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生きる場所を選ぶ【2】


「そんな、ひどくないですか……?」

「人間の国はそれが普通なのかい?」


 二人はそう言うけれど、私が家の立場や王家の立場を思えば当たり前だと説明すると渋々納得してくれる。

 少なくとも、ミゲル様は「なるほど」と言ってくれた。

 唇尖らせたままなのが気になるけれど。


「そういう事情で森を彷徨っていたら、国境結界を超えてしまったのか」

「国境結界……?」

「人間と我ら魔族は五百年以上殺し合いを続けていた。そうして妖魔が極端に増え、双方妖魔によって滅亡しかけた。滅亡を回避するために光と闇の聖霊神は、我らを出会わせぬようにとそれぞれの結界の中に我らを分けて閉じ込めたのだよ」

「!」


 魔族と人間は、戦争が長く続いていた。

 それは授業でも習う。

 でも、光と闇の聖霊神が種族を分けて結界に閉じ込めていた、なんて話は初めて聞いたわ。

 それに、妖魔がそのせいで増えただなんて……。


「あ、あの、妖魔ってなんですか?」


 ミゲル様に招き人……シンさんが問う。

 そ、そうだよね、異世界の人は知らないよね。


「妖魔は、妖霊神という生き物の呪いから生まれた神に囚われた者たちのことだ。そうだな……約束通りこの世界のことを説明しておこう」


 そう言って、ミゲル様はシンさんにこの世界のことを話し始める。

 そしてそれは、私が『レイヴォル王国』で学んだものとは少し異なっていた。


 ——この世界『フェスティ・レイヴォ』は聖霊神王により創造されたという。

 聖霊神王は光、闇、水、風、土、火の六聖霊神に分かれて、世界を見守ることにした。

 命が生まれ、種が増えると種同士は生存を賭けて争い合うようになり、人間は知恵を、魔獣は力を特化していった。

 ここまではレイヴォル王国で教わったのと同じ。

 しかし、知恵をつけすぎた人間の一部は魔獣と交じり合い、その強靭な肉体を我が物としようとしたらしい。

 そうして生まれたのが混血の魔族。


「魔族は最初人間からも魔獣からも嫌われていてね。でも知恵がある分魔獣より強くなり、体も頑丈で魔力量も多かったから魔獣より強かった」

「ハ、ハイブリッド……」

「はいぶ……?」

「え、えーと、いいとこ取り、って意味です」

「ふむ、異世界の言葉か。……そうだね、それが適切だな。……まあ、そういう存在だから、すぐに人間が魔族を使役することに反感を覚え、離反したんだよ。魔族は一気に勢力を強め、知恵を持った弱い魔獣を取り込みつつ人間と戦争を始めた。自らの種を守るための聖戦と言われているが、戦争は戦争だ。美しいものなどではない」


 ごくり、と私とシンさんは息を呑んだ。

 私はレイヴォル王国で「魔族は魔獣が進化したもの」と教わった。

 でも、そうではない。

 手のひらを返した学園の人たちやセリック、妹のエリーリーズ、両親を思い出すと、ミゲル様の話の方に信憑性を感じてしまう。

 昔話なんてどこからどこまで本当か、わからないのに……。


「で、まあ、さっきの話に繋がる」

「すごい、ファンタジーな世界ですね」

「ふぁ?」

「あ、いえ……。あの、それで妖魔というのが……」

「そう、それらは聖霊神たちとはまったく出自が異なる。人間や魔族、魔獣が争い続けたことで生み出してしまった呪いの神。それが妖霊神だ」


 妖霊神……私の故郷では魔物と魔獣と魔族の神と言われている。

 でも、実際に妖魔と会って、ミゲル様がそれらと戦ったところを見てしまった今だと……それをここで言うのはいけない気がするわ。

 それにミゲル様の話と私が『レイヴォル王国』で学んだ話を比較すると、どうしても『レイヴォル王国』で伝わるものは人間に都合がよすぎる。

『レイヴォル王国』で、その戦いは「人間種を守るための聖戦であり、我らが神、光の聖霊神の助力により魔族は闇の聖霊神ごと封じられた」なんて伝わっているのだから。

 ミゲル様の話は魔族にとってもあまり都合のいい話ではないと思うのに、ミゲル様は堂々と「戦争は美しいものではない」と言い切った。

 その飾らない言葉が、とても強い説得力を生んでいる。

 戦いは美しくない。

 目の当たりにした今なら、その言葉がわかる。

 私にはただただ恐ろしいものだったから。


「妖魔は妖霊神の呪いに囚われた者たち。赤黒い鎖……『妖呪の鎖』というもので身を覆われ、妖霊神と呪いで繋がっている。倒すにはその鎖を砕くしかない」

「た、倒せるんですね」

「ただ、簡単ではない。聖霊神の加護が強い者……たとえば複数の聖霊神に祝福を受けた者や、元素聖霊神と契約している者、光、または闇の聖霊神に直接加護を与えられた者でなければ——……」

「えっ?」


 ぱちり、とミゲル様と視線がかち合う。

 ふんわりと、しかし妖艶に微笑まれて顔から血の気が引くようだった。


「やはりそうか、コニッシュ。君のその左眼は、闇の聖霊神より()()祝福を受けて得た魔眼だね?」

「……っ」

「とはいえ……【魅了の魔眼】だったか。戦闘に役立つ感じではないんだよなぁ」

「…………」


 すぅー、と背中に薄寒いものが降りてきて、そして次の言葉でホォーっと胸を撫で下ろす。

 そう、私の左眼……【魅了の魔眼】は闇の聖霊神に直接祝福を与えていただいたもの。


「! まさか、それを見抜いて私のことも助けてくださったんですか……?」

「もちろん。この国では闇の聖霊神こそ守護神だ。そんな闇の聖霊神に愛された者を、あのまま捨て置くことなどできないだろう?」

「っ……」


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