生きる場所を選ぶ【4】
『コニッシュ、お前は……我々の知らないところで野垂れ死ね!!』
実の親から言われた言葉を思い出す。
『皆さんは惑わされているんです!』
『騙していたのか……君は、そんな人だったのか……!?』
『お姉様、そんな人だったなんて……! ひどい! 最低だわ!』
『なんて女だ。セリックだけでなく王子まで騙していたなんて』
『君とは結婚できない。そんな人と同じ家で、信頼関係など築けない』
違う、私は騙そうとしたわけじゃない。
惑わそうとなんで思ってなかったの。
本当よ! お願い、信じて……!
信じて……お願い、誰か……。
「………………」
手を伸ばしても、伸ばしても、誰も受け取ってはくれない。
声も届かない。
亡霊の声など、誰にも聴こえないからだ。
私は満足しておくべきだった。
たとえ使用人に食事を忘れられるほど、存在感のない状態だったとしても、あの頃はまだ『セリックの婚約者』という価値があったのだから。
でも、欲をかいた。
もっと、みんなの……和の、中へ……。
もっと、普通に、みんなとお話ししたり、お茶したり、笑いあったり、したい、なんて。
「あ、いえ、私……私のことは、どうぞ、捨て置いてください……」
「故郷に帰るのかい?」
「……いえ……帰る家は、ありません。ですから、どこかで……父の言いつけの通りに……野垂れ死ねるように……します。私はそれしか……できないので……」
「は?」
この【魅了の魔眼】を得て、こうして人と話ができるようになったのは贅沢だったのだ。
助けてもらったのも、仮初の幸せ、幸福だ。
得てはならない。
私には過ぎたもの。
もらってはいけない。
私には分不相応。
身の程を知れ。
私はの魔眼は私の意思とは無関係に人を謀るのだ。
なんてひどい人間なのだろうか。
ジェーンさんは「生きるのに必要な力」を与えてくれると言っていたけど、私は人を騙して生きなければならない人間ということではないか。
そんな生き物、いない方がいいに決まっている……!
「…………。はっ! あ、あまりのわけわからなさに意識が飛んでた!」
「し、しっかりしてください、ミゲルさん! コニッシュさん、なんでそんなこと言うんですか! あなたは俺の命の恩人だ、そんなこと言わないでください!」
「……で、ですが……私の左眼は魔眼で……人を魅了して、言いなりにさせるんです。それが闇の聖霊神が私に与えた加護なのです。私はそれを、望みません」
「そ、そんな……でも……」
立ち上がったシンさんが、目の前に来てしゃがみ込む。
あなたを助けたのだって、ただの偶然。
招き人は大切にされて然るべき。
でも、私はそうではない。
私のような災いはいなくなった方がいいに決まっている。
この国では大切にされるべき『神子』とやらに、なりえる存在なのかもしれないけれど……今のミゲルさんが私の【魅了の魔眼】に魅了されていない確証もない。
そのためにこの国全体に迷惑をかけることになったら?
考え過ぎかも知れないけれど、私には前科がある。
自分の加護を過小評価して、レイヴォル王国から追い出されたのだ。
私は生きていない方がいいに決まっている。
できれば痛みもなく楽に死にたいけれど……人を騙して苦しめてしまった私は苦しんで死ぬべきなんだろう。
「君の気持ちはわかった。だが、我が国では闇の聖霊神より直接祝福を賜った者を蔑ろにはできない。そう、法でも定まっている」
「っ……」
「それに君の魔力量はこの国では平均以下だ。君はその魔眼により周囲を混乱させたくないようだけど、この国でその魔眼の餌食になる者はいない。安心していい」
「ぇ」
顔をあげる。
確かにジェーンさんにも、昨日そんな感じのことを、言われたけれど……。
「闇の聖霊神が直々に選んで加護を与えた者を野垂れ死になどさせるわけにもいかないし、どうか僕の顔を立てると思って死ぬのは諦めてくれないかな。君が死ぬというと多分兄……陛下も困る。生活の保障はするし、ダメかい?」
「……え、で、でも……私、本当になにもできないですし……」
「それならそれでもいいさ。政治的に利用するにも君の魔力とその加護は程よく無能でこちらとしても助かるくらいだし」
「……ぇ、ええ……?」
む、無能なのが? 助かるの……!?
「いるだけでいい、君は。この国にいてくれるだけで」
「そ、そんな……でも、私、本当に役立たずで……」
「それはこれまでの話だろう? これからはそうじゃないかもしれない。いや、僕の政敵の役に立たれるのも困るんだけど」
「そ、それは……!」
「ふふ、まあそういうわけでね、コニッシュ。人の役に立つということは誰かを困らせることもある。難しくこだわって考える必要はない。生きるというのは押しつけるくらいがちょうどいい。もっと図太くなっていいんだ。君みたいなのは特にね」
え、ええ?
困惑した。
ものすごく。ただひたすらに。
困り果てて俯くと、ミゲル様も私の手前にやってきた。
なんかいい匂いする……!
「やりたいことを見つけなさい。やりたいこと、やってみたいことがあればなんでも挑戦してみるといい。この国で君のような神子は尊いものだ。困ったら助けを乞いなさい。頼られて嫌な気分になる者はいない。頼りすぎてはあれだけど」
「……やりたいこと……」
「シン、君もだよ。ただ、君の場合は妖魔に狙われている。自分を鍛えて、ある程度は自分の身は自分で守れるようになった方がいいだろう。武術の教師をつけるから、面倒でも学びなさい」
「は、はい!」








