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雲行き事情
天気予報などあてにならない。
「今日もよく晴れそうだ」
横断歩道を渡ろうと青になるのを待っているわたしの横で彼はそう言った。
本日の空模様はどちらかというと雲が多い。周りに立っているひとたちも傘をもっている。予想では昼過ぎから雨だ。
「ね?」
彼はそれでもにこにこと視線を上に向けていた。
わたしはその目線の先を追って
「そうね」
と返した。
今日もよく晴れそうだ。
特別な日になるだろう。
晴れの日とは、そういうこと。
響くサイレンとランプが赤信号の間を縫って止まる。周囲の悲鳴と怒号で湿度が上がっていくようだ。
「傘はいるかしら」
ビルの屋上から下がる大きなてるてる坊主を横目に青にかわった横断歩道を彼と並んで歩き出した。