060●天下の台所の殺し屋やねん
「親方、そやけど、またおんなじトコからの仕事ですか。」
「せや。あんたの腕を見込んでのこっちゃ。頼んだで。」
いくら天下の台所、八百八橋の賑わいがあるゆうても、
揉め事のたびに一人ずつ消していくっちゅうのは、
どないなもんなんやろか。
うちは聞き取ったヤマの仔細を頭に叩き込み、親方の家を出る。
表向きは単なる古びた質屋や。
こんな子どもが出入りしてても、
遊びに来たんか、親の質草を持ってきたんか、気に留める人はおれへん。
「まさかこんな女の子がなんて、誰も思わへん。大丈夫や、行って来てえや。」
親方はそう言う。うちも、喰うていかなあかん。
捨てられて途方に暮れてたんを拾うてくれたんは、親方やから。
袖の中に「モノ」を仕込んで人混みの中を行く。
あっ、ほんまにいてはるわ。
途中の茶店で一服していくらしい。
うちは顔の汚れをわざと目立たせ、背中を丸めて歩み寄る。
「おっちゃん、ちょっと恵んでくれへんか。」
「なんや、あんた。物乞いか。わしはそんな功徳家やないで。あっち行ってや。」
邪険に手を振るわ。
うちは構わず、食い下がる。
「そんなこと言わんと。一文でええねん。かわいそやと思うて、ちょうだいなあ。」
周りの客がちらちらとこっちを見始めた。
やっぱり焦るやんな。
大店の番頭さんが、お忍びで遊び歩いてるってバレたら、
旦那さんに大目玉や。
早よう追い払いとうなるやん。
思うたとおり、巾着を取り出した。
うちは上目遣いに擦り寄り、隙を見て指先を弾く。
茶碗の中に、ほんのひとひら、舞い落ちた。
「どや、これで堪忍や。どっか行ってえや。」
「おおきに、おっちゃん。ほな、さいなら。」
うちは足早に場を離れる。
あの薬は、ゆ~っくり、自然に効く。
誰もうちのせいやなんて気づかれへん。
これで今夜もお夕飯にありつける。
日が暮れる前に、親方のとこに帰って
「ちゃんとやったで」と言わなあかんな。




