生きる場所を選ぶ【3】
すごい人だ。
一目見てわかるものだとは思えないけど……ミゲル様にはわかるんだ?
それとも魔族だから?
『レイヴォル王国』では闇の聖霊神の加護とわかると嫌な顔をされた。
まあ、【魅了の魔眼】ですぐに有耶無耶になったけれど……。
魔眼の効果が【魅了】でなければ、牢にでも入れられていたのだろうか?
「まあ、それプラス、君のその魔眼が闇の聖霊神より直接祝福を与えられて得た加護だという点だ。戦闘向きではないとはいえ、光と闇の聖霊神は聖霊神の中でも聖霊神王に近い力だと言われている。元素聖霊より上の神格を持つ神だ。我が国では招き人と同等の地位……神子に当たる」
「みこ?」
「聖霊神の愛し子、という意味だよ。神子と招き人は王に次ぐ地位とされている」
「「え!」」
私と、そして招き人のシンさんが声を上げた。
だって、だって!
王に次ぐ地位!? 嘘でしょ!?
「まっ、待ってください! 招き人って、お、俺っていったい、そんな……! ええっ!?」
大混乱してらっしゃる!
いえ、気持ちはとてもよくわかります!
だって、ここ、魔族の国なのに!
「招き人は異世界から聖霊神が招いた者、あるいは妖霊神が招いた者、と言われている。異界の知識や聖霊神の恩恵が齎されるため、丁重に扱われ王の次に尊い方として敬われるのだよ」
「っ……そ、そんな」
「この国ではね!」
にこー、と笑って言うミゲル様。
レ、『レイヴォル王国』ではどうなんだろう?
あれ? そういえば『レイヴォル王国』でも招き人が現れたっていう噂を、聞いたような……。
いつだったかしら?
「ただ、妖霊神と妖魔たちにとっては招き人は『呪い』増幅器。その血肉は奪い合われ、異界の知識が詰まった頭部は妖霊神に献上されるとか……」
「っっっ」
「本当かどうかはわからないけどねー!」
安心させるためなのか、最後だけ明るく言ってるけれどシンさん顔色真っ青!
「とはいえ、我々は魔族。シンは人間だ。同族の方がいい、というのなら、彼女とともに人間の国に行ってくれ。……と、言おうと思っていた」
「ミゲルさん……」
「だが、コニッシュの事情を聞くとそれは少し難しそうだ」
「あ……じゃ、じゃあ……私を連れてきたのは……」
「そうだよ。君が闇の聖霊神に直接祝福を与えられた者だったから。そして、招き人が人間の国へ行くことを望んだ時の橋渡し役を期待した。我が国でも人間を未だ嫌う者はいる。それが招き人や神子でも。嫌な思いをさせてしまうかもしれない。それは、我々の本意ではないが……すべての民の心まで偽らせることはできない。悪意とは隠しても漏れるものだからね」
「「…………」」
私とシンさんは、無意識に視線を合わせていた。
でも、私はすぐに俯いてしまう。
私の目は、片目が【魅了の魔眼】だから。
「今後どうするのかは自分で決めてくれ。相談には乗るから、気軽に呼びつけてくれて構わない。ここは一応僕の屋敷だしね。他にも困ったことがあれば世話役に聞いてくれ」
「あ、あの、人間の国というのは、どんな……」
「それはコニッシュの方が詳しいんじゃないかな?」
そう言われて、シンさんの視線がまた私の方へ向けられる。
確かに、一応私の故郷は人間の国だけど……。
「レ、『レイヴォル王国』といいます。王政で、王と貴族が政を行い、国を支えています。私は、一応王都で文官をしていた伯爵家の娘でした」
「え、じゃあコニッシュは貴族だったんだね」
「はい……。家名は……お許しください」
もう名乗る資格がない。
頭を下げると、ミゲル様は「もちろん」と言ってくれた。
優しい人だな。
「『レイヴォル王国』では、魔族は魔物や魔獣の進化したものだと教わりました。多分、この国から来た者を『レイヴォル王国』では受け入れないのではないかと思います……」
「魔族への偏見は根強い感じかな?」
「はい……私は……体が弱くてあまり、勉強は得意ではありませんでしたが……それでも魔族には酷い偏見を持っていました。その、人間を繁殖の道具にする、とか……女は性奴隷にされるとか」
「ええ……そんなことしないよぅ」
「す、すみません」
「いや、いいけど。そう、そんなふうに教わるんだ〜」
本当に申し訳ない気持ちになる〜!
でも嘘をつく意味もないし。
「……まあ、僕や兄が処女の血を必要とするのは生態上仕方ないんだけど」
「「え?」」
「気にしないで、続けて」
聞き間違い?
今、ミゲル様から血がどうとか聞こえたような……?
「私の記憶が正しければ、一年前に『レイヴォル王国』にも招き人が現れた、というような噂がありました。私は三年前に闇の聖霊神より祝福をいただき、体調が整い始め、学校にも通えるようになって……その、とても忙しくしていたので詳しいことは、よくわかりません」
あの頃から劇的に生活に変化が起きたのだ。
それまでは体が弱くて、存在感も薄くて……。
「…………」
あの頃は幸せだった。
でも、あれは仮初のものだった。
なに一つ私自身の力で手に入れたものはない。
どこまでも空っぽ。
役立たず。
透明で——亡霊だ。
たまに出るお茶会や舞踏会でも『スウ家の伯爵霊嬢』。
そう揶揄されていたけれど、本当にその通り。
「ふむ……じゃあコニッシュはこのままこの国に残るのを希望ってことでいいのかな?」
ミゲル様の声に視線をあげ、その質問に視線を落とす。
この国に……残る。








