第四十四話 敗北
『ゼトのターン:???』
ゼトは虚空を見上げている。
「チャンスだ、行くぞ!!」
『タクヤのターン:戦う――、斬り付ける!』
「ガギィン!」
『ヒット! しかし効果無し!! ゼト、HP:564/564』
「か……、硬い……!」
「(無駄かもしれねぇけど……)やるしかねぇか! はぁあああ!!」
『タケヒコのターン:戦う――、斬り付ける!』
「ガギィン!」
『ヒット! しかし効果無し!! ゼト、HP:564/564』
「ダメか……」
「ダメ元でも! 行きます!!」
『ノノのターン:戦う――、サンダー!』
「ギィン!」
『ヒット! しかし効果無し!! ゼト、HP:564/564』
「! やっぱり……!」
「こりゃ大変♪」
『セルジュのターン:防御魔法――、シールドアップ!』
セルジュはタクヤに対し、杖を振った。
「シュイーン」
『タクヤの防御力が上がった』
「とりあえずコレで♪」
「おお! セルジュ、サンキュー。でも……」
タクヤはステータスを確認した。
『ゼト、HP:564/564』
「今までの敵の、5倍以上のHPで、全員の攻撃がノーダメージかよ……」
パーティに戦慄が走る。すると、
「もう、終わりか……?」
ゼトがゆっくりと口を開いた。そして、右手をこちらに差し伸べ、呪文のような言葉を発した!
『ファイナル……トルネード……!』
ゴォォオオと、部屋中に突風が吹き荒れた。
「ピシ……パリィィン!!」
窓のガラスもひびが入り、粉々に割れていく。パーティは、その突風に耐えられなくなった。タクヤはやっとこさ言葉を発した。
「コレって、俗に言う負けイベントかぁああ!?」
「そーいうコト♪」
「ゴォォオオ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ああああああああ!」
「ぎゃああああああああ!!」
「あ――れ――♪」
パーティは『ゼトの城跡』から吹き飛ばされ、散り散りになった。
――、
タクヤはうつ伏せになって気を失っていたが、徐々に意識を取り戻した。
「……。こ……、ここは?」
ゴォォオオと風が吹いていた。一面、緑が揺れていた。
タクヤが目覚めた場所、そこは『草原』だった。
「ここは……最初のマップ……そうだ! 皆は!?」
周りを見渡しても、パーティの面々は居なかった。
「クソッ! ……タケヒコ、ノノ、セルジュ……」
途方に暮れるタクヤ。数分、俯き考え込む。
「! そうだ! 始まりの村に戻れば……!」
タクヤはセレクトボタンを押し、地図を開いた。
「始まりの村に……と、!」
何かがおかしい。
「アレ? 選択できない」
始まりの村を選択しようと、悪戦苦闘するタクヤの前にテロップが現れた。
『始まりの村には戻れません』
「っはぁぁあああ!!!? 何で!? どうして!? 何故!!!?」
発狂寸前のタクヤ。ふと、何かに気付く。
「あ? チャット機能?」
セレクトメニューに、『チャット機能』なるものが。
「おっ。これ使えば、連絡とって待合せできるんじゃね? なるほどな、マルチプレイをこーやって連絡とってやり合うのな。知らんかったわー、おし! 早速使うか」
しかし――、
『チャット機能は、現在使えません』
「つっかえねー!!!! 文字通り使えねぇなこの機能!! まて、“現在”ってコトはいずれ使えるようになるのか……!」
「そうだ! 一旦VRゴーグル外して、タカヒロ(タケヒコ)に連絡とれば……」
「ガチャ」
タクヤは現実世界でVRゴーグルを外し、早速タカヒロに電話を掛けた。
「――、――、――、――、――、――」
「出ねぇぇえええええ!! タケヒコ(タカヒロ)、リアルでも何かあったんか――!!!?」
ひとまずVRゴーグルを装着し、ゲームに戻るタクヤ。俯き、絶望感に浸った。
が、数十秒後、タクヤの脳裏にとある考えが、稲妻の様に閃く。
「コレ……今も、『負けイベント』中じゃね?」
タクヤは再び地図を開く。現在移動可能なマップを探る。
「今行ける場所……『草原』、『深き緑の森』、『底無しの沼地』、『神殿』で、『ゼトの城跡』……は当然行けねぇか。ってコトは! この4マップから! 仲間を見つけ出せって、コトだよなぁ!?」
ならばと、タクヤは『草原』中を探索し始めた。
およそ20分後――、
「ダメだ……。何の手掛かりも無ぇ」
ゴロンと雑草の生い茂る草原に寝転ぶ。探索の最中、スライム達を倒して手に入れたコインを見つめて、再び考え事をするタクヤ。
(探す対象とマップが多いなら――)
立ち上がり、両手を上げて伸びをする。
「色んなマップを手あたり次第当たる方が早い――、か!」
タクヤは再びセレクトボタンを押した。
「地図! 次は順当に……『深き緑の森』!!」
タクヤは『深き緑の森』に移動した。
木々が生い茂っており、鳥類が遠くで鳴き、腰の高さよりも高く伸びた雑草が揺れる音のする、不気味な森――。
そこでタクヤはひとまずパーティの面々の名前を呼ぶことにした。
「タケヒコー! ノノー! セルジュー!」
「……」
返事は返って来ない。
(ここも……誰も居ないのか……!?)
絶望していたタクヤに、一筋の光明が――、
「コレは……ノノの……!?」
雑草をかき分け、進んだところの土が見えている地面に、ノノがかぶっていた帽子の布の切れ端が落ちていたのだった。
「ノノが……居るのか……!?」