03
今後の見通しが立ったので、ハル達はいったん安全な拠点に戻った。
拠点内でも特に大きなテントで、代表者が集まり、急遽会議を開く。それぞれ簡易椅子を持ちこんで、円をえがくようにして座った。書記の前にだけ、テーブルが置かれる。
赤の騎士団は部門ごとに少数の隊で構成されており、その隊長が話し合いに参加して、後で部下に伝達する形式らしい。
「へえ、こういうのって、団長一人で決めるんじゃないんだ?」
「任務中の指揮や犯罪者の処罰ではないんだから、話しあうのが当然だ。独断専行のほうが非効率だよ」
ハルが意外に思って問うと、ユリアスがそう返した。
「上の者は、話を聞いて決断し、時に責任を取るのが仕事だ。その決断が強引になる場合もあるが……反感を買うだけだ。互いに納得しないとな」
「ユリユリってば、年齢のわりにしっかりしてるよねえ」
「王族はそんなものだ」
「そんなものかなあ?」
ハルは会議に参加している面々を見回す。
騎士団は五十人近い大所帯で、ユリアスとハルとフェルを除けば、九人が集まっている。そのうち、十人の職人を束ねているリーダーのロゴスが口を開いた。
「団長のように、有能な方ばかりではございませんよ」
「そうですね。王族は皆様優秀でいらっしゃいますけど、騎士団を束ねるのはまた違いますから」
三十代ほどの女騎士ミネットが、ロゴスに同調する。灰色のショートヘアをしていて、糸目なので分かりにくいが、琥珀色の目をしているのが見えた。斥候を担当している小隊長らしく、他の騎士のような長剣ではなく、ナイフを装備していて身軽そうだ。
「団長は配下の意見を怒らずに聞いてくださる、貴重なおかたなんですよ」
他の小隊の男が言い、彼らはそろって頷く。ユリアスに心酔しているらしいのが伝わってくる。
「ふーん。ユリユリ、すごかったんだねえ」
「尊敬してくれるつもりがあるなら、ユリユリと呼ぶな」
「却下します」
「なんでだよっ」
ユリアスがさりげなくねじこんだ要望を、ハルはあっさりと断る。当然、ユリアスは文句を言うが、ハルは無視して、根本的な疑問を口にする。
「それで、この会議に私も参加していいの? 私は騎士団員じゃないけど」
「あの城は、殿下とハル様の共同名義になっているとおうかがいしております。ハル様に参加権があるのは当たり前ではないですか」
フェルが呆れ混じりに返す。ハルはユリアスを示す。
「お城の名義はそうみたいだけど、あなた達の上司はこっちだからね。私のことは気にしないで。ずっとこの国にいるわけでもないし」
「異世界からおいでになったとか。いつかは帰られるのですか?」
ミネットが好奇心をあらわにして問う。
「まだその辺はあいまいなの。今のところ、用事を終えたら帰るつもりではいるけど、いつになるんだか。女神ちゃんをたくさん喜ばせないといけないからね」
「女神様がお幸せならば、この世界にとっては祝福も同然。使徒様にお会いできて光栄です」
どうやらミネットは信心深いほうらしく、ハルに祈りを捧げる。
「いや、私にお祈りされても、まったくご利益はないから。どうせ祈るなら、女神スポットにしなよ。あそこ、女神ちゃんのいる所とつながっているみたいだからね」
「そうなのですか! 素晴らしいことを拝聴いたしました。後ほど、しっかりと礼拝させていただきます」
目をキラキラと輝かせ、頬を赤らめたミネットはうれしそうだ。他にも何人かがそんな態度になったので、ハルは苦笑する。
「おい、ハル」
そこで、ユリアスがけげんそうに問う。
「帰るのは決定事項ではなくて、お前が決められるのか?」
「女神ちゃんはそう言ってたよ。ただ、帰らないのを選んじゃうと、私は二度と元の世界に戻れないらしいの。だから、さすがに簡単には決められないかな~」
「そうなのか……。というか、そんな大事なことを、その軽いノリで話すなよ。こちらが態度に困るだろうが」
「何よ、重苦しい調子で話せっていうの? やめてよねえ、そういうしみったれた空気は苦手なんだから」
ハルは手をひらひらと振り、フェルに視線を据える。
「とにかく、上司はユリアスで、私のことはぶらついている客くらいの扱いにしておいてください。自分のことは自分でするから、放っておいていいので。冬の間はゆっくり過ごしたいから、しばらく一緒にいさせてね。よろしく!」
ハルがいつもの明るい調子で言うと、フェルは何やら感銘を受けたようだった。
「我らが困らないようにお気遣いくださるばかりか、丁寧にごあいさついただいて、ありがたいばかりです。女神様の使徒だなんて、貴賓扱いで当然ですのに」
