第十一話 正々堂々
アステリアとゼルドらしき何かは、お互いに剣をぶつけ合うと後ろに飛び下がった。
ふわっとアステリアは綺麗な着地を決める。
「‥‥あら、折れちゃいました。おかしいですね、一応魔族向けに作ったのですが」
私は折れた剣を見つめる。折れたところから崩れていくこの剣は、『神の祝福』の力を刻んだ聖剣と呼んで今後語り継がれてもいい程の代物だ。
私は相手を睨む。客席にいた生徒たちは悲鳴を上げながら逃げ出した。
「‥‥‥お前弱い。我が見てきた聖女の中で一番弱い。何故」
そいつは不思議そうに指を差しながら首をかしげる。失礼な奴だな。
「さあ‥‥‥能ある鷹は爪を隠すと言いますし‥‥‥そう決めつけるにはまだ早いかと」
「そうか。でもお前は剣が折れた時驚いてた。予想外だということ」
ぐうの音も出ない。確かにそうだ。あれは間違いなく普通の魔族なら殺せたはず‥‥‥ん?普通の魔族だったら?
「我はラグディアス。そこまで強くない」
自分で言うなよ。そういう奴がいっちゃん強いんだからさ。でもラグディアス?ラグディアスってどっかで‥‥‥
「う、嘘だろ‥‥‥?『魔族殺し』の‥‥‥クソ魔族じゃねぇかっ」
「アルト君!?」
噓でしょ。どうしてまだここに。それに思い出した、『魔族殺し』‥‥‥私にさえ勝てるか分からないのに‥‥‥!
「アルト君。早く逃げてください。ここは危険ですよ」
「お‥‥お前が言うなよ!お前だって早く逃げなきゃ‥‥‥!」
あぁもうじれったいな!
私はアルトを蹴った。アルトは宙を舞い客席へと落ちる。その様子を感心したようにラグディアスが見ていた。
「君いい奴。やり方ちょっとあれだけどいいね」
「アンタに言われたくはないけど」
こいつと喋ってると頭が混乱する。最悪だ。でもあいつがこの状況で落ち着けるのは自分が勝てると分かってるから。だから余裕ぶっこけるのでしょう‥‥‥?
そういう奴が一番癪に来る。
「アステリア!!」
「分かっていますアルト君。せいぜい加勢が来るまで‥‥‥こいつをぶった切りましょう」
「否。妄言」
ラグディアスはそう言うと、軽く剣で地面を叩いた。
その途端、地面が割れた。激しい音と共に土の固まりが宙に舞う。視界はすぐに土煙で見えなくなった。
「戦い方きもっ」
「それ誉め言葉」
それにしてもマズイ。相手を戦わせる気にしてしまった。今私は剣を持っていない。『神の祝福』を使うか‥‥?でも、それは‥‥‥
そんなことを考えていると、突如私の足元に剣が一本刺さった。
「正々堂々」
どこからか声が聞こえる。なるほど、変人なりの自己ルールか。
私は剣を掴むと声の元へと一気に飛んだ。
「ふふ‥‥‥どこがだよ」
お互いに剣を打ちつける。激しく打ち合い、また距離をとった。
騎士道としての剣の使い方ではない。壁を切り取り蹴る。背後に回り切りつけようとする。正々堂々の欠片もないこの試合が‥‥‥アステリアの心に火をつけた。
『神の祝福』は出さない。使わない。この勝負はさっきまでやってた生ぬるい試合ではない。自分たちにとっての正々堂々‥‥‥全力の一本勝負。こちらに不利はあれど、やめられない。
思わず笑みがこぼれる。とんでもないリスキーだ。
この殺し合いは。




