10 朝食が試練の場とは知らなかったYO☆
コックと思しき男性が彼の横に立ち、今朝の献立の説明をしている。俯きつつ聞いてはいるが、何を言っているのかさっぱりだ。
飯なんて、食ってうまけりゃそれでいいんじゃないかと思うんだが…。
しかし、その説明の長いこと…。せっかく温かそうな料理も冷めてしまいそうだ。
もしかして彼は猫舌なのか?それを隠すためにこんな長々と説明させてるんじゃなかろうか!?
なんて下らない事を考えていたらようやく説明の終えたコックが目の端から消えた。
バレないように深くため息を吐くと、クッと小さな笑い声が聞こえた。
どうやら彼にはバレたようだ。
「さあ、存分に食えよ」
彼の声に促されたように、紺色ののスカートを穿いた女性たちが私の両側に立ち、空だった皿に給仕を始めた。
スープやメインと思しき魚?料理は既に用意してあったが、サラダやヨーグルトのようなドロドロとした物体が空の皿を埋めていく。三つほど用意してあったグラスにも様々な液体が注がれていく。
その様を呆然と眺めながら、脳裏ではどうすればいいんだぁぁああっ!!と叫んでいる私がいた。
「食わんのか?」
突然話しかけられ、呆然とした顔のままその声の方を見ると、怪訝そうな顔をした彼と目があった。
「昨夜は気持ちいいほどに食べていたが、…
腹でも壊したか?」
心配してくれるのはありがたいが、その心配ははっきり言って迷惑だ!
少しムッとなって彼を見る。彼はそんな私を面白そうに眺めながら、いつの間に彼の横に立っている燕尾服の男性から何事かを聞きながら、優雅に食事を進めたいた。
なんか、ムカつく。
そう思ってはいても、これだけひとがいれば口に出せるわけもなく…。しかし、問題はテーブルマナーだ。見よう見まねで取得できるようなスキルを私は持ち合わせていない。
が、幸いに日本には良い言葉があるのを思い出す。このムカつく感じの男に聞くのは癪だがそれを実行しなくては、ここにいる皆に笑われてしまう。それだけは避けたいものだ…。
重い口を何とか開き、言葉を発する。
「…て、テーブルマナーがわかりません」
お前…、昨日は気にしてなかっただろうみたいな顔すんなっ!!
聞こえるか聞こえないかぐらいの声でなんとか伝える。隣の燕尾服の男性がおやっと眉を上げたのが視界に入ったが、無作法で恥を晒すより作法を知らないと正直に話した私を褒めて欲しいね!
「そうか、ならば…」
面白そうな顔から一変、優しげな顔になる彼だが…なんだか黒いものが渦巻いているように見えるのは私だけなんだろうか。
そんな彼は、徐に立ち上がるとツカツカと歩み寄ってくる。何事かと窺っていると、私の隣の席の椅子を引き寄せ、ぴっちりと間を詰めて椅子を置きそこに座る。
「…近いから」
「そうか?」
抗議すれば、笑顔でかわす彼。
「この方が教えやすい」
当然のことを言っているように聞こえるが、私は騙されないぞ!一睨みしてやるのは忘れない。
背後に視線を感じないものの、ありありとこの状況を気配で察知しようとしている他の人たちのすがたが浮かぶ。
全く彼が何をしたいのか掴めない。
「さあ、楽しい食事を始めよう」
その低くて無駄に色気のある声は悪魔の囁きにしか聴こえませんっ!!この状態が既に楽しさから程遠いつーのっ!