「えっ、なんでフェルさんは感動してるの?」
ハルは単刀直入に、ユリアスに問う。
「そりゃあ、お前のような立場なら、傲慢に振舞っても許されるからな」
「郷に入っては郷に従え。最低限の礼儀ぐらい、わきまえてるよ。やだなあ」
傲慢と聞いて思い浮かんだのが、エルドア国王だ。あれと似た扱いをされるのは迷惑なので、ハルは顔をしかめる。
「もう、私のことはいいから。予定を話そうよ」
「ああ。この調子だと、話が一向に進まん」
ユリアスがせき払いをすると、ゆるんだ空気がキリリとしたものに変わる。
ユリアスの視線を受け、フェルは頷いてから話し出す。
「では、会議を始めます。我々の今後の最大目標は、廃城ダウンの立て直しとなります。そのために必要なことは、魔物の討伐、城の修理です。それに平行して、冬支度も進めなければなりません」
フェルの切り出しは簡潔だ。
「早急にすべきことは、安全確保のための魔物の討伐です。ですから、まずは魔物を一掃します。その後、魔物が中に入れないように城門整備をしつつ、内部探査をします。ここまでで何か質問は?」
小隊長の一人が手を挙げる。
「はい。内部に魔物がいた場合、我々も追い詰められるのでは? 内部探査をしてから、城門の整備をしてはいかがでしょうか」
「ええ、そうですね。ですから、整備エリアを拠点とし、簡易式結界維持機を起動させて、安全を確保します」
「なるほど。そのようにすれば、作業が同時進行で円滑に進みますね。納得いたしました」
「他に疑問点がある方は? ……どうやら無いようなので、続けます」
フェルは予定について、話を進める。
「ミネット小隊長、外周の調査についてどうぞ」
「は。大きな出入口は、正門にしかない模様。裏門を探しましたが、そちらは瓦礫で埋まっていました。団長が崩した場所以外で、他に目立った穴はありません」
どうやら斥候の班は、すでに周囲探査を終えていたようだ。
「あーあ、ユリユリが穴なんて空けるから」
「面目ない……」
ユリアスは気まずそうに、視線をそらす。
「爆破や雷系の魔法は禁止ね。凍らせるとか燃やすとか、その辺にしよう」
「分かった」
「しかし、最優先は身の安全ですので。危険と思ったら、気にせず魔法を使ってください。ただし、フレンドファイアには気を付けて」
フェルが口を挟む。
「味方を巻きこむと大損害だもんね」
「俺はそこまで考えなしじゃないぞ」
ハルの含みのある言葉に、ユリアスは言い返す。すねそうなので、その辺にしておいた。
「話を続けますね。外周がその様子ですので、正門を守れば、外からの新たな魔物の侵入は防ぎやすいかと。毎日、外周の見回りをして雑魚狩りをする必要はありますが……」
「フェル、その辺は輪番制にしよう。休憩時間と休日を含めて、シフトを作ってくれ。働き詰めでは、いざという時に体力がもたないからな。これについて希望はあるか?」
ユリアスの質問に、団員は特にないと返す。だが、ロゴスが挙手した。
「ロゴス、どうぞ」
フェルにうながされ、ロゴスはユリアスに話しかける。
「団長の気遣いはありがたいが、冬までたいして時間がない。休みをとるより、急いで終わらせてから後でまとまった休日をとるほうが精神的に楽だ」
「ロゴスの意見も理解できる。他の者はどうだ? 遠慮なく言ってくれ」
ユリアスが周りを見回すと、他の代表もロゴスに賛同した。
「私もロゴス殿に賛成です。この状況では、落ち着いて眠れませんから」
「俺もです。気になって、休むに休めません」
どうやら魔物と冬支度への不安のほうが勝って、逆にストレスになるらしい。
「ふむ。では、休日は無しで急ピッチで作業を進めるとしよう。だが、様子を見て、お前達の疲労が濃いようならば、強制的に休日を入れるかもしれない。それについては理解してくれ」
ユリアスが念押しし、全員の意見がまとまった。
(皆、てきぱきしてて、気持ちがいい人達だな)
ハルは会議を眺めて、なんだか楽しくなってきた。彼らを守るために、ハルも尽力しようではないか。
フェルがハルのほうに確認する。
「ところで、ハル様もシフトに組みこみますか?」
「私は入れないでおいて。危険な所は最優先で行くけど、あとは適当にぶらつくから。でも、安全確保は任せてくれていいわ」
魔物を見つける能力は、ハルがだんとつで強い。飛行の魔法で巡回して、上から魔物を退治すれば速いだろう。それくらいはするつもりだ。
「ハル、危険エリアは俺と行動だからな」
「分かってるよ、旅のバディだもんね」
ハルがふふっと笑うと、ユリアスもにっと口端を吊り上げた。




