がった。まるで、紙自体が反応しているかのように…
「これは…!」
アキトの目に、紙に書かれた文字が少しずつ形を変えていくのが見えた。他の者たちには見えない何かが、彼の目には映っている。
「どうした?」ヒロシが心配そうに尋ねた。
「この文字が…変わっていく…」
アキトの声は遠のき、彼の意識はまるで紙の中へと吸い込まれていくような感覚に包まれた。
次第に浮かび上がってきたのは、一つの座標とある施設の名前だった。
「パターン・ライブラリー...」
アキトがつぶやくと、その言葉に反応したように、ミナとヒロシの表情が変わった。
「まさか…」ヒロシが驚きの声を上げた。
「伝説の…」
しばらくして、アキトの意識が現実に戻ってきた。彼は額に汗をかき、少し疲れた様子で羊皮紙から手を離した。
「大丈夫?」リリスが心配そうに声をかける。
「ええ、なんとか」アキトは深呼吸をしながら答えた。
「不思議な体験でした。文字が動いて、映像のように情報が流れ込んできて…」
「具体的には何が見えたんだ?」ヒロシが身を乗り出した。
「座標らしき数値と、『パターン・ライブラリー』という施設名。それと…」
アキトは記憶を辿るように目を閉じた。
「『七つの鍵』『最深層への道標』といった言葉も見えました」
「七つの鍵…」ミナが息を呑んだ。
「PERFORM訓練所の7つのレベルと関係があるのかしら?」
「可能性はありますね」イオが静かに光を放った。
「古イ記録ニモ、『七ツノ試練ヲ越エシ者ニノミ、真ノ智ガ与エラレル』トアリマス」
ヒロシは立ち上がり、部屋の隅にある古い地図を取り出した。
「パターン・ライブラリー…確か、王立図書館の古い記録にその名前があったはずだ」
地図を広げながら、彼は指で特定の場所を指した。
「ここだ。COBOL王国の北東、『忘却の山脈』の奥にあると言われている幻の図書館。数百年前から存在するとされているが、正確な場所は誰も知らない」
「師匠がその場所を知っていた可能性があるのね」ミナが推測する。
「だからこそ、このメモを残したのかもしれない」
アキトは羊皮紙をもう一度見つめた。今度は文字の変化は起きなかったが、微かに温かみを感じる。
「このメモは、僕たちに何かを伝えようとしている気がします。PERFORM訓練所での修行が、パターン・ライブラリーへの道に繋がっているのかもしれません」
「なら、さらに頑張らないとですね」リリスが決意を込めて言った。
明日からの訓練と、そしてその先に待つ謎。アキトたちの冒険は、次の段階へと進もうとしていた。
さて、いよいよ次のステップに進むのか…?




