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Fill your life with love 3




「しかし、公爵様があんな人だとは思わなかった」


 荷馬車を引き、御者台に座ったラウルは晴れた空を仰いだ。


「そうね。驚いたでしょ?」


 隣に座ったヴィエラがクスクスと笑った。

 それよりも気になるのは院長だが、ヴィエラもよく分からないと首を捻っていた。公爵が孤児院を後援してから派遣された人物だとしか知らないという。


「でも本当に良かったのか?本物の令嬢になれるところでしたよ」

「ラウル!意地悪を言うのはやめてちょうだい。

 二人でいるのにこれ以上遠回りはしたくないのよ」


 分かってるでしょ、と上目遣いで睨んでくる。

(可愛い。本当、可愛い)

 ニヤニヤするラウルを小突いてから、ヴィエラは見えてきたわ、と声を上げた。


 二人は院長のお使いに王都へ向かっていたのである。

 子供たちの寝室のカーテンを作り変える為の布を買ってきてほしいという。合わせて、公爵が注文していた冬の衣類が仕上がったから受け取りにいく事になった。こうして季節毎の服が整えられるだけでヴィエラは十分だと思う。


 城門前で馬車を預け、木札を受け取る。ラウルは無くさないように紐を首に掛けて上着の中に仕舞った。


「随分混んでるな……」

 ずらりと並んだ人の列にうんざりして呟くと、前に並んだ男が振り向いた。

「兄さん達パレードを身に来たんじゃないのかい?」

「買い物に来たんだ。何かあるのか?」

「じゃあ災難だな。明日第二王子とお妃様のお披露目があるんだよ」


 男は気の毒そうに言って、せっかくだから見ていくといい、と背中をポンと叩いた。

 ラウルはちらりと隣のヴィエラを覗く。パレードは明日だ。見ていくのなら泊まりになる。この混雑では今から宿を取るのは不可能だろう。

 正直言ってしまえばラウル自身は見なくていいと思う。ヴィエラを身代わりにしたことをまだ許すことが出来ないのだ。勝手に幸せになればいいとだけ思っている。


「仕方ないわよね。お使いだもの。残念だけど諦めましょう」


 日帰りの予定だった。今日中に帰らなければ要らぬ心配はかけられないと言う。しかしヴィエラに戻った今、イサベラの姿を見る機会はもう無いかもしれない。小さな背中が残念そうに見えて、心が痛んだ。ラウルは本当にいいのかと念を押してみる。


「いいのよ。この混み様ならきっと豆粒程も見えないわ」


 確かにそうだが。どうしてパレードの事を調べておかなかったのかとラウルは悔やんだ。自分がどうでもいいからといってヴィエラもそうだとは限らないではないか。

 足早に追いかけて、ラウルは苦くごめんと言った。ヴィエラは首をかしげ謝罪の意味が分からない風に、さくさくと歩き出した


 気を取り直して生地を扱う店でカーテン用の布を選ぶことにした。店の主人は以前から懇意にしているようで孤児院と院長の名を出せば、すぐに案内してくれた。


「ねえ、ラウル。どれがいいと思う?」


 色取り取りの生地に囲まれながらヴィエラが聞く。どうせ寝る部屋なのだから黒っぽいので良いかと一番手前の巻取りを差してみれば、適当に選んだでしょ、と見抜かれてしまった。ヴィエラに睨まれて慌てて選択に加わった。


「寝室は光を通さない布がいいんじゃないか?」

「違うわよ。朝になって陽が入ってくるのがいいんじゃない」

「でもこれから寒くなります。そんな薄っぺらじゃ窓際のヤツが寒いかと」


 結果、窓際のベッドで寝ていたことがあるラウルの言が通った。思い出話ついでにヴィエラはどこで寝てたか訊ねたが、『私の時にはベッドなんて無かった』の一言で更に雰囲気が悪くなった。

 森を思わせる深緑の厚手の生地を選んで購入する。買ったものは木札を見せると門外へ止めた馬車に運んでくれることになった。

 仕立て屋に向かう前に一休みする。石畳の中央に噴水があるこの広場は待ち合わせに良く使われるらしい。集まる人目当てに露天が並び、一際賑やかだった。飲み物を買いにいったラウルを待って、ヴィエラは一人でベンチに座った。院長から預かった小袋の紐を開く。さっきの店で支払いの時に見つけた紙切れを取り出してみた。読んでみても意味が分からない。きっと院長のメモが紛れ込んだのだと思い、そのまま仕舞っておいた。




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