瑠麺麭参点伍世(るぱんさんてんごせい)
この小説は、私が文芸部時代に部活で書いたものを一部改訂したものです。
ゆえに多少の表現に拙い部分もあるの思いますが、銀河のような広い心で大目に見てやってください。
昼間、ミンミンヴァンヴァン鳴き喚いていた蝉も、少しはおとなしくなる午後は10時。
俺、小西幸人はまったくクーラーの効いていない自分の部屋で、ヒイヒイ言いながら机に向かっていた。
……理由は聞かないでくれ。只、今日友達とプール行って飯食って帰ってきたのが今の今でたまたま今日この日というのが8月の31日という極めて特殊かつ特別で何にも代えがたい学生にとってはそうまあ端的に述べれば夏休みの最後の一日つまり最終日な感じの一日だったのだ。…それだけだ。
「畜生。すべては仲原が悪い。そうだ仲原だ諸悪の根源は大体全部みんな仲原のせいだ。何かあったら基本仲原が悪いんだ。畜生、3カ月くらい肩凝腰痛偏頭痛で悩めよこの野郎。」
俺が、元々吊り気味の目を更に歪ませ半ば自棄になりながらプリントの上の文字と異文化コミュニケーションをしていると、いきなりガタガタと、窓のほうから音がしてきた。
だがしかし。
俺は振り向かない。否、振り向けない。今はこの明らかなる地球外文字の解読をせねばならないのだ。
ガタガタガタ
「えー……取り敢えず訳解らんな……ああ? なんだこれは。」
ガタガタガタ
「コレなんてもう数学じゃねーだろ。英語だろ、英語。次元が何かもう別の世界だもんな。」
ガタガタガタ
「ああ~、なるほど、感動の再開か!」
ガタガタガタ、
バン!
「あ~あ、開けてほしかったな。俺様この窓をと~~~~~~っっても開けてほしかったな~!!」
俺は携帯を取り出した。取り出して、迷わずボタンをプッシュする。
「あーもしもし夜分遅くに申し訳ありません警察の方でしょうk」
「のーーーん!!」
バシ!!
携帯が何故か俺の手の中から弾き飛ばされた。振り返って見た何故か黒一色の正装をした奴の手の中にはワルサーP38(オモチャ)。奴は「ふっ。」と煙もクソも何も出てねえ銃口に息を吹きかけた後、ひらりと窓枠を乗り越えて俺の部屋に降り立った。
つーかこの部屋一軒家の二階なんだが。どうやって入った。それより、靴はちゃんと脱げっておかーさんに習わなかったのか。
ちゃちいエアガンを胸の前辺りでくるくると回してから背広の下のホルスターに手を払うようにして戻した奴は、足を多きく開いて右手の人差し指を立てて天を指すという、間違った戦隊物の決めポーズのような格好をして、バッチリ俺を見た。微妙に完璧なのがムカつく。きっと昨日徹夜で練習したのだろう。
奴は、キラリと光る黒縁めがねを中指で軽く押し上げながら、ニヤリと笑った。
「やあ、愚民共。俺様の名は瑠麺麭参点伍世。華麗なる21世紀の怪盗さ。見た目も中身も超絶クールだぜ、惚れんなよ?」
「…………。」
俺は家電の子機を取り出した。取り出して、迷わずボタンをプッシュする。
「あーもしもし夜分遅くに申し訳ありません警察の方でしょうk」
「のーーーん!!」
……以下略。
「つーか兄貴、いい加減怪盗ごっこすんの辞めろよ。いい年こいてさ。つーか仕事しろ。いつまでニートでいるつもりなんだよ。」
そう。実はこの変態、認めたくはないが実の俺の兄貴だったりする。余りにも年が離れすぎているため、実際何歳なのかとか一切分からない。
……確かなのは、コイツ俺と同じ親の腹から生まれてきたクセしやがって変態だわ妄想癖はあるわありえない場所から出現するわ就職はしねーわのクセしやがって町中徘徊するかと思ったらいきなり引きこもってパソコンに向かってなにやらかなり危ない事を延々とブツブツ喋り続けるわ、とにかく本当の所絶対俺と血縁関係とは思えないような輩なのだ。
名を、小西明人という。決して、瑠麺麭参点伍世とかいうふざけた名前ではない。自称怪盗の、
自宅警備員(NEEEEEET)だ。
「ごっこじゃねエエエエエエエエ!! テメェ、この俺様に向かってなんてこというんだアアアアアアアアアア!!!」
おっと、一つ言い忘れていた。兄貴は極度のナルシストだ。そして自称怪盗であるとともに、自称神でもあるらしい。相当痛い人だが、生暖かい目で見守っていてあげてほしい。
「じゃー何か盗んでんのかよ、犯罪犯しちゃってんのかよ、え?」
兄貴はこう見えてかなりのヘタレだから、絶対に盗みなんてできない。出来る筈がない。犬も触れない。ネコも撫でられない。鳥にいたっては半径5m以内に入れない。トラウマがあるらしい。………なのに何だ。あの人を馬鹿にしたような笑みは。どうせアレだろ、「美女の心を盗んでいるのさ」とか思ってんだろ。バカめ。
「フッ。俺様は日々美女の心を盗んでいるのさ!」
言ったアアアアアアアアア!! バカだ、バカだよコイツ!!!!
「あら、明君帰ってたのー? ご飯残ってるわよ、食べちゃってねー。」
俺と兄貴の話し声が聞こえてきたのだろう、扉の向こうから母さんが話しかけてきた。
「はーい、ママン♪ すぐいくよぉ~!!」
痛い!! 痛すぎるよ!!! ルックスは決して悪くはない、むしろ良いほうなのだが、こんなにも見ていて目が腐っていくような気分になるのはどうしてなんだろう。
「今に見てろよ、ゆっきー。俺様はでっかい男だから、なんかスゲーことやって、ぎゃふんと言わせてやる!! IT企業とかな。」
捨て台詞にしか聞こえないような事を叫びつつも、兄貴は怪盗とか言ってる割には普通に部屋を出ていった。
「つーかゆっきーって何だよ……。」
……アイツまさか、ファザコン(おもひで)、マザコン(げんざい)ときてブラコン(みらい?)になりそうなんじゃないだろうな? ありえねーぞそんなの。ファミリーコンプレックスなんて聞いた事ねえよ。略したらゲーム機になっちまうじゃねえか。
「……ハッ、ありえね。」
俺は一つ、大きく息を吐くと、ふと時計に目をやった。
「は、え!?」
短針が示すのは、紛れもなく「11」の文字。課題はほとんど目も通されてないような状況。
「……も、どうにでもしてくれ………。」
俺はプリントの山に顔を埋めた。
<了>




