プロローグ『すべては、一粒の光る白飯から始まった』 1. 支援幕舎に漂う香りは『現有戦力の最大効力発揮だ!』
「うめぇ……! なんだこのカレー、五臓六腑に染み渡るぞ!」
「肉が柔らか過ぎ〜!何時間煮込んでます?」
「マジで生き返る……! 糧食班長、おかわりいけますか!」
「少し多めに作ったから、好きなだけ食べて良いよ〜」
ここは激しい揺れが襲った被災地。
その復旧支援にあたる派遣部隊本部の給食幕舎には、作業を終えた隊員たちの威勢の良い声と、湯気とともに立ち上る芳醇なカレーの香りが充満していた。
2台の【野外炊具1号改】の前に立つのは、支援小隊の糧食班長を務める二ノ宮 仁2等陸曹だ。
お玉を手にニヤリと笑う二ノ宮の仕込みには、ちょっとした「からくり」がある。
そんな二ノ宮の料理に対するテーマは【料理は科学と一手間の愛情】らしい。
今回の特製カレーの肝となったのは、テントを回って食べ残しを集めた野菜ジュースと、増加食や地元の方々から差し入れでいただいた炭酸飲料だ。
シュワッと弾ける炭酸は、フルーティーな甘みと炭酸ガス効果で材料を柔らかくさせる、そして野菜とフルーツの自然な酵素がさらにタンパク質に働きかけ、程良い酸味がスパイスと溶け合い、極上の深い味わいを生み出している。
小ネタとして、炭酸ガスはアク取りも楽になるのだ。
『よしよし、綺麗に平らげてくれたな。本日も残飯0だ!』
空になった食器を片付けて満ち足りた顔で去っていく隊員たちの背中を見送りながら、二ノ宮は心のなかで小さくガッツポーズを作った。
二ノ宮には、密かな夢がある。
自衛隊でしっかりと資金を貯め、退官した後は、昔アニメで見て憧れた『居酒屋のぶ』のような温かい雰囲気の洋風居酒屋――あるいはバーかパブのようなお店--を開くことだ。
一日頑張った人々が肩の荷を下ろし、美味しい料理とお酒でほっと一息つける。そんな優しい場所を作りたい。
今でこそ部隊を代表して糧食班長を任されて腕を振るう二ノ宮だが、入隊当初は包丁どころか自炊すらまともにしたことがなかった。
そんな彼がなぜ、食の力に魅せられ、料理に夢を抱くようになったのか。
記憶の針は数年前――自衛官としての己の存在意義を見失い、暗闇のなかで不貞腐れていた陸士時代へと遡る。




