第22話(中) COBOL王国 - 秩序ある市場の散策とお買い物日和
よくある市場の散策回ですね。街をうろうろしますが、COBOL王国、個人的に割と住んでみたいかもw
■安定したシステムと活気ある市場
入国手続きを終え、アキトたちはCOBOL王国の中心部へと向かった。バグジロウは駐機場に預け、徒歩での移動となる。
イオが周囲を簡単に確認し、青い光を放ちながら言った。
「COBOL王国ノシステムハ、タイヘンニ安定シテイマス。不正ナ侵入ノ痕跡モ検出デキマセン」
「やはりここにきて正解だったわね。少しゆっくり見て回りましょう、このあたりが噂のWORKING-STORAGE市場。掘り出し物があるかもしれない」
リリスが指さす方向には、活気ある市場が広がっていた。
市場には赤や青の軒先幕を張った店がずらりと並び、威勢のいい掛け声とともに品物が売り買いされている。
「らっしゃいらっしゃい! 本日のスペシャルはメモリーフルーツ!記憶力アップ間違いなしだよ!今なら二つで1000トークン!」
「そこのきれいなアンドロイドのお姉さん、データベース草餅はいらないかい?ここの名産だよ!」
(まるで御徒町とかの市場みたいだな…)
店主たちの元気な声が飛び交っているなか、衣料品のエリアに入った。
(ふむふむ、これは、和服とか浴衣みたいな服もあるけれど、割とシンプルですっきりしている。ユニク〇とか無〇みたいな感じが好みだ。素材もしっかりしていて、モノもよさそうだな。日常に着るのにちょうどよさそうだ)
「何かお探しでいらっしゃいますか?」
そのうちの一つの店に入ると、様々な種類の衣服が、サイズや用途ごとに整然と並べられていた。男性用、女性用と明確に区分され、さらにその中で素材や形状によって細分化されている。
(これは選びやすいな)
「服を全部失っちゃってね、普通に生活するのにひとそろい欲しいんだけど」
「それは大変でしたね、こちらの『LOCAL-VARIABLE』コーナーが良いと思います。下着から日用の衣服までそろっていますが、イメージや予算をお知らせいただければこちらで見繕いましょうか?」
老婦人は、奥の棚から何枚かの衣服を取り出した。藍染めのシンプルなシャツと、やや厚手の亜麻色のズボン。そして肌着類も数枚。
「これらは『INITIALIZED SET』と呼ばれる基本セットです。COBOL王国の織物技術で作られた、吸湿性と耐久性に優れた素材を使用しています。」
「試着もできますよ。こちらの『PERFORM PROCEDURE』ルームへどうぞ」
アキトは老婦人に奥の部屋に案内される。ルームは清潔で、姿見や木のハンガーのようなものが置いてある。
(うおーこれは良い感じ、柔らかくて着やすいし、温かみのある手触りがいいな。シンプルなデザインに、お値段もリーズナブルだぞ)
「お似合いですよ」
「ピピカチャ!アキト、似合ってる!COBOL王国の人みたい!」
(まあ、日本人だしな…一番なじみがあるのかも)
精算を済ませると、老婦人は「PACKED-DECIMAL」と呟いた。
(うお!パッキングされた!)
「これは便利ですね!」
「うちの国の伝統的な技術ですよ。旅行の方には好評ですね」
老婦人は微笑んだ。
店を出ると、リリスがスカーフを若い男性の店員にすすめられていた。
「『PICTURE句』と呼ばれる模様が入っていて、見る角度によって違う意匠に見えるんだよ。お姉さんみたいな素敵なアンドロイドにぴったりだよ」
「確かに素敵だけど、私たちには無用なものね」
リリスが苦笑する。
「そうとも言えないさ、いいんじゃないか、よく似合うよ」
「そうかしら?…まあ、私は役割があるから、洋服も制限されているし、やめておく…すすめてくれてありがとう」
リリスは少しはにかんだように見えた。
(こういうところが雪菜さんに似てるんだよな…)
アキトたちは市場をさらに進んでいった。
(このあたりは食事ができるエリアのようだな…)
「STRING-UNSTRING食堂」と書かれた看板が下がっていた。
(文字列操作か…そういえば松岡が『文字列操作だけは便利だ』と言っていたな)
アキトは市場の構造にますます興味を持った。
道を曲がるごとに、それぞれ特色のある区画が現れる。「SORT-MERGE(整列統合)エリア」というのぼりがたったエリアには、様々な国から集められた品々が一堂に会している。
「物産展みたいなものか?しかし、並べ方がめちゃめちゃ整然としているな…」
「特定ノ品物ヲ探ス際ノ移動距離ガ最小限ニナルヨウ計算サレテイルノデス。配置もテッテイテキニ計算されていて、ムダがナイデス」
イオが周囲を解析しながら解説してくれる。
■「COMPUTE」茶屋とお団子のひととき
しばらく市場を歩き回った後、アキトは疲れを感じ始めていた。
「少し甘いものでも食いたいところだな…」
「ピピカチャ!アソコ、オチャヤサン!アマイモノモ アリソウ!」
ピットに案内されて一同は「COMPUTE茶屋」という小さな店がに入る。店先には縁台が並び、和傘で日陰がかけられて心地よい空間が出来上がっていた。
にこやかに会話しながらお茶を楽しむ人々の様子にアキトは少しほっとさせられた。
「いらっしゃいませ」年配の女性が迎えてくれた。「お二人さま?」
「はい」アキトは答えた。
「どうぞ、こちらのエンダイへ」
店先の縁台に腰を下ろすと、目の前には市場の活気ある光景が広がっている。人々が行き交い、様々な声が飛び交う様子は、どこか懐かしさを感じさせた。しかし、Javaシティのような喧騒はなく、どこか落ち着いた秩序が感じられる。
「本日のおすすめは『DISPLAY団子』でございます」店主が言った。「季節の素材を使った、見た目も美しいお団子です」
「では、このセットでお願いします」
無料の緑茶と一緒に運ばれてきたのは、三色の団子と、小さな和菓子の盛り合わせだった。団子は「入力値」「処理」「出力」を表すと説明され、それぞれ異なる風味を持っている。
(うん、香りが良くて、すっきりとした味わいだ。団子もちょっとずつ味が違っていて、入力値の方はぐいぐい甘さが伝わってくるし、処理の方は頭が回る感じがする。出力は…これはなんだろう。すっきりする感じかな。なんとなく名称に納得するな)
縁台に座りながら、アキトはのんびりと行き交う人々を観察する。
(入国審査官と同じような羽織袴風の服装の人もいれば、俺が買ったようなシンプルなもの、洋風っぽい感じの人もいるな…シンプルだが、色や柄は様々だ。老若男女が談笑しながら歩き、市場での買い物を楽しんでいる様子…ちょっと懐かしくなってきたな)
「こうやってみると、必ずしも変化を拒むわけではないんだな」
アキトはつぶやく。
「COBOLという言語もそう、古さと堅牢さを併せ持つけど、結局は今でも重要なシステムを支えている。こういう処理が必要なものもある。軽んじてはいけない」
リリスがお茶をすすりながらつぶやいた。
そこかしこで人々が行き交い、町は活気に満ちていた。子供たちが輪投げのような遊びに興じる姿も見える。
「あれは「PERFORM LOOP」と呼ばれる昔からある遊びですね」
店主がお茶のおかわりを注ぎに来てくれる。
(この国に来て良かったな。ホッとするような懐かしさと、新しい発見が同居している)
お茶をゆっくりと楽しんだ後、アキトたちは女将の実家である「アンティーク・コーディング」に向かった。
さて、上中下の最後になります。




