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魔王討伐? 勇者にお任せします。ハズレ職『猫使い』の俺は、モフモフたちと異世界で気ままに暮らします  作者: シャロ


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勇者召還

藤宮優斗は、幼いころから異常なほど猫に好かれる体質だった。街を歩けば野良猫たちが集まり、優斗を見つけるや否や膝や肩へと飛び付いてくる。優斗自身も大の猫好きであり、その体質をむしろ喜ばしく思っていた。

あの日の学校帰りに近所の野良猫へエサをあげに行こうとしていたのだ。しかし、足元の道路が突如として眩い光を放ち、視界が真っ白に染まった。

光が収まると、そこは見たこともない石造りの大広間だった。

目の前には豪華な玉座に腰掛ける威厳ある男と、その傍らに控える知的な男。そして周囲には、水晶玉と杖を手に取ったフード姿の老人が立ち並んでいた。見るからに、彼らが自分を呼び寄せた張本人——魔術師のようなオーラを全開に漂わせている。

「ついに……異界の勇者召喚に成功したのか?」

玉座の男が、重厚な声を響かせた。

「はい、陛下。間違いなく成功いたしました」

応じた魔術師の言葉を聞き、優斗は眉をひそめた。

「あの……どういうことですか?」

しかし、優斗の声は完全に無視された。

「では、能力の鑑定を行わせていただきます」

老魔術師が優斗に近づき、手に持った杖をかざす。広間全体にピンと緊張感が走り、一同が真剣な眼差しで見守る。……だが、魔術師は目を見開いたまま黙り込んでしまった。

「……どうしたのだ、エスタフ?」

傍らに立つ男が、痺れを切らしたように尋ねる。エスタフと呼ばれた老魔術師は、ひどく気まずそうに唇を震わせた。

「……申し上げにくく存じます。召喚された方は……『勇者』ではありませんでした」

「なんだと……?」

玉座の男が落胆の色を隠さず吐息を漏らす。

「では、どのような職業を持っておられるのだ?」

「あの、私の声聞こえてますか!?」

再び叫んだ優斗だったが、またしても無視された。エスタフは冷や汗を流しながら、絞り出すように答えた。

「……『猫使い』と、表示されております」

静寂が広間を支配した。全員が唖然として固まっている。

「……余の聞き間違いであろうか。もう一度申してみよ」

「……『猫使い』でございます、陛下」

傍らの男が困惑したように額を押さえた。

「猫使い……そのような職業、古今東西の文献でも耳にしたことがないが」

「はい……私めも永い時を生きてまいりましたが、一度たりとも聞いたことがございません」

理不尽な状況と度重なる無視に、ついに優斗の堪忍袋の緒が切れた。

「無視すんじゃねえよ!!」

怒声が静かな大広間に響き渡る。

「勝手にこんな場所に引っ張り出しておいて、挙げ句の果てに呆れ顔だと!? お前たち、何様のつもりだ! さっさと元の世界に帰せ!」

優斗の怒号に、その場にいた全員が後ろめたそうに視線を泳がせた。

「おい、また無視するつもりか!?」

「……召喚者よ、誠に言いづらいのだが……一度召喚した者を、元の世界へ戻す術は存在しないのだ」

「はあ!? 戻せない!? ふざけるな! お前たちの都合に俺を巻き込むんじゃない!」

怒りを爆発させる優斗に対し、玉座の男——国王がゆっくりと立ち上がった。そして階段を下りると、優斗のすぐ目の前で深々と頭を下げたのだ。

「……すまなかった」

「お戯れを、アルカディア陛下! 顔をお上げください!」

宰相が慌てて制止しようとするが、国王は頭を下げたまま、真っ直ぐに優斗の目を見つめた。

「お主が怒るのも当然だ。我らの勝手な都合でお主をこの世界に引きずり込み、その上、還す術すらないのだからな……。余はお主に望むもの全てを与えよう。だが、それでこの罪と責任が消えるとは到底思っておらん」

その顔には、一国の王としての誠実さと、計り知れない責任感が滲み出ていた。優斗は胸の立ち昇る熱を少しだけ落ち着かせ、息を吐いた。

「……ここはどこだ。お前たちは何者で、何のために俺を呼んだ?」

国王の合図を受け、傍らの男が恭しく一歩前に出た。

「お答えいたします。私はこのアルカディア王国の宰相、ギリアムと申します。こちらにいらっしゃるのが我が主、オスワルド国王陛下。そしてこの者が、王国が誇る大賢者エスタフです」

ギリアム宰相は一呼吸置き、重々しい口調で続けた。

「あなた様を召喚いたしましたのは、予言により『魔王の復活』が示されたため。古より、魔王を討ち果たすことができるのは異界の勇者のみと伝えられております。そのために、この魔法石を用いました」

「魔法石? その水晶玉のことか。それがあれば、俺を戻せるんじゃないのか?」

優斗が問うと、大賢者エスタフが杖の先の水晶を愛おしそうになでながら答えた。

「左様にございます、この水晶が魔法石。しかしこれは『異界の者を招く』ためだけの単体魔導具。魔法石一つにつき、一人しか喚び出すことは叶いません」

「その魔法石は、他にないのか?」

「私どもの知る限り、世界に現存する魔法石は、我々が所有するものを含めて僅か五つにございます」

納得いかないように優斗は腕を組んだ。

「……過去に呼ばれた異界の奴らは、全員『勇者』だったのか?」

「いいえ」とエスタフは首を振る。「かつて顕現された異界の方々のうち、『勇者』の職をお持ちだったのはお一人だけでした。残る四お方は、それぞれ異なる職に就いておられたと記録されております」

「なら、なんで俺の職業を見てガッカリしたんだよ」

ギリアム宰相は気まずそうに視線を落とし、徐々に声を小さくしながら明かした。

「……大変申し上げにくいのですが……『猫使い』などという職業、前例がございませんで……。過去に召喚された方々は、勇者は勿論のこと、『聖女』『賢者』『剣聖』といった、一騎当千の力を秘めた絶大な職業ばかりでしたゆえ……誠に勝手ながら、過度な期待を抱いてしまっていたのです……」

優斗は呆れたように息を吐いた。

「……で、これから俺はどうすればいいんだ? まさかその『猫使い』で魔王を倒してこい、なんて言わないよな?」

すると国王が優しく、しかし確固たる声で宣告した。

「滅相もない。お主は城の部屋でゆっくりと身体を休めるとよい。望むものがあればベルを鳴らすか、近くのメイドに申し付けよ。あらゆる手配を約束しよう」

ギリアム宰相が丁寧に一礼する。

「……不躾ながら、あなた様のお名前をお聞かせ願えますでしょうか。なんと呼ぶべきか分かりかねますので」

「……藤宮優斗だ」

「藤宮殿か。この度の非礼、重ねて詫びる」

国王はそう言うと、再び深く、深く頭を下げた。王のその行動に合わせるように、宰相ギリアムと大賢者エスタフもまた、深く低く頭を垂れるのだった。




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