城下町と事件➁
『助けて! お兄ちゃん、助けてニャ!』
「どうしたの!? 何があったの?」
『主人の店に、怖い奴らが押し入ってきたの! このままだとご主人が殺されちゃうニャ!』
切迫した声に、ガルの目が鋭く光る。
「よし、俺様たちが助けに行くぞニャ!」
「えっ、待ってくれよガル! 俺は剣も使えないし魔法も習い始めたばかりだぞ!? 何もできないって!」
優斗が焦って叫ぶと、周りを取り囲んでいた猫たちが口々に言い放った。
『何を言ってるニャ! お兄ちゃんはすっごく強いニャ!』
『そうニャ! 僕たちには分かるニャ!』
「……え、俺が強い……?」
根拠のない確信に満ちた猫たちの言葉に首をかしげつつも、見捨てるわけにはいかない。優斗は助けを求めてきた猫の案内に従い、現場へと急いだ。
移動の道中、ガルは案内役の猫から冷静に敵の情報を聞き出していく。
「敵の数は何人だニャ?」
『五人ニャ! みんな大きくて鋭い鉄の棒(剣)を持ってるニャ!』
情報の整理を終える頃、一同は一軒の店へと到着した。そこは、各種の魔導具を取り扱う小さな魔道具屋だった。
ドカバキッ! と優斗が店へ雪崩れ込むと、追いついた猫たちも一斉に店内へとなだれ込み、威嚇の声を上げた。
「フーッ!!」「ニャーッ!!」
「……あぁん? なんだこの猫どもは?」
店内には、剣を抜いた凶悪な男たちが五人。奥のカウンターでは、店の主人が恐怖に震えながら丸くなっていた。怪我はなさそうだが、一刻を争う状況だ。
「ハッ、猫が何匹集まったところで何ができるってんだ。おいガキ、怪我したくなけりゃ大人しく帰りな」
盗賊のひとりが下品に笑い飛ばす。
その直後——ッ!
「ぬあぁぁッ!」
ガルが弾丸のような速さで飛びかかり、盗賊の顔面を爪で切り裂いた。
「クソがッ!」
男たちは激怒し、狂ったように剣を振り回す。ガルや他の猫たちは素早く攻撃をかわし、相手の足や手に飛びかかって引っ掻くが、体格差は歴然だった。
「邪魔だッ!」
力任せに振るわれた腕や剣の腹に弾き飛ばされ、猫たちが悲鳴を上げて床に転がる。
『ギャニャッ!?』
「みんな……ッ!!」
理不尽な暴力に傷つく猫たちの姿を見た瞬間、優斗の頭の中で何かが弾けた。
「ふざけるなーーーーッ!!」
怒りに打ち震えながら、優斗は店先に転がっていた頑丈な木の棒を拾い上げた。
次の瞬間、全身に奇妙な感覚が駆け巡る。
(……軽い……身体が、信じられないくらい軽い……!?)
しなやかで、どこまでも高く跳べそうな感覚。それはまるで、猫の身体能力そのものを一時的に借り受けているかのようだった。
「このガキがッ!」
襲いかかってくる盗賊の突きを、優斗は猫のような反射神経で紙一重でかわした。
ドカッ!
「ぐはっ!?」
踏み込みざま、手に持った木の棒を思い切り男の顎へ叩き込む。そのまま間髪入れずに次の敵の懐へ潜り込み、側頭部をぶち抜いた。素早い身のこなしで次々と盗賊を無力化していく。
「チッ、このガキ……! 魔法で吹き飛ばしてやる!」
残されたリーダー格の男が剣に魔力を込め、怪しい光を放ち始めた。狙いは優斗だ。男が攻撃魔法を放とうとしたその時——
「させないニャッ!」
満身創痍のガルが、優斗を庇うようにその前に立ち塞がった。
「ガル、ダメだ!!」
魔法の光が放たれようとした、まさにその一瞬。
「そこまでだ、賊どもーーーーッ!!」
ドドドバババッ! と店の扉が破壊され、猛然と踏み込んできた巨大な影があった。
王国最強の騎士——ガルム騎士団長だ!
実は、店に向かう途中で分かれた猫たちが、言葉は通じずとも必死の態勢でガルムのもとへ駆けつけ、袖を引っ張ることでここまで案内していたのだった。
店内の惨状——ボロボロになった猫たちと、愛猫ガルの傷ついた姿を目にした瞬間、ガルムの顔から血の気が引き、恐ろしいほどの殺気が爆発した。
「我が愛猫……そして無抵抗な猫たちを傷つけた罪、万死に値するッ!!」
「ひっ、騎士団長……!? に、逃げ——」
戦意を喪失して逃げ出そうとした盗賊のリーダーだったが、時すでに遅し。ガルムの一撃によって一瞬で壁ごとぶち抜かれ、文字通りボコボコにされて鎮圧されたのだった。
それから間もなく、城の衛生兵たちが駆けつけ、優斗や猫たちはすぐに手当てを受けた。幸いにも全員命に別状はなく、手厚い治療により大事には至らなかった。
「本当に……本当にありがとうございました……!」
怯えていた店の店主が、何度も頭を下げて涙を流した。
店主の名前はレーベスト。この店で貴重な魔導具を扱っており、今回はそれを狙った盗賊たちの犯行だったという。
そして、彼に抱えられていた店の愛猫——ルーノが、優斗の手にそっと頭を擦り付けた。
『お兄ちゃん、助けてくれて本当にありがとうニャ』
『レーベストはいつも僕たち野良猫に美味しいおやつをくれたり、優しく遊んでくれる良い奴なんだニャ。守ってくれて嬉しかったニャ』
どうやらレーベストは、街の猫たちの間でも有名な「大人気のおじさん」だったらしい。
怪我が治り、すっかり元気を取り戻したガルが、優斗の膝にポンと前足を乗せた。
「ふふん、俺様の相棒ならこれくらい当然だニャ!」
「ガル……ありがとな、俺を庇おうとしてくれて」
頭を撫でると、ガルは照れくさそうに「にゃ〜」と小さく鳴いて顔を背けた。
事件は見事に解決し、優斗の『猫使い』としての力は、情報収集だけでなく、猫たちとの深い絆と「身体能力の共有」という新たな可能性を証明することとなったのだった。




