歳
翌日。昨日の晴天が思わず恋しくなってしまうほどのどんよりとした曇り空。
流される形で仁が引き受けた、家の異変の調査依頼。そのため、約束の時間に依頼者の家に、仁は訪れた。
ピンポーン
依頼者の家のドアホンを、仁は押す。
閑静な住宅地に建つ、依頼者の家は、屋敷や豪邸と呼べるほどの家ではない。しかし、住んでいる人間の十分な地位を感じさせる、少しくたびれているが立派な構えをした家。しかし、反応がない。
(……もしかして、留守?)
仁がもう一度、ドアホンをおそうとした時。
「橘」
「ハヒ!?」
背後からの女性の声に、驚いた仁が間抜けな声をあげる。後ろを振り向くと、肩を震わせる依頼者の横山玲奈がいた。
「……ハヒって……」
仁の様子に、耐え切れなかった玲奈が笑い出す。
いつの間に、後ろにいたのだろうか。仁はまったく気がつかなかった。
「えーと…あの、おはようございます……〈火焔の魔女〉さん……?」
とりあえず、仁は挨拶した。
「ああ、おはよう。橘、お前は面白い男だな」
「……ソウデスカ」
気持ちのいい笑顔の玲奈に、仁は何も言うまい。どうにか気を取り直して。
「家にいるのは〈火焔の魔女〉さんだけか?野崎さんは?」
「祥子さんなら庭だ」
玲奈は庭へと、仁を連れて行く。仁がとんでもないめにあったあの庭だ。
「それと、橘、私のことはあだ名の、〈火焔の魔女〉ではなく、名前で呼んでくれ。名字でも、下の名前でも構わない」
「……ああ、わかった。横山さん」
仁の返事に玲奈はよしと頷く。そして、庭に向かって歩き出す。
自分が〈火焔の魔女〉であることを、玲奈は肯定した。そうなると、湊が心配していたことが起こるかもしれない。
(……まぁ、大丈夫だよな……)
まぁ、なんとかなると前向きに、玲奈と共に仁は庭に向かう。
余談だが、玲奈への呼び方は、親しくない女の子の下の名前呼びはよくないだろうと、こうなった。
「そうだ、祥子さんからの許可は得た。家に滞在するのはお前だけでいいのか?」
家の異変は夜中に起こっている。調査のために、祥子から家の滞在の許可をもらってきてくれと、仁は玲奈に昨日頼んでいた。
「ああ。『橘探偵事務所』は俺一人だけだから」
『橘探偵事務所』の所長が橘愁一郎であった時は他に社員がいたが、今はいろいろとあって仁一人だけだ。
「驚きだ」
「えっ、そう?」
玲奈が感心するかのように言う。そんなに驚くことだろうか。
「私とそう歳が変わらない。まだ未成年が経営をしているのだ。すごいじゃないか」
「え?」
「え?」
仁と玲奈の足が止まる。疑問符を互いに浮かべ、仁と玲奈は、顔を見合わせる。
まさかという顔で、玲奈が口を開く。
「……失礼な質問だが、橘。歳はいくつだ?」
「…………」
仁は無言になった。この流れは何回も経験している。黙っているままではいかないので、仁はか細い声で答えた。
「……21」
「……ハ?……」
玲奈が驚いて、仁の顔をガン見。
「……本当に21か?……その顔で?」
「……そうだ……この顔で正真正銘21歳の成人だ……嘘じゃないからな……」
もう慣れた手つきで、仁は車の免許を取り出す。そして、はっきりとわかるように、玲奈に見せた。
そう、仁は21歳なのに16,17歳にしか見えない童顔だった。仁の免許に書かれている生年月日を確認した玲奈は、仁の年齢が本当だと理解した。
「……申し訳ありません。橘さん。私はてっきり同じ歳頃かと勘違いをしていました。誠に申し訳ありません」
玲奈が深く、仁に頭を下げる。話し方も変わっている。
「……いや、間違われるのは慣れているから大丈夫。それと、わざわざ敬語とかしなくていいから、さっき同じでいいから」
「よろしいのですか?」
「ああ……むしろ、お願いします」
仁の年齢を知った後に、改めて年上扱いは、虚しさを感じさせるのだ。
「……わかった。そうさせてもらう」
「ああ、お願い」
年下に間違えられることの諦めのため息をついた仁はふと思う。仁が自分と同じ歳頃だと、玲奈は勘違いしていた。
「……ちなみに横山さんはいくつ?」
仁が恐る恐る聞いてみれば、玲奈は仁から眼をそらして気まずそうに答えた。
「……17歳だ」
「……え?……17!?つまり、高ニ?!」
「……まぁ、高校に通っていたら、そうだな」
てっきり大学生かと思っていた。玲奈が想像よりも年下だったことに、仁は驚きを隠せなかった。




