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最弱の英雄は最強のゴーレムに出会う

久々の投稿です。

本作は中編で最後まで書き終わっているので、空いた時間でも気軽に読んでいって下さい。






「あばよハルト。地獄で達者でな」

「待ってみんな、僕はまだ―――」

「いい加減聞き飽きたんだよ、その言葉は」


 暗い暗い洞窟の中、世界の平和を脅かす魔物の王『魔王』を倒す為に立ち上がった旅の一行のリーダーであり、人類に救いをもたらす勇者『アレク・ハワード』によって僕は崖に突き落とされた。咄嗟に皆に助けを求めた僕だったが、皆が僕に向ける目は冷ややかなものだった。


 わかってはいたが、実際にこうなると悲しいものだ。

 剣聖『ザック・ランド』は救えない者を見るような憐れみの視線を、聖女『サラ・クレメント』は汚物でも見るような軽蔑の視線を、そして僕の幼馴染みであり許嫁でもあった賢者『カミラ・モーガナ』は期待外れとでも言うような冷ややかな視線を。

 ただ一人、勇者アレクだけは笑顔で、僕が居なくなることを心から喜んでいる事がよくわかった。


 誰も助けてはくれない。


 背後から真っ逆さまに落ちていく僕は、今までの旅路を思い出す。平和だった世界に突如として『魔王』なる生き物が突如として現れ、人々の平和を脅かし始めたあの日の事。魔物達に故郷を焼かれ、復讐に燃えていた僕と、幼馴染みで許嫁のカミラが揃って人類の希望として選ばれたあの日の事。


「(最初はまだ良かったんだ)」


 己の肉体を武器にして戦う剛の者『武聖』に選ばれた僕は、人々の平和を守るために集まった彼等と共に魔王討伐の旅に出た。

 皆が各々の特別な武器を手にして戦う中、一人素手で戦っていた僕だったが、最初こそは魔物にも十分に対応出来ていた。だが、魔王率いる魔王軍の本拠地が近付くにつれて現れる魔物は急激に強くなり、真っ先に対抗できなくなったのが僕だった。それでも、対抗できなくなったばかりの頃は、まだ皆からの扱いは悪くなかったと記憶している。限界を迎えたのは、ある魔物との戦いの後からだ。


 魔王軍の本拠地に近付きつつあった僕たちは、ある日途方もなく巨大な魔物の襲撃を受けた。天を突く程の巨躯に、鉄の鎧の如き筋肉。恐らくはリザードマンの一種だろうと思われたその魔物は恐ろしく強く、皆は苦戦させられた。だが、中でも特に相性が悪かったのが僕だ。

 ひたすらにパワーバトルを仕掛けてくる魔物に、己の肉体を武器に戦う『武聖』。圧倒的に力の足りていない僕はまるで魔物に対抗する事が出来ず、あっけなく倒されてしまったのだ。

 元より『武聖』と言うには力が足りていないと感じていた僕だったが、やはりその通りだったらしい。他人よりも頑丈な肉体を持っている自負はあったが、精々その程度。むしろ体内に内包した魔力量の方はカミラやサラよりも多く、肉体そのものよりもずっと優れている部分だったと思う。ただ、致命的なまでの魔法の才の無さのせいで、その膨大な魔力も宝の持ち腐れでしか無かったが。


 僕が魔物との戦いで大きく遅れを取るようになってから、仲間内での僕の扱いは目に見えて悪くなった。作戦会議では僕の意見を取り入れたくないのか徹底した無視が行われ、今まで分担していた雑用を全て押し付けられるように。魔物との戦いでは肉壁のような扱いを受け、治療はろくにして貰えない。極めつけに許嫁だったカミラはいつの間にか勇者アレクと恋仲になっており、自身はもう必要の無い存在になったのだと痛感させられた。


 何故自分は『武聖』などという大層なものに選ばれたのか、今でもわからない。もっと、自分よりも強く、相応な人物が居たのではないか。カミラとの事だって、許嫁なんて所詮親が決めた約束。僕は彼女を愛していたが、彼女もそうであったとは限らない。僕では無い誰かを選ぶのも当然の事。

 そう考えている内に、自分を突き落とし、そして見捨てた彼等の事も憎めなくなっていた。あれだけ足を引っ張ってしまっていたのだから、恨まれるのも当然の事。重力に身を任せ、いずれ訪れる死を甘んじて受け入れようと、かえって心穏やかになった。


 そして目を瞑った瞬間―――



 ガ………ゴゴゴゴ………



 ―――暗い地の底から、唸るような低音が響いた。
















「………あ、れ?」


 目が覚める。

 気付くと自分は地面に横たわっていて、相変わらず洞窟の中なのか周囲は暗いままだった。


「なん、で? 生きてる……」


 その事実に酷く落胆した。あの時点で酷い自己嫌悪に陥っており、崖から落ちている途中では死ぬことすら望んでいた。だと言うのに、この身体には崖から落とされる前に既についていた傷ぐらいしか傷らしいものは無く、無事そのものだ。

 とりあえず周囲の様子を確認しようと起き上がると、腹の上に何かが乗っていたらしく小さなものが転がり落ちる。見るとそれは手首にぴったりとはまるサイズの腕輪で、随分と古いもののように見える。


「腕輪? かなり古い魔法が施されてるみたいだけど………何の魔法かわからないな。それに、誰がこれを僕に?」


 腕輪を手に持って立ち上がると、すぐ近くに何かとてつもなく巨大なものがある事に気付く。一瞬ぎょっとしたものの、それが全く動く様子を見せない事に疑問を抱き近付いてみる。


 それは現代の技術では作るのが不可能な程に巨大な、鉄のゴーレムだった。鉄の巨人はその場に片ひざをついた姿勢で停止しており、魔力切れを起こしたのかその眼に光は宿っていない。


「君が、僕を」


 僕を助けてくれたのはきっと彼だ。そして、今手に持っている腕輪を僕に乗せたのもきっと彼。

 どうして彼がこんな所にたった一人で居るのか。どうして僕を助けてくれたのか。どうして謎の腕輪を僕に預けたのか。


 理由はわからないが、彼が僕を助けたお陰で僕は死にたいのに死ねておらず、助けられた以上命を無駄にする事も出来ないという宙ぶらりんな状態になってしまった。


「どうしよ……」


 今さら魔王討伐の旅についていこうにも、実力が足りていないのはわかりきっている事だし、そもそもこの崖を上がって地上に戻る事なんて生身では到底不可能だ。


 これからどうしたものかと悩んでいると、突然手に持っていた腕輪がブルブルと震え始め、僕の手から離れたかと思うと勝手に右手首に装着される。慌てて外そうとするが、見た目よりも遥かに頑丈でびくともしない。

 呪いでもかけられている装備だったのかと、腕輪を外すのを諦めて肩を落としていると、今度は腕輪が輝きを放ち始めた。輝きと共に腕輪の表面に次々と文字が刻まれていき、僕は食い入るようにそれを見つめた。



『我が名はタイタニス。破壊の頂点に立つ者』




読んで頂きありがとうございます。

